米国人は「残酷ネタ」で笑う?ロサンゼルスMBA留学日記

» 2008年04月07日 13時21分 公開
[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 今回のテーマは、米国でちらほら見かける「残酷コンテンツ」について。まったくの私見であり、統計上の裏付けはないが、米国では日本よりも残酷・過激なコンテンツが比較的多く存在する印象を受ける。どんなモノを見てそう思ったか、という話を紹介する。

話題になったサウスパークの「ブリトニーネタ」

 米国留学を始めてすぐの頃、テレビアニメで登場人物が“グチャッ”と殺され、それがギャグ扱いになっているのを見て、少々驚いたことがある。もちろん日本でも、芸人が叩かれたり殴られたりしてそれがギャグになることは多いが、登場人物が「鮮血ほとばしって」死亡し、それが笑いにつながるという事実に、文化の違いを感じたものだ。

 最近でいうと、米国の有名アニメ「サウスパーク」(South Park)のブリトニーネタが、なかなか衝撃的だった。サウスパークといえば、シニカルな子供たちを主人公とする米国の人気アニメ。主人公は子供ながら、会話の端々に辛らつな社会風刺ネタが含まれており、大人向けアニメとして認識されている。なにしろ、ポケモンのパロディとして「チンポコモン」(Chinpokomon)が登場し、子供たちがこぞってそれを欲しがる、といった具合だ。内容がぶっ飛んでいることには定評がある。

 サウスパークはこれまでもパリス・ヒルトンやトム・クルーズといった有名人を“ネタ”にして、散々からかった(コケにした)という“前科”をもつ。今年3月には、ネタにするには今が旬(?)のブリトニー・スピアーズをテーマにしたエピソードが放映され、一部ネット上で話題になっていた。この内容がまた、ちょっと子供には見せられないくらい残酷、というかグロテスクなモノだった。

 若干ネタバレとなるが、なにしろパパラッチたちに追い回されたブリトニーが、絶望のあまり銃を自分に向けて自殺を図る。病院に運ばれ、一命を取り留めたと思ったら、なんと頭の半分が吹き飛んでいる。これで「一命をとりとめた」はずはないのだが、そこはアニメの世界のこと、ブリトニーは頭が半分ない状態でステージでダンスを踊ったりする。「彼女はLip Sync(口パク)しているよ」「というか、唇(Lip)なんて吹き飛んでいてないよ」というギャグが飛び交うのである。なんという世界観なのだろうか。

 断っておくが、この回は個人的には大変面白かった。これまで見たサウスパークのエピソードの中でも、抜群のできだったと思う。随所にパンチの効いた皮肉が散りばめられ、またとてもグロテスクだった。「これを普通に番組として流していいんだろうか」と思ったほどだ。

 ちなみに同番組は、日本ではR指定。米国ではエピソードにもよるが「TV-14」(14禁)というレーティングで放送されているようだ(原作はComedy Centralというケーブルチャンネルで配信されているが、これに手を加えたりしてほかの放送局でも放送している状況。一般にケーブルチャンネルより地上波放送のほうが放送規制が厳しい)。

 まあ、サウスパークという極端な例を取り上げて「米国のコンテンツはみな残酷だ」と決め付けるのは暴論だろう。しかし、このほかにも残酷なコンテンツは存在する。

チェーンソーで「ぶった切り」にする銃撃ゲーム

 先日学校で、ゲーム業界関係者がゲストスピーカーとして登場し、業界の最新動向をレクチャーするという授業があった。ソフトウェアの開発費と損益分岐点の関係など、いろいろ有意義な話が聞けたのだが、少し気になるポイントがあった。講師がプレゼンテーション中、実際にいくつかゲームをプレイして、紹介してみせてくれたのだ。

 彼が取り上げたのは、Xboxで大ヒットした「HALO」によく似たスタイルの、3Dシューティングゲーム。どうやら舞台は戦場のようで、向こうから敵兵士が障害物に身を隠しつつ、攻め寄せてくる。これをプレイヤーがさまざまな武器で撃退するというもの。

 ここで講師が、ちゃめっ気たっぷりに「チェーンソーで敵を殺すと、すごいよー」と言う。その後、実際に敵をおびき寄せ、チェーンソー攻撃を発動すると画面には、なんと敵兵士がチェーンソーでぶった切りにされ、真っ赤な血しぶきをあげながら崩れ落ちるグラフィックが表示された。爆笑する生徒たちを見て、筆者はドン引きだった。

 もちろん、「It's horrible...(ひどい)」とつぶやいていた女子生徒もいたから、一概にみんなが「残酷好き」と決めつけるわけにはいかない。しかし「そこで笑いが起きるか!?」と思ったのもまた事実だった。

 ゲームに関しては、米国で大人気のゲーム「Grand Theft Auto」の例を上げることもできる。これはその暴力性が一部で問題視され、日本での発売時にも話題になっていたゲーム。実にシリーズ数千万本の売上げを誇る、日本でいうとドラクエ・FFクラスのお化けタイトルだ。講師によれば、アジアよりも欧米での売上げが凄まじいらしい。主人公は街のチンピラで、一般市民を無差別殺人に巻き込んだりすることも可能だから、親が幼い子供にプレイさせたくないゲームであることは理解できる。

 これだけ売れているのだから、優秀なコンテンツであることは間違いなく、Grand Theft Autoの面白さの源泉が“暴力性”だけにあるということもないだろう。ただ、改造キットを使えばセックスミニゲームがプレイ可能、わいせつシーンは元からゲームに組み込まれていたなど、とにかくお騒がせなゲームであったことは確かだ。こういうことを言うと「ドラクエにも『ぱふぱふ』があるではないか?」という議論になるかもしれないが、とにかく、登場人物が「ぬわー」とか「ウボァー」とか、どこかツッコミどころを残して死んでいくタイプのゲームと比べると、やはり過激度というか「荒みかた」が異なる。

 若干話がそれることを承知で、もう1つ言及したいのは「ポスタル」だ。これは残酷洋ゲー(洋物ゲーム)の代表格みたいに言われているものだが、主人公がひたすら街中で人々を無残に殺害するアクションゲームとなる。本当に、フォローのしようがないぐらい殺しまくりである。無辜の市民に火をつけて焼き殺したりもできる。「自殺」コマンドも用意されており、これを選択すると主人公は銃を口にくわえて自殺する。日本でもゾンビを銃で過激に撃ち殺すようなゲームは存在するが、ポスタルと比べればその残虐度はだいぶ軽度といえる。

別に残酷が悪いわけではない

 ここで改めて、言葉を選びつつ説明しておきたいが、何も筆者は、残酷ゲームを悪いといっているのではない。また、米国のコンテンツは残虐なものばかりだというつもりもない。経験上、いくつか個人的に残酷に思えるコンテンツを見聞きして、日本とのカルチャーギャップを感じているだけだ。

 複数のコンテンツ業界関係者から聞いた話だが、コメディ関連のコンテンツは、海外に配信すると失敗する確率が高いそうだ。笑いの感性は、国によって非常に異なるからというのがその理由となる。米国に住んでいて、残酷な描写を含んだ“笑い”をいくつか目にした。それは日本の感性は異なるのではないかと、個人的に興味を持って捉えている。

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