まだまだ修行不足、“女を知る”は難しい郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

» 2008年03月27日 13時11分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

 マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・運営、海外駐在を経て、1999年よりビジネスブレイン太田昭和のマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。現在、マーケティング・コンサルタントとしてコンサルティング本部に所属。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 「マーケティングとは女性を研究すること」――これは筆者のモットーでもあり口ぐせでもある。人口統計上は男女は半々だが、消費のカギを握るのは女性だ。一見して“男”の買い物でも、その影には“女”あり。男女別市場規模なるデータはおいそれと手には入らないが、衣食住健美いずれのジャンルにおいても女性が消費を牛耳っているのは間違いない。

 男女の消費性向の違いは何か? ひとことで言えば、男は名詞で消費し(ニーズ=機能、効率、便利)、女は形容詞で消費する(ウォンツ=楽しい、おいしい、美しい)。名詞は角があるのでつかみやすいが、形容詞は丸っこいのでスルリと逃げる。だから女性消費の研究は難しいのだ。

 マーケティングを学ぶということは、“女をくどけるようになる”ことでもある。かくいう筆者の戦果は聞かないでほしい。ボロが出てしまう。

身体は女子で、心は男子なる人

 そんな筆者のモットーに揺さぶりをかけたのは、同僚のMayuさんだった。仮名で登場していただくのに風体を説明するのは反則だが、彼女はとても“女っぽい”人である。笑顔はかわいらしく、化粧品はゲランを愛用し、エステに通いネイルもばっちり。傘1本にも女性らしい色づかいとデザインのものを選ぶ。“寄せて上げる”必要がない豊かな胸もある。さらにある愛玩系動物が大好きで、バッグやマグカップまで、その動物キャラクターでいっぱいなのだ。

 そんな彼女だから、男の多いオフィスに現れてはオンナの香りを炸裂させて、中年管理職をトリコにする。まさに女子全開である。だが彼女、オモテの女っぽさとは裏腹に、心には“男”が棲んでいるのだ。頭脳明晰で意見はしっかりしており、プロジェクトは冷静沈着に動かし、女子とは群れず、独りで行動もするし、メンバーが納得するまで話し合う。また「何か食べて帰ろうか、おごったるよ!」と面倒見もいい。女子なる外見と男子なる思考とのギャップは大きい。

同じアンタイトルでも180度違う目的で買う

 そんな彼女と食事をしていると、あるハキハキした若手女子社員の話になった。「郷さん、○○さんて知ってる?」「いや。どんな人なの?」「彼女、ホントに体育会系なのよ。朝礼でもすっごく大きな声を出してあいさつするし、まるで女じゃない。私と同じUNTITLED(アンタイトル)のジャケットを着ていても、彼女が思うアンタイトルと、私の思うアンタイトルは、まったく違う服なのよ」

 “まったく同じ服なのに違う”とは、どういうことだろうか? 「同じアンタイトルのジャケットを、ある人は“女性らしさ”で着る。でもある人は女性らしさより“しっかりした女性”をアピールしたくて着る。そんな感じ?」と聞いたらMayuさんはうなずいた。

 「でも、商品をどう思うかは消費者の自由じゃないの?」と聞くと、Mayuさんは「問題はね、見た目が女で、心が女という女性もいれば、見た目は女だけど、心は男という女性もいるってことなの。同じ洋服を買うとき、180度違う目的で買うのよ」と指摘する。

 同じ購買でも180度違う? 筆者は何かに「ドカーン」と打たれた感じがして、ヨロヨロと胸の手帳を取り出し、マトリクスを描いた。

心と見た目のマトリクス

 タテ軸は、見た目が女っぽいか男っぽいかという“見た目軸”。ヨコ軸は“心が男”か“心が女”かを表す。同じ商品を購入するのでも、Mayuさんは見た目女子、心は男なので、マトリクスの左上にポジショニングできる。一方、見た目が男子、心も男の場合を“A女”とすると、左下にポジショニングできる。

 「こういうことかな?」とMayuさんに聞くと、「ええ。でもひょっとするとA女はこっちかもしれないわ」とA女を右にずらした。

 A女は見た目では男を演じているが、実は内側には女子の心を持っている。フェミニンな自分を隠したままに育ち、成人した今それをアンタイトルというブランド購買で表現したい。Mayuさんはその逆で、内側の男子を外側の女子でカムフラージュするのだろうか。

 思いあたるフシはある。見た目はファッショナブルなのに『ゴッドファーザー』を映画史上の最高傑作という女性もいる。黒やグレーのスーツが似合いクールにキメているのに、『群ようこ』を読みふける女性もいる。携帯電話をスワロフスキーでゴージャスに飾るからと言って「カワユイなあ」と思っても、実はくわえタバコで自転車に乗る女性かもしれない。男性諸君、だまされないように気をつけよう。

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