グロービス・マネジメント・スクールで教鞭を執る、小西賢明氏による新連載。マーケティング分野・新規事業分野を中心にプロジェクト支援や企業アドバイザーなどを務めてきた知見を生かし、巷の気になる商品・サービスのマーケティング戦略について、独自の視点で分析する。
※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2007年10月17日に掲載されたものです。小西氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。
「うちの会社はマーケティングが弱いよね」「僕はマーケティングの仕事に就きたいんです」「当該事業の展開にあたってマーケティング戦略的には……」
多くのビジネスの場面で、「マーケティング」という言葉が何気なく会話に織り込まれる。
確かに耳障りよく、ぱっと聞く分には、素敵で真面目な印象を与える言葉。だがしかし、この言葉の真意は本当に正しく世の中に共有されているのだろうか。
「マーケティングって、何?」―――。
この質問は、「幸せって、何?」という問いかけと同じくらいに難しい。100人いたら100人の、100社あったら100社それぞれのマーケティング論が返ってくる。そんな極めて曖昧模糊なる概念だ。
例えば、ドデカイ投資で社運がかかっている事業のそれと、超ローリスク・ちょこっとリターンだけれど、面白そうだからやってみようという商品のそれとでは、議論の力点は自ずと大きく変わってくる。大企業で関係各所を調整のうえ方向性を意思決定していくそれと、身銭で自ら商売をしている人のそれとでも、議論の力点は、やはり自ずと大きく異なる。扱う商材や、立案する人の立場によって力点が異なるゆえに、個々のマーケティング論に差異が生じるのは仕方のないことではある。
ただ、商材・立場が違っても、普遍性の高いマーケティングの概念は抽出できる。それは、「お客様に想いを馳せ、わざわざ売り込みに行かなくても、お客様自らが購入しに来てくださる状況を作り上げること」だ。
例えば、ピーター・ドラッカーはこう言った。「マーケティングの目的は、販売を不必要にすることだ。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ」。マーケティングの本質を突いた至言だと思う。
では、「わざわざ売り込みに行かなくても、お客様が購入しに来てくださる状況」って何だろう? 行列のできるラーメン屋、行列のできるドーナツ屋、好例は色々と思い浮かぶが、その中の1つが、例えば「スターバックスコーヒージャパン」(以下、スタバ)であろう。
日本ではサザビーリーグ(以下、サザビー)が導入時の展開をリードしたといわれる同店は、「KIHACHI」や「Afternoon Tea」といったブランドを育て広げてきたサザビーならではの手腕が大いに発揮され、米国本国でのブランドコンセプトを棄損することなく、参入当時、日本の喫茶市場に新しい息吹を吹き込んだ。
タリーズコーヒージャパンなど、2番手・3番手の企業が続々と生まれ大きくなっている現在、スタバに対する好意の度合いは人それぞれに異なるところがあるかもしれないが、新しいコーヒー文化を築き、「売り込みに行かなくても、お客様がご購入しに来てくださる」状況を一定以上、維持していることに異論はないだろう
ではスタバのマーケティングは既存の喫茶市場のおけるそれと、何を異にしていたのだろう。どこが優れていたのだろうか。様々な点に想いを巡らせながら、是非、熟考してみてほしい。
例えば、
ここでマーケティングについて学び知っている方であれば、気付かれたのではないだろうか。上記は何となく考えているようで、何となくに非ず。マーケティングに想いを巡らすときには流れがあり、型がある。それが、
「環境分析」→「セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング」→「マーケティング・ミックス(4P)」という「マーケティングの流れ」だ。
思いは様々な視点で巡らすべきだが、脈絡のない思いつきの連続では、思索が迷走してしまう。最終的には1つの筋の通った流れに帰着させる。だからこそ、「いける」と思える。思いついたヒラメキを仮説検証しつつ、1つの筋の通った戦略に落とし込むことが、マーケティングに携わる人全般に必要な基本動作となる。そう思うとスタバの戦略は、時勢や競合状況、ターゲット層や目指す価値、そしてその具現化としての4Pが、一連通して見事に合致している。筋が通っているからこそ、それが偶然に得た成功でないことに納得させられる好例である。
しかし、そのスタバが最近、ちょっとオカシな商品を出している。
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