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» 2008年03月18日 08時00分 UPDATE

ロサンゼルスMBA留学日記特別編:「預金? なぜ損なことをするの?」――海外流の投資術とは

日本でいると銀行預金は当たり前だが、海外では少々違ってくる。中国や韓国の留学生は投資をどのように考えているのか? また米国では教育の一環として、2億円もの大金を学生に運用させているようで……。

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 日本で暮らしていると、手持ちの資金は「とりあえず銀行に預金しておく」という人間が多いだろう。だが海外では少々事情は異なる。

 活況を呈する海外市場や、投資関連の知識を背景に、積極的に投資を行う人間も多い。米国・南カリフォルニア大学に通う学生たちの声を拾った。

株価が急騰する中国

 株式投資で重要なのは、やはり市況。マーケットの状況は国によって異なるが、経済成長が見込まれる国の株式ともなれば、外国人投資家の「買い」が入ることも多い。中国を例に取ると、インデックス(マーケットの動向を示す指標。例えば日経225など)にもよるが「上海B株」(上海市場に上場されている中国株のうち、外国人投資家が売買できる株)などは2005年ごろから急上昇していることが分かる。大げさではなく、それこそ5倍、6倍という水準になっている(記事参照)

 この流れに乗って、株式投資に手を出す中国人も多いようだ。ロサンゼルス在住のある中国出身留学生は、「株式投資をする中国人が増えた」と実感している。「かつて中国では、株式といえばお金持ちがやることだった。今では感覚として、ブルーカラーワーカーも含めて多くの人間が株式投資をしている」

 彼女の場合は、1997年に大学を卒業した後、ほどなくして株式投資を始めた。だがその後しばらく、「2004年頃まではベアーマーケットが続いた(相場が下落し続けた)」ため、いったんは株から遠ざかっていたという。

 だが2005年頃を境に状況は変わる。中国株は、新規上場企業の株などを含め勢いが盛んで、電子商取引で中国最大手の阿里巴巴集団(アリババ・グループ)のように、上場した瞬間に「何兆円」という時価総額(企業の株価に発行済株式数をかけたもの。企業価値を示す指標)がつく銘柄も出てきた(記事参照)。彼女の場合も、最近の好景気で過去の損を取り戻し、トータルで利益を出しているという。

 ちなみに、彼女に日本人の預金志向の高さを伝えると、まっさきに返ってきた答えは「日本の銀行は預金金利が低いのになぜ? インフレリスクにはどう対処するの?」だった。インフレリスクとは物価の上昇率(インフレ率)に対し、保有している金融商品の利率が下回ること。つまりその金融商品を保有し続けると目減りし、損をすることになる。同様の指摘は、今回の取材を通じて複数の学生から聞かれた。

地価が急騰する韓国

 また韓国でも投資熱は高いようだ。こちらは特に、地価の上昇が話題になることが多い。韓国の建設交通部は、標準地の公示価格が2007年に比べ9.6%上昇したと発表している。

 ソウルの江南など、特に不動産バブルが進んでいる7地域は「バブル・セブン」と呼ばれており、年によっては30%上昇した地域も存在する。いわば日本のバブル崩壊前と似たような状況であり、青瓦台(大統領官邸)は常に経済バブルを意識しながら難しいかじ取りを迫られている。とはいえ、バブルがはじけるまでは「不動産を買えば、しばらく寝かせて売るだけで30%儲かる」ということであり、それが一般人の投資活動を促進させている。

 ある韓国人留学生も、「現在の韓国では不動産が非常にいい投資案件だ」と強調する。「買って5年もすれば、値段が倍になる」。実際に、不動産投資でひと財産築いたという韓国人クラスメイトもいる。身近に成功例がいくつも存在するわけだ。

 彼が同時に言及したのは、韓国独特の賃貸住宅の仕組みである「チョンセ」。これについては少々説明が必要となる。

 チョンセのシステムでは、住居人(借家人)は家主に家賃を支払う必要はない。その代わり、家主に対して非常に高額の保証金を積む。それこそ、通常のアパートで1000万円レベルの金額を納めるという。

 家主はこの家賃を銀行に預けるなどして、運用する。韓国では金利が高いので、この利息収入が結構な額になる。住居人が出て行くときは、保証金は無利子で全額返してもらえるが、このとき入れ替わりに入る住居人がまた新たな保証金を積む。こうして大家は引き続き多額の資金を持ち、財テクを繰り返す……という仕組みだ。

 大家にすれば、“月々の賃料収入はいらないから、投資するための資金を提供しろ”というわけだが、これは日本の感覚からすればなかなか言い出せない提案だろう。

米国の一風変わった投資教育法

 上述したように「純粋にマーケットが過熱している」という状況は、人々の投資意欲をかきたてる。もう1つ、投資に積極的になる理由があるとすれば、教育機関で投資手法を学ぶ機会があるということだろうか。

 南カリフォルニア大学では、SIF(Student Investment Fund)という生徒活動がある。これは生徒が集まって実際に資金を運用し、リターンを得るというものだ。そこで運用される額は、なんと日本円にして2億円を超えるという。

 SIFに提供される資金の出元は、主に寄付だ。富裕層などが、「有望な学生たちに、実体験として投資活動を学ぶ機会を提供したい」ということで、寄付をしてくれる。ある程度まとまった資金がないと投資はできないとはいえ、これだけの金額を学生に任せるというのは、興味深い。

 もちろん学生たちの責任は重大で、投資対象となる企業をさまざまに研究し、最終的に調査リポートを提出する必要がある。このほか専門家に会って意見を聞いたり、会社訪問を行ったりする。要するに実際の投資家と同じステップを踏むわけだ。生徒活動といってもきちんと指導者が付き、単位も認めてもらえるようになっている。

 現在の参加者は16人。このうちの1人に話を聞く機会を得たが、彼女はこれまで本格的に投資に関わった経験はないという。

 「周りの仲間に元株のトレーダーだった人間などがいて(MBAの生徒には金融業界出身者も多い)、いろいろと助けてくれる。理論だけではなく実践的で、非常にいいプログラムだと思う」

 彼女が所属する4人のチームは、カリフォルニアの中小規模の企業を投資の対象にしている。一つの企業に全額投じるのでなく、有望な企業をいくつか選んでポートフォリオ(保有する金融資産)を組むわけだが、そのときの選定基準はMBAらしいファイナンスの知識に基づくものだ。

 「まずは、P/Eレート(時価総額に対する純利益の割合)が好ましい企業、それから長期的な視点で見て、成長速度が平均より速い企業。企業が何をやっているかをしっかり把握して、その企業が属する業界の情報も分析する」。ちなみに、マクロエコノミクス的(国全体の経済活動)な視点には特にこだわっていないとのこと。

 彼女によれば、チームが管理するポートフォリオは今のところ13%ほどの運用益を出しているそうだ。もちろん株式市場との比較が重要であり、比較対象である「S&P 600インデックス」をアウトパフォーム(上回る成績を上げている)しているため、満足がいくものだという。ちなみにこの運用益は、大学運営側が奨学金などに回す予定だ。

 取材の終わりに彼女にも日本は預金志向が強いことを紹介し、「なぜ米国では投資を手がける人間が多いと思うか」と聞いてみた。彼女の答えは「米国にはウォールストリートがあるし、大規模な金融プレーヤーも多い。可能性があるから、投資に対する情熱が生まれやすいのではないか」とのこと。

 さらに彼女はこう言った。「確かに投資には予測不能のリスクがつきもので、怖く感じるかもしれない。しかし投資ポートフォリオを多様化してリスク分散すれば、ある程度の損失を抑えることはできるしね」

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