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» 2008年03月24日 14時06分 UPDATE

ロサンゼルスMBA留学日記:700MHz帯オークションでVerizonに破れたGoogleは「幸福な敗者」なのか

米国で700MHz帯を巡る競売が行われた。移動体通信事業者にとって非常に重要なこの帯域、しかし勝ったベライゾンが不幸そうなのに比べ、敗者Googleは余裕綽々。「一般の消費者たちの勝利だ」というGoogleのコメントの真意は……?

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 米国で700MHz周波数帯(無線周波数帯)をめぐるオークションが終了した。米Googleと米Verizon Wirelessの一騎打ちで注目を集めたCブロックを制したのは、Verizonだった。

 結果だけ見ればGoogleの単純な敗北にも見えるが、ことはそう単純でもないようだ。「ある意味、Googleの勝利とも言える」という声が一部で上がっているほか、当のGoogleは「一般の消費者たちの勝利だ」――とする、なんとも不思議なコメントを発表。これはいったい、どういう意味なのか。

オークションプロセスと「勝者の呪い」

 今回競売にかけられた700MHz帯は、モバイル事業者ならのどから手がでるほど欲しいものだ。日本でも800MHz帯の配分を求めてソフトバンクが総務省に猛烈な主張を展開したことがあったが、そのとき論点となったように700〜800MHzといった比較的低い周波数帯は、建物を回りこんで電波が届きやすい。このため、携帯電話などのモバイル通信サービスに向いている。つまり事業者からの需要は高く、オークションの落札価格が高騰しやすい、ということでもある。

 今回、Verizon Wirelessが落札のために注ぎ込んだ金額は、実に数十億ドル(日本円にして数千億円)の規模にのぼる。そもそもFCC(米連邦通信委員会)が設定した最低落札金額からして、46億ドル。落札者であるVerizonがこれを上回る値を付けたのは確実で、米調査会社のStifel Nicolausによれば、総額は96億3000万ドルだという。為替レートにもよるが、約1兆円に達する。

 無線周波数帯をオークションにかける、いわゆる「帯域オークション」は過去にも例があるが、こうした落札金額の高騰がネックになることが多い。無線事業者が落札のためだけに多くの資金を消費し、肝心のサービスに回す資本が足りなくなる事態が懸念されるわけだ。実際、日本でも2.5GHz帯がWiMAXなどの新規サービスを提供する事業者に割り当てられたが、このときオークションは実施されていない。

 経済学の世界では、オークションに勝った人間が「あれだけ高い金額なら、やはり落札しないほうがよかった」と悔やむ事例を「Winner's curse」(勝者の呪い)と呼ぶ。結局のところ、落札者が得られるメリットがコストを上回らないことには、最終的な利益は出ない。入札者にとって無線周波数帯が、数千億円の価値があるものなのか。そこを厳密に見極め、ほかの入札者が落札してしまったときの「負の影響」も考え合わせた上で勝負に出なければならない。単純に落札すれば成功、という世界でないことは明らかだ。

Googleが主張した「オープン・アクセス・ルール」

 今回のオークションで、Googleは入札に先立ちあるルールの適用を強く主張している。「オープン・アクセス・ルール」と呼ばれるもので、オークションにかけられた700MHz帯が特定の携帯キャリアに独占支配されないよう求めるものだ。

 このルールの下では、携帯キャリアは無線ネットワークを利用して提供される端末およびアプリケーションに関して、制限を加えることができない。Googleの強烈なロビー活動が効を奏したといわれているが、結局このルールは採用されることとなった。つまり、Verizonは700MHz帯を好き放題に扱うことはできない。

 どのような端末が登場しても、基本的に700MHz帯への接続を受け入れなければならないわけで、Googleが発表した携帯電話用プラットフォームである「Android」を採用した端末が700MHz帯で普及する可能性もある。

 こうした仕掛けを事前に施していたからこそ、Googleはこのオークションにむやみに高い金額を投じることはしなかったのだろう。米国メディアを見ても、彼らは「Happy Loser」(幸せな敗者)ではないかという論調を見かける。実際、Googleの公式ブログ上では、関係者による余裕のコメントが記載されている(参照リンク)

 「Googleはどの周波数ライセンスも手に入れることがなかったが、オークションは大きな勝者を生み出した――米国の消費者たちという勝者を。我々は勝者を祝福するとともに、よりオープンなワイヤレス・ワールドを楽しみにしている。(中略)我々はこのオークションについて、近い将来もっと多くのことを話すことになるだろう。Stay tuned(請うご期待)」

 もちろん、現実を客観的に眺めればVerizonが落札に“成功”しているわけで、この声明はGoogleの負け惜しみと見えなくもない。ただ、あまりにリスキーなオークションに直面して、ロビー活動を行いつつ勝者の呪いを確実に回避する姿勢は、戦略として「アリ」だったといえる。

 日本では2.5GHz帯の分配を得られなかったオープンワイヤレスネットワーク(OpenWin)が、「まったく納得できないし、受け入れられない」とする沈痛なリリースを発表した。このリアクションと対比してみると、Googleがいかに上手く立ち回ったかが浮き彫りになるように見えるのは、筆者だけだろうか。

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