親しまれてきた白熱電球がなくなる日

» 2008年03月18日 14時29分 公開
[青山祐輔,Business Media 誠]

 食卓に並んだ手料理を照らす、暖かな電灯の光。スイッチを入れればすぐに明るくなり、また暖色系の暖かみのある光を放つ光源として親しまれてきた「白熱電球」が、いま消えようとしている。

 2007年9月、政府は温暖化対策に向けた二酸化炭素(CO2)削減のために、「白熱電球の製造と販売を数年以内に中止する方針」との報道が伝えられた。以前から、省エネの観点で白熱電球よりも電球型蛍光灯を推奨する流れはあった。しかし、ここに来て白熱電球を排除する方向が明確になっているのだ。

 同様の流れは国外でも活発で、オーストラリアやアイルランド、また米国のカリフォルニアをはじめとする複数の州で、将来的に白熱電球全廃方針が定められている。白熱電球が世に登場してから百数十年にして、なくなるかもしれないのだ。

消費電力は蛍光灯の4倍

 そもそも、白熱電球が広く利用されているのは、設備の手軽さと価格の安さによる。その反面、消費電力に対する発光効率では同性能の電球型蛍光灯に大きく劣っている。財団法人省エネルギーセンターによれば、同じ明るさの白熱電球と電球型蛍光灯では、消費電力が4倍も違う。

 自宅の白熱電球をすべて電球型蛍光灯に取り替えようとすれば、消費者として気になるのが価格だ。白熱電球と電球型蛍光灯の市場価格は、約10〜12倍程度もの開きがある。白熱電球が100円玉数枚で買えるのに対して、電球型蛍光灯はたいてい1000円を上回る。

 一方で、電球型蛍光灯の寿命は白熱電灯の約6倍になるという。これも単純計算でいえば、電球型蛍光灯1個で白熱電球6個分に相当する期間利用できることになる。

 省エネルギーセンターの試算によると、電球型蛍光灯を寿命が来るまで使用した場合の総コストは3474円に対し、白熱電球は8136円。つまり、白熱電球から電球型蛍光灯へ切り替えれば、省エネだけではなく、家計にとっても有意義なことなのである。したがって、消費電力、製品単価、寿命といった要素を考慮すると、中長期的な視点からは電球型蛍光灯のほうが財布にも優しいことになる。

京都議定書の影響?

 しかし、いくら白熱電球が非効率だからといって、わざわざ国が規制するほどのことなのか?

 この背景には、京都議定書の存在がある。1997年に京都で第3回気候変動枠組条約締約国会議が開かれた。ここで議決された議定書を批准した先進国は、2012年までの温暖化ガスの削減義務を負う。そして日本も1990年を基準に、そこから6%の温室効果ガスを削減しなければならなくなったのだ。

 これを受けて内閣府や環境省が中心となって、国民に日常生活の中から温室効果ガスの削減を意識させるためのプロジェクト「チーム・マイナス6%」が立ち上げられている。クールビズやウォームビズといった流行も、そもそもはこのチーム・マイナス6%の一環だ。

 そして、日常生活のレベルから少しでも省エネを浸透させ、温暖化ガス排出量を減らすための1つの方法として、白熱電球から電球型蛍光灯への切り替えが推奨されているのだ。経済産業省の試算によると、全国で使用されている白熱電球をすべて電球型蛍光灯にかえると年間で約200万トンものCO2削減になるという。

白熱電球はオッサンホイホイ?

 現時点では、白熱電球の禁止について具体的なスケジュールやプランが定まっているわけではなく、今日明日にも白熱電球が店頭から消えるということはない。しかし「白熱電球中止の意向」という報道には、CO2削減目標のためにはこういった細かな対策の積み重ねが必要、ということが国民にアピールできたであろう。

 白熱電球の暖かみのある光は、雰囲気のある飲食店などには欠かせない存在だ。電球型蛍光灯にも「電球色」と呼ばれる暖色系のタイプが存在するが、やはり本物の白熱電球とは雰囲気が異なる。単に慣れの問題なのかもしれないが、省エネのためとはいえ「白熱電球」が消えてしまうことには、やはり寂しい感覚が残る。

 近い将来、白熱電球ネタが「おっさんホイホイ」なんて言われてしまう時が来るのかもしれない。

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