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» 2008年03月13日 11時45分 UPDATE

保田隆明の時事日想:“夢の印税生活”を送るには、本が何冊売れればいい?

ベストセラーを出せば、本が売れるたびにチャリンチャリンとお金が入ってくる――文筆業は儲かる職業と思われがちだが、実際に著書印税とは、どれぐらい儲かるものなのだろうか? “地頭力”で考えてみよう。

[保田隆明,Business Media 誠]
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著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「なぜ株式投資はもうからないのか」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 先日、「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」という本を出版した。新刊を出すたびに、いろいろな人に聞かれる&言われるのが、「印税ってどれぐらいですか?」「夢の印税生活、うらやましいですね」である。

 出版するたびに何回も印税の金額を聞かれているうちに、最近の“地頭ブーム”の発想で、大体の金額を推し測っていただけると助かるなぁ、とふと思った。地頭力を用いると、この「印税ってどれぐらい?」に対する答えや、夢の印税生活を送ることが果たして現実的かどうか、実際に印税生活を送っている人がどれぐらいいるかが見えてくる。

何冊売れたら、印税で1000万円手に入る?

 先にヒントをお伝えすると、一般的に著者に支払われる印税は書籍代の10%である。1000円の本であれば、1冊あたり100円が著者の懐に入ってくるという計算だ。多くの人は10%と聞くと、「えっ、たったの10%?!」と驚く。書籍代の半分ぐらいは著者印税に回っていると思っている人が多いようである。

 さて、定価1000円の本を出版したとして、夢の印税生活を送るにはどれぐらいの冊数が売れる必要があるだろうか? “夢の”印税生活と言うからには、最低でも1000万円ぐらいは手に入ってきてほしいところ。1000万円÷100円=10万冊。印税で1000万円を手に入れるには、1000円の書籍であれば10万冊を売る必要がある。

 10万冊とは果たして、多い数字か少ない数字か。そもそも本とは、通常どれぐらい売れるものだろうか?

 新聞や電車の中などにある、書籍広告を思い出してみよう。書籍の広告を見ると、多くの人に知られている“売れている本”について、「5万部突破!」「10万部突破!」などの文字が躍っている。ここから、「5万部を突破=売れている本」と想像できるはず。逆に言えば、世の中のほとんどの本は5万部も売れていないということになる。

 特に書籍の場合、図書館などでレンタルが可能な上、最近はアマゾンなど中古市場が発達しているので、読まれた回数と実際に新品が売れた数を比較すると、売れた数のほうが少ない。さらに立ち読みの機会なども加味すると、本というのが新品を購入してもらうのが難しい商品であることが分かってくる。著書を10万冊売って、1000万円を得るというのは簡単ではないことが見えてくる。“夢の印税生活”は、通常の著者にとっては相当縁遠い話なのである。

1万冊売れた本を書いたとすると……

 では通常、著者は印税としてどれぐらいの収入を得られるのだろう? 5万冊売れれば「売れた本」なのであれば、本は平均で1万冊売れるものと仮定してみる。この場合、1000円の本の著者には、1000円×10%×1万冊=100万円の印税が入ってくる。小さな金額ではないが、本を書く労力や時間を考えると、決して高いリターンではない。1冊で100万円の収入とすると、もし本だけで生計を立てようとすれば、1年に最低でも4〜5冊ぐらい本を書かなくてはいけないことになる。それだけ書いていたら、毎日が締め切りに終われる日々は確定。とてもじゃないが、“夢の”生活と言えるものではなくなってしまう。

 さて、実際の印税はどれぐらいであろうか?通常、著者印税は2段階方式に分かれている。まず著者は、本が売れても売れなくても、出版時に最初に印刷する冊数に対して10%の原稿料をいただく。例えば、1000円の本で初版5000冊を刷れば、50万円の原稿料を受け取るのだ。たとえ本が2000冊しか売れなかったとしても、この50万円は原稿料として受け取るので返す必要はない。逆に5000冊以上売れた場合は、1冊あたり10%(100円)ずつ印税として加算されて懐に入ってくるということになる。厳密には、こちらを印税と呼ぶべきであろう。

 出版社にしてみれば、売れない本の著者にも原稿料という形である一定以上の額を支払うのだから、売れずに赤字になった分は他の売れる本でカバーする必要がある。逆に言えば、ベストセラーの著者は本が売れれば売れるほど、他の売れない著者の原稿料の穴埋めと出版社の利益向上に貢献することになるわけで、この世界でも「2対8の法則」が当てはまるのである。

 そのため、ベストセラー著者は「印税を10%ではなく15%にしてくれ」などの交渉ができるようになる。印税は全ての著者にとって10%ではなく、中には10%を超える印税をもらう人も出てくるということだ。

 ちなみにビジネス書の場合、初版での印刷は4000〜7000冊程度である。単行本の定価は1000〜1500円程度だから、初版での原稿料は50万円〜100万円ぐらいのレンジに納まることとなる。運良く増刷がかかって1万冊以上売れるビジネス書は2割程度しかないと言われている。だとすれば、印税はやはり100万円程度ぐらいのイメージで捉えておいて問題ない。ということで、「印税ってどれぐらい?」を地頭力で考えたものと、実際の著者印税は近いところに落ち着く。

 それにしても不思議なのは、一般に人に年収を聞くのは失礼だと思われているのに、本の場合は違うこと。「あなたの年収はいくら?」とはなかなか聞けないのに、「印税でいくらもうかるの?」とならあけすけに聞けるのは、何故なんでしょうね?

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