行列待ちの不満を(あまり)お金をかけずに解決する方法とは?ロサンゼルスMBA留学日記

» 2008年03月03日 14時59分 公開
[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 MBAではいろいろな分野を学ぶ。これまで戦略マーケティングファイナンスなどを紹介してきたが、今回は「オペレーションマネジメント」の授業について紹介しよう。

 オペレーションマネジメントとは、例えばマクドナルドで「肉を焼く」「パンにはさむ」「ポテトも合わせて揚げる」「窓口の人間が注文をとり、ハンバーガーとポテトのセットを渡す」といった一連の流れを、いかに効率化するかといった授業だ。

 いろいろな理論があるが、本稿では「行列の心理学」というものを紹介しよう。

ディズニーの行列の優れた点

 オペレーションマネジメントでは、顧客の作る“行列”をいかに上手く管理するかが重要となる。つまり、いかにしてストレスなくユーザーに列を作って待っていてもらうかということだ。

 よく取り上げられるのは、ディズニーランドの行列管理の巧みさ。行ったことがある人なら分かると思うが、ディズニーのアトラクションの行列はくねくねと曲がりくねっている。あれは、明確な意図を持って曲がりくねっているのだ。単調に1列に並んで待っているのと、アトラクションに近づいたり離れたりしながら、今自分が全体のどのあたりにいるのか分からない感覚で進んでいくのとでは、心理的ストレスが異なる。後者のほうが、比較的気楽に待つことができるわけだ。

 アトラクションによっては、行列で待っている間にスクリーンに映像が流されることもある。これも、顧客の目先をかえて待ち時間を短く感じさせる効果がある。実際、ジェットコースターに乗るのに30分〜1時間も待たされているのに、何もないところで座って30分待っているのよりは待ち時間が少なく感じることがある。

 行列に並ぶ客には、「既にサービスのプロセスに入っている」と感じさせることも重要となる。例えばレストランが混雑しているとき、席が空いていないのでレストランの外で客を並ばせるとする。このとき客にメニューを渡して、どれを注文するか選ばせておくと顧客は「既にサービス提供の流れに入った」ような気がしてストレスが軽減される。細かい点だが、こういうところが案外重要なようだ。

「エレベーター待ち時間」対策は、意外にも

 あるホテルで、こんな問題が持ち上がった。「エレベーターの待ち時間が長い」という苦情が多いのだ。

 大きなホテルで上層階に行こうと思ったら、たいていの場合エレベーター以外の選択肢はない。だがエレベーターの数が少なかったり、容量が小さかったり、速度が遅かったりするとロビーのところで客が“つまる”ことがある。このホテルもそんな状況に陥ってしまった。

 対策としては、エレベーターの改修工事を行って性能を上げるとか、別の場所に新しくエレベーターをもう1つ作ることなどが思い付くが、これらはあまりにもコストがかかり過ぎる。そもそも当初の設計に問題があったというべきだろうが、いまさら文句をいっても始まらない。

 ここで登場するのが「心理学的」なアプローチだ。このホテルでは、エレベーターの前に大きな鏡を置いたという。

 この結果、多くの客はエレベーターの待ち時間に鏡をのぞきこんで身だしなみをチェックするようになった。たったこれだけのことだが、効果があったようだ。鏡を置いて以来、待ち時間に関する苦情が大幅に減ったという。鏡を置くのに、たいしたコストはかからない。少ないコストで、比較的大きな成果を挙げた事例だといえるだろう。

経営と心理学の関係

 筆者は日本の大学で心理学を専攻していたこともあって、この手の話が好きだ。マーケティングの世界でも時折心理学の話が出てくるが、自社の製品をどれだけ「格好よくするか」よりも、どれだけ格好よく「見せるか」が重要だったりする。たいして格好よくない製品でも、あたかも格好いいかのようにマーケティング・プロモーションをかけることで「ああ、格好いいんだ」と客が誤解してくれる、といった具合だ。

 オペレーションマネジメントの世界でも、実際のサービスの速度を上げて「純粋に待ち時間を少なくする」のが1つのアプローチ。そしてもう1つのアプローチが、待ち時間は変わっていないのに「あまり待っていないように感じさせる」アプローチとなる。

 「ゴマカシている」と言われればそれまでだが、それで顧客が幸せならもうけもの。経営戦略でも、心理学が重要な役割を果たしている――といったら言いすぎだろうか。

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