インタビュー
» 2008年03月05日 11時43分 UPDATE

神尾寿の時事日想・特別編:「おサイフケータイをかざす」を日常的な光景に――フェリカネットワークス・芳野弘社長

1年前まで米国で働いていた芳野氏が、東京に帰ってきてまず驚いたのは「ケータイで電車に乗れる」ことだったという。フェリカネットワークス社長に就任してちょうど1年。芳野氏の目から見て、おサイフケータイ事情はどのように変わったのだろうか?

[神尾寿,Business Media 誠]

 3月4日、東京ビッグサイトでICカードとICタグの総合展「IC CARD WORLD 2008」が開幕した。この展示会は非接触ICやRFIDの展示会としては最大規模であり、例年どおりFeliCa関連の企画展「FeliCa World 2008」も併設され、初日からにぎわいを見せている。

 筆者は昨年に引き続きFeliCaワークショップの司会を引き受けており、その合間に会場の取材をしているが、今年は順調に普及する「FeliCaのインフラ」を活用する応用的なアプリケーションが目立っている。交通・決済のインフラとして普及してきたFeliCaが、これからの社会やビジネスをどのように変えるのか。そのトレンドを知る上でも、足を運んで損のないイベントだろう。

 さて、このFeliCa Worldの中でも、特に注目なのが「おサイフケータイ(モバイルFeliCa)」の分野だ。2004年、NTTドコモからスタートしたおサイフケータイは、今や日本のケータイの必須機能にまで成長しており、その普及台数は4700万台を超えた。今回のイベントでも、おサイフケータイの活用は重要なテーマとして多くの展示がなされている。

 2008年のおサイフケータイはどうなるのか。

 今日の時事日想は特別編として、FeliCa Worldの会場からフェリカネットワークス社長の芳野弘氏のミニインタビューをお届けする。

ay_yoshino.jpg フェリカネットワークス社長の芳野弘氏

この1年で「おサイフケータイを使う人」が増えた

―― 芳野さんはちょうど1年前、(ソニーの)米国勤務から帰国してフェリカネットワークスの社長に就任したと聞いています。1年間、日本のおサイフケータイを見てきて、どのように感じましたか。

芳野 私はソニー入社後しばらくして、海外勤務を希望して米国に渡りました。そこ(北米)で16年ほど勤務し、帰国してフェリカネットワークスに就任したわけですけれども、日本に戻ってきてまず驚いたのが『ケータイで電車に乗れる』ということでした。モバイルSuicaのようなサービスは、米国にはまったくなかったものですから(笑)、まずは驚きから入ったんです。

 それから1年が経ったわけですが、最近では「驚き」が変わってきました。当初は交通や決済での(おサイフケータイ)利用が中心でしたが、最近はクーポンやポイントなどCRM系の分野が発達してきている。また、ANAのSKiPのように航空サービスの分野にまで大きく広がり始めた。非常に多くのシーンで使われ出したという驚きがあります。

――FeliCaそのもののインフラが拡大したこともありますが、おサイフケータイの利用シーン、応用例の増加には確かに目を見張るものがありますね。

芳野 モバイルFeliCaの(IC)チップそれ自体は道具ですから、その道具を使って何をするかというところに多くの人々のアイディアが集まり、そこにお客様がついてきた。(ビジネスの主眼が)チップ中心ではなく、そこでどのようなサービスやビジネスを作るかというところにきました。この変化が注目すべきところですね。

――フェリカネットワークスとして、2007年の手応えをどう感じられましたか。

芳野 それは2つに分けられると思っています。まず、BtoBの世界では十分すぎるほど手応えがありました。決済・交通を中心にFeliCaが広がったことで、弊社のピットモットをはじめ、おサイフケータイを使ったソリューションの需要や導入が増えています。BtoBは、いわば「おサイフケータイをかざす場所を作る」ことなのですが、これについては強い手応えがありました。

 このBtoBに加えて、この1年で変化を感じたのが、「おサイフケータイをかざす人」を街中でみかけるようになったことです。昨年の段階で、おサイフケータイをかざす場所や用途は増えてきていた。ところが実際に(おサイフケータイを)かざす人を見かけるかと言うと、それは不十分な段階でした。それがやっと、おサイフケータイをかざす人を見かけることが普通になってきた。

