著者プロフィール:新崎幸夫
南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。
ハリウッドスターともなると、やはり「ナルシスト」な人間が多いらしい。そんな学術調査が、USC(南カリフォルニア大学)から発表されている。
USCはロサンゼルスに位置することもあって、エンターテインメントビジネスに関する研究も多い。先日の授業では、ビジネススクールの教授が、自ら発表した研究論文について詳細に解説していた。
この研究は米国のラジオ番組「Loveline」に登場したハリウッドスター・200人を対象に実施したアンケートがベースになっている。Lovelineは20年以上の歴史を持つ番組で、簡単にいえば有名人が視聴者の“悩み相談”に応じるという内容だ。この場を利用し、20カ月間に登場したゲストの有名人に次々にアンケート調査を行った。
アンケートに答えるだけでナルシスト度がチェックできる仕組みになっており、この研究内容に理解を示したハリウッドスターたちが匿名でデータを提供してくれたようだ。サンプルの男女比は、男性142人に対し女性が58人。芸歴は、平均12.03年となっている。
ナルシスト度の測定には、この学術分野で確立されているNPI(Narcissistic Personality Inventory)という手法を採用した。これはアンケート結果を基に、ナルシスト度を「Authority(自分への権威づけ)」「Exhibitionism(目立ちたがり)」「Superiority(優越感)」「Vanity(うぬぼれ)」など7つの尺度で計り、総合スコアをはじきだすというもの。
これまでの研究によれば、一般人3445人の「ナルシスト度」を平均したところ、15.2ポイントという結果が出たという。さて、それではハリウッドスターたちの結果はどうなるか。
― | ナルシスト度(NPI) |
---|---|
ハリウッドスター男性 | 17.27 |
ハリウッドスター女性 | 19.26 |
ハリウッドスター総合 | 17.84 |
MBA男性 | 16.76 |
MBA女性 | 14.85 |
MBA総合 | 16.18 |
一般 | 15.2 |
ご覧のとおり、ハリウッドスターのナルシスト度は平均して17.84と、極めて高いものとなった。スターの平均値と一般人の平均値では、推測統計学でいうところの有意差※が認められた。
この研究では、MBAの学生のナルシスト度スコアも記載されている。恐らくUSCの教授が手近なビジネススクールの学生をつかまえて計測したのだと思われるが、このスコアも一般人よりも高いものとなった。MBAの学生には「ビジネスリーダーになってやろう」と目論む人間が多いだけに、ナルシストな人間が多いのかもしれない。しかし、ハリウッドスターたちは、「ナルシストなMBA学生たち」よりもさらに一段階上のナルシスト・レベルであることも分かった。
興味深いのは、ハリウッドスターのナルシスト度は芸歴の長さとは関係ないこと。芸歴が短いサンプルと、芸歴が長いサンプルを比較しても、有意差は認められなかった。つまり彼らは「芸能界に入ってからじわじわとナルシスト度が上がった」のではなく、「生まれつきナルシストだった」と考えられる。逆に言えば、ナルシストな人間はスターになる素質があるということか。
またハリウッドスターは、女性のほうが男性よりナルシスト度が高い。一般には、男性のほうが女性よりもナルシスト度が高くなる傾向があるという。実際、MBA男性はMBA女性よりもナルシスト度が高い。なぜハリウッドセレブに限り女性のほうがナルシストなのかについては、ある学生がこんな意見を述べていた。「女性の場合、ハリウッドのような特殊な環境では『容姿』など特定の要素でのみ評価されることが多い。このため、容姿に極端に自信を持つ女性の比率が高くなるのではないか」
ハリウッドスターのデータについては、さらに細かく「職種別分析」も行われている。結果は以下のとおり。
― | ナルシスト度(NPI) |
---|---|
リアリティTVショー出身 | 19.45 |
コメディアン | 18.89 |
俳優 | 18.54 |
ミュージシャン | 16.67 |
リアリティTVショーとは、素人参加型のオーディション番組だ。「アメリカン・アイドル」などが有名なので、その優勝者をイメージしてもらうと分かりやすいだろう。彼らは「Vanity(うぬぼれ)」の項目が極めて高い。一方でコメディアンは、「Exhibitionism(目立ちたがり)」の項目が高い代わりに、「うぬぼれ」の項目は4職種中最低だったりして、職種ごとの違いが際立っている。
授業中のディスカッションや、教授の意見を総合すると、以下のような仮説が考えられるようだ。「リアリティTV出身者は、短期決戦のオーディションの中で優勝を勝ち取る必要があるため、強力なキャラクターで前面に出てくる人間の比率が高くなる。一方でキャラクター勝負でなく、確固たる実力でスターになった人間(例えばアーティスト)は、ナルシスト度がそれほどでもない人間の比率が高いのではないか」
論文を読むと、ナルシストのメリットやデメリットにも言及している(なお本稿でいうナルシシズムとは、病理心理学で扱われるような“病的”なものではなく、一般人の自己愛傾向といったより広い意味合いで定義されている)。いわく、ナルシストは落ち込みにくく、外交的で、第一印象がよい。逆にネガティブな要素としては、自信過剰で他人への思いやりに欠けるところがあり、第一印象がよくても付き合ってみると嫌な奴だった、ということになりかねないという。これらはすべて、ある程度研究の裏付けがあるとのこと。
弱点があるとはいえ、相当数のナルシストたちがこうしてハリウッドの現場で活躍していることも確かなことだ。あなたがナルシストであれば、意外に芸能界向き……と言えるかもしれない。もちろん、成功の保証はしないが。
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