会社での経験を“神社ビジネス”に生かす――街おこしのキーマンは「神社経営の変革者」(中編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(3/3 ページ)

» 2008年04月11日 19時29分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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知られざる神社経営の世界――忍び寄る廃墟化の兆候

 「現在日本全国に、神社は約8万社あります。しかし戦後の日本では、GHQの占領政策もあり、民主教育の名の下に神社を含む日本の伝統的な文化・宗教・習俗を、戦前戦中の侵略主義・軍国思想に繋がるものとして排除し、次の世代に伝えようとしませんでした。その結果、いま、深刻な問題が発生しています。

 まず第1に、日本人が日本について知らなすぎるということ。グローバリゼーションが進み、かつてないほどの数の日本人が世界各国に出て活躍するようになっていますが、日本人ほど日本のことを知らない国民はいないと言われる状況になっています。当然、愛国心など培われてはいません。これは国際的に見てもたいへん恥ずかしいことですし、本当に残念でなりません。

 第2に神社の経営です。戦後のそうした風潮の中、神社の経営は非常に厳しいものとなっており、遠からず、倒産する神社が続々出てくることが予想されています。神社は基本的には古い施設なので、維持・修復には多額の費用が必要です。ところがそれをひねり出すことが難しくなっているんです。

 神社本来の収入源は、祈祷や挙式の収入などです。しかし、現実には、そうした「本業」以外の、例えば駐車場の利用料金など地代収入に依存しなければ神社社殿を維持運営できないところが、特に都内では増えています。

 一方、そうした地代収入を見込めない地方の神社では、後継者不足が進み、一人の神主が20〜30もの神社を見るような『兼務社』が増えているほか、神主だけでは生活できないために教師や公務員をしながら神社も見る『兼業者』も増加しています。そうしたところは、今後、早い段階で手を打たないと、倒産・廃墟化の道を歩むことになりかねません。

 これは言い換えると、日本の文化・歴史の基盤が崩壊することを意味しています。そうした危機感を、神主自身も持つ必要があると思うのです」

伝統は革新によってこそ守られる

 これまでの連載で、経営には、どんなに環境が変化しても決して変えてはいけない部分(=「不変」の対象)と、環境変化に即して大胆に変えてゆかなければいけない部分(=「革新」の対象)があるということを述べてきた(参照記事)

「不変」貫徹力・低 「不変」貫徹力・高
「革新」実現力・高 迷走タイプ
(不祥事が発覚する企業・多)
卓越タイプ
(変わらずかつ革新的であり続けるのは難しい。少数)
「革新」実現力・低 存続困難タイプ
(方向性が定まらず環境変化への対応力に欠ける。自滅への道)
時代遅れ・衰退タイプ
(老舗ではあるが、客足が遠のいている。衰退への道)
「不変」と「革新」のマトリクス (C)H.Shimada, 2008

 そういう文脈で見るならば、歴史と伝統に根ざした神社の世界は、「不変」を貫徹しようとするあまり、「変えるべきこと」の存在を忘れた「時代遅れ・衰退タイプ」になりやすいと言える。

 「伝統は革新によってこそ守られる」ことを知る恵川氏は、“不変の貫徹力”と“革新の実現力”を併せ持つ「卓越タイプ」になるべく、赤坂氷川神社に入っていったのである。

 彼のミッション(使命)は明確だった。それは、「神社の良さを次世代に伝え、神社というものをきちんとしたカタチで残してゆくこと」。果たして、恵川氏は、辣腕を振るえたのだろうか?(後編に続く)

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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