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» 2008年03月28日 20時23分 UPDATE

脳科学者が解説:茂木健一郎が語る、脳と貯蓄の関係

なぜ人はお金を貯めようとするのだろうか? 「それは楽観主義という脳の働きによる行動であり、決して悪いことではない」と脳科学者の茂木健一郎氏は話す。貯蓄行動の根底にある脳のメカニズムとは?

[土肥義則,Business Media 誠]

 「脳」と「金融行動」にはどのような関係があるのだろうか? 例えば、なぜ人間はお金を貯めようとするのだろうか? 脳と心の問題を研究している茂木健一郎氏は、人間の感情などをコントロールする前頭葉と、貯蓄をするという行動に密接な関係があるという。3月25日に開催された「ソニー銀行預金残高1兆円記念セミナー〜『アハ体験』で出会う新たな世界〜」で、茂木氏は脳内メカニズムとお金について語った。

楽観主義で知らず知らずのうちに貯蓄

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 「金融機関の歴史は合併だ」という人がいる。確かに業務の効率化を図るため、金融機関は合併を繰り返してきた。さらにバブル崩壊後には金融再編が加速し、多額の不良債権を抱えた金融機関は破たんや吸収合併などによって、次々に姿を消していった。

 「昔の銀行は格調高いものだった。重厚で堅い商売をしていて、初めて預金通帳を作ったときにはドキドキして、大人の世界に一歩足を踏み入れたような気持ちだった」と振り返る。

 既存の金融機関が不良債権処理に追われる中、ネットを使った銀行が誕生していった。店舗を持たず、通帳は発行しない――。一般的にネット銀行は、人件費などのコストを削減することで手数料を安くし、預金金利を高くしている。

 「かつてのネットは危ういものだった。ネットをビジネスに使うことに『反対』する人もいて、『銀行業は信用が必要なのでネットは使えない』という声も多かった。しかし今では、ネットは経済活動の中心にある」。そしてネットと金融は、もはや切り離せない存在になっている。

 店舗を構える金融機関であろうと、ネット銀行であろうと、人はどこかにお金を預け続けていることは、今も昔も変わらない。なぜ金融機関にお金を預けるのだろうか? 何かを購入するという目的がなくても、定期預金や積立をする人は多い。

 その理由を、茂木氏はこう説明する。「貯蓄をするということは、未来に投資をするということだ。未来が明るいものだと思っている――つまり楽観主義をコントロールしている前頭葉の働きによって、貯蓄をしているのだ。

 『あと何年生きると思いますか?』という質問の調査があり、その結果を見ると、多くの人は平均余命よりも、自分は長く生きると思っている。平均余命の統計からすると、人間が考えていることはおかしい。また『宝くじに当たる確率はどれくらいあると思うか?』といった調査をしたら、実際に当たる確率よりも、『自分が当たる確率は高い』という結果が出る。

 さらに将来起こりうる辛いことと楽しいことを思い浮かべると、多くの人は『楽しいことが、辛いことよりも先に訪れる』と回答する。こうした人間の答えは楽観主義に基づくもので、『根拠のない自信=成功する』『未来は明るい』と考えるのは、悪いことではない。つまり預金をするということは、まさに根拠のない自信といってもいい」

 10年後に自分が生きているかどうかは、誰にも分からない。それでも貯蓄をするということは、未来に投資することで『自分に楽しいことがある』と考えているからだ。人は楽観主義によって、知らず知らずのうちにお金を貯めるという行動をしている、と茂木氏は指摘する。

人にとってお金は安全基地

 日本の経済成長率を振り返ると、1956年度から1973年度までは平均9.1%、1974年度から1990年度は平均3.8%。しかし1991年度から2006年度を見ると、経済成長率は平均1.3%まで低下している。現在は大企業を中心に好決算を出しているが、まだデフレから脱却できていない。またさまざまな格差の問題があり、こうした環境が人間の脳に悪影響を与えているという。

 「今の時代だからこそ、楽観的にならないといけない。脳の働き方からして、楽観的でないと最高のパフォーマンスができないからだ。とはいっても人生というのは、不確実性から逃れることはできない。例えば米国の経済は絶好調だったが、サブプライムローン問題という不確実性から逃れることはできなかった。個人の生活も同じで、将来のことは分からない。しかし『不確実性を楽しみだ』と思うか、それとも『不安だ』と思うかで、パフォーマンスは大きく違ってくる」 

 しかし「できれば不確実性から逃れたい」「安全な所に逃げたい」など、辛いことから避けたい、と考える人も多い。こうした人には、幼少期の頃を思い出すことを勧める。

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 「子どもの頃は、『根拠のない自信』に満ち溢れていたはず。ヨチヨチ歩きをしている子どもが、歩くのを怖がっていては成長することはできない。しかし親という“安全基地”があれば、不確実性に適応することができる。これは大人も同じことで、不確実性に不安を感じるのは安全基地がないからだ」

 それでは大人にとっての安全基地とは、何を指すのだろうか? 茂木氏は「経験、価値観、人脈」などが安全基地になるという。不確実なものに不安を感じている人は、一度、自分の安全基地を見直してみるといいだろう。そして「確実なものと不確実なものを、うまく受け入れるバランスを保つことが大切だ」と話す。

 また茂木氏は、安全基地の1つにお金を挙げる。「お金がなければ人間は不安になる。ということは、お金を預けることで、人間は前向きに生きることができるのだ」という。

お金を貯めることの大切さを知る

 英国のケンブリッジ大学に留学していた茂木氏は、そこで資本の重要性を知った。実はケンブリッジ大学は不動産業を営んでおり、その収益で学校を十分に運営できる。そのため大学の教授は「学問の自由」の下、研究に没頭することができるという。

 一方で日本の大学では、「お上にお金のことを頼めばなんとなるのでは」という考えの人が多い。しかし「これは悪い癖。学問の自由を支えるのは資本であって、お金を貯めることがいかに大切であることを知らなければならない」

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 日本では、学校教育(高等学校まで)で金融のことを学ぶ機会は少ない。ただ単にお金を殖やすということだけではなく、お金を持つことで「人生のオプションが増えることを知る必要がある」と強調する。一方で「お金は権力が伴い、悪い側面もある。お金は万能であっても、良いモノであるとは言い切れない。ただお金をどう使うかによって、人生が設計されるので大切にしてほしい」と話した。

 「お金を貯めるということは未来への投資」という茂木氏。こうした行動の根底には、「楽観主義という脳の働きがあるため、決して悪いことではない」という。もし不確実な出来事に不安を感じていれば、お金という安全基地を見直して(貯めて)みてはどうだろうか。

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