――確かに私も、都内でおサイフケータイを使う人を日常的に見かけるようになりました。先日も、JRの改札機で私の前に入場した人もモバイルSuicaを使っていて『おおっ』と思いました(笑)。感慨深いものがあります。

芳野 そうなんです。(おサイフケータイを)使える場所が増えただけでなく、実際に使うユーザーが増えてきたのです。我々は、これまでBtoBを重視した戦略だったのですが、今後はBtoCや、BtoBtoCの分野も重視した戦略を考えていかなければならないと思います。

交通系は「モバイルPASMO」からの展開に期待

――おサイフケータイのユーザー層の広がりで考えますと、1つは「決済」における加盟店環境が整備されていることと、主要なFeliCa決済はすべてモバイル対応しているメリットが大きい。そして、もう1つのキラーが交通系で、モバイルSuicaの利用促進で果たす貢献は大きいわけですけれども、一方で交通系は『Suicaだけ』というのは残念な気がします。公共交通事業者のFeliCa導入は順調に進んでいるのに、モバイル対応が追いついていない。

芳野 確かに交通系はおサイフケータイのトリガーになりうる分野です。我々としては、モバイルSuicaで“首都圏の半分”のニーズがカバーされている状況と認識しており、(モバイルSuicaを補完する形で)「モバイルPASMO」の登場に期待したいところです。

 私自身もそうなのですけれど、通勤・通学経路にJR路線が入っていないと(おサイフケータイで)『定期券』サービスが受けられない。カード型のPASMO登場が首都圏のICカード利用を爆発的に増やしたように、モバイルでもPASMOの参入が利用促進にとって重要だと考えています。

――SuicaとPASMOは、対になったときに爆発的なシナジー効果を生みますからね。一方で、首都圏以外に目を向けると、松山の伊予鉄道や長崎の長崎バス協会のような先進事例はありますけれども、全体的に見れば交通分野でのおサイフケータイ対応が進んでいない。大阪、名古屋、福岡などの都市圏でも交通系は『FeliCaカードだけ』なのが実情です。地方の交通分野への展開についてはどのように見ていますか。

芳野 日本では地方の文化やシステムが東京からの伝播を大きく受けますので、まずは首都圏の交通分野でモバイル化を推し進めて、それが広がる形での展開になるかと考えています。まずはモバイルSuicaの利用者が増えて、モバイルPASMOも登場し、首都圏の交通分野における『おサイフケータイ利用』が活性化する。それが実現すれば、次第に地方への広がりも期待できるのではないでしょうか。

――その点でも、やはりモバイルSuicaと対になる「モバイルPASMO」の登場に期待したいところですね。

かざす人と文化を創りたい

――2008年の目標を教えてください。

芳野 1つは「おサイフケータイならでは」の部分を出していくことですね。FeliCaは非常に速いペースで普及しており、社会インフラになっていますが、その中でおサイフケータイを使うベネフィットをきちんと打ち出さないと「FeliCaカードでいいじゃないか」となって先に進めなくなります。

 通信機能と液晶画面を持つというのがおサイフケータイの強みですが、それならではのサービスやアプリをもっと打ち出さなければならない。弊社のピットモットなどは、その1つの例と言えます。

――おサイフケータイならではのサービスはもっと増えてほしいですね。一方で、利用促進を考えると、使い始めに「難しそう」と抵抗感をもたれている部分の解消も課題です。

芳野 そうですね。弊社の調査でも、いちどおサイフケータイを使った人の利用継続意欲は90%以上と高く、さらに1つのICアプリを使ったユーザーは2〜3カ月以内に別の複数のアプリやサービスを使い出すという傾向が見えています。

――確かに、おサイフケータイは一度使うと手放せません。私は最近、財布を取り出すよりも、おサイフケータイをかざす回数の方が多くなりました(笑)

芳野 私も同じです。実は先日ケータイを家に忘れて出社したのですけれど、その時に感じた不便さは言葉に言い表せないほどでした。一度おサイフケータイを使い始めると、使えない状況に後戻りした時に、ものすごく不便に感じますね。

――やはり、ユーザーに「体験してもらう」ことが大切ですね。

芳野 ええ。ですから今年は、おサイフケータイを“かざす場所”をさらに増やすだけでなく、“かざす人”を増やして、(ケータイを)“かざす文化”を着実に創っていきたいと考えています。

――本日はどうもありがとうございました。

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