インタビュー
» 2008年03月01日 13時08分 UPDATE

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」:社会貢献と収益性のはざまで――新日鉄エンジニアリング・浅井信司氏(後編) (1/3)

日本企業の技術力を生かし、海外で橋を架ける――平成不況を横目に成長してきた海外橋りょう部門は今、大きな転換点を迎えている。ここではその課題について整理するとともに、浅井氏の業績を、戦略視点的に読み解いていく。

[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

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1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


 2007年9月、日本のODA(=政府開発援助)で建設中に崩落したベトナムのカントー橋。死傷者134人という大惨事は日本でも大きく報道されたが、橋建設工事の裏に、現地の人々の強いニーズと、日本企業に勤めながら海外で橋を架ける事業に賭ける人々の熱い「想い」があったことはあまり知られていない。

 途上国のインフラ整備を支援する――それは、日本企業だからできる、大きな意義のある事業だといえる。新日鉄エンジニアリングの海外橋りょう営業責任者・浅井信司氏は、新日鉄の社内ベンチャーとして海外橋りょう部門(海外で橋を架ける工事を請け負う部門)を立ち上げた人物だ。タイ、カンボジア、パキスタン、エジプト、韓国、ウズベキスタン……約20年近くかけて、浅井氏は海外で数々の橋を架けてきた。その原点となったのは、学生時代にインドや米国を放浪し、貧困の現実を目の当たりにしたことだった。

 本稿では、その浅井氏と彼の率いるチームの今後の戦略課題を検討するとともに、彼らのこれまでの軌跡について、戦略経営の視点から読み解いていきたいと思う。

 →工事中の橋が崩落するという悲劇――新日鉄エンジニアリング・浅井信司氏(前編)

 →海外で橋を架ける“想い”――新日鉄エンジニアリング・浅井信司氏(中編)

海外橋りょう事業の戦略課題――社会貢献と収益性の狭間で

ay_asai01.jpg 新日鉄エンジニアリングで海洋橋りょう・ケーブル営業室長を務める浅井信司氏

 「私は、この仕事が大好きです。でも今、これまでのビジネスモデルが曲がり角に来ていることは素直に認めなくてはいけません」神妙な面持ちで彼は話し始めた。

 「今なお、途上国には日本の支援による橋の建設を必要としているところがたくさんあります。そういう意味では、これからもどんどんそういう国々に行ってインフラ整備のお手伝いをしたいと切望しています。

 しかし、そうした社会貢献的なファクターと並んで、企業である以上、最低限の収益性も考えなくてはいけません。ただ現実として、切りつめられるところをギリギリまで切りつめた結果、もうコストダウンできる部分はほぼ残っていませんし、企業としての利益を出す部分がほとんどなくなってしまった。今までのやり方はもう通用しないということですから、ビジネスモデルの革新を行う必要があると思うんですよ」

 ビジネスモデルの革新といっても、果たして、どんな選択肢があり得るのだろうか?

これまですでに他社で行われてきているビジネスモデルで考えるならば、選択肢は3つ考えられるようだ。

 「第1に、アメリカの建設大手ベクテルなどのように工事のマネジメントに徹する方法。しかしこれを採用すると、技術の空洞化を招く危険があります。

 第2に高度技術に特化する方法。かつて日本産業界の生き残り策として盛んに推奨された方法ですね。

 第3は、ケーブルの販売などの物販。しかしこれでは、『途上国のインフラ整備に貢献する』という積極的意義に欠けます」

 今後やる以上は、浅井氏独自の新しいビジネスモデルを構築する必要があるということだろう。これまでも、国内橋りょうの成熟化と衰退期へのシフトを睨み、海外橋りょうの社内ベンチャーを立ち上げ、アジア通貨危機という“非連続・現状否定型”の環境変化に際し、特別円借款制度構築への道を開いた浅井氏である。おそらくは、画期的なビジネスモデルの腹案があるのではないか。 

“変えてはいけない部分”とは?

 ビジネスモデルを大きく変えなくてはいけない一方で、逆に今までと“変えてはならない”部分もある。海外橋りょう事業においては、何を堅持しなければいけないのだろうか?

 「それは明確です。社会経済環境がいかに変化しようとも、国内工事と海外工事との間で安全面でのスタンダードは絶対に変えてはいけません。

 日本国内ではヘルメットや安全靴の着用が当たり前ですが、高温多湿な国ではヘルメットなしにサンダル履き、という工事現場が普通にあります。『あの気候の中では、とてもじゃないけどヘルメットなんか被って作業できない』という話に当然なるわけです。私自身、幾度となく途上国の工事現場に行っているので、心情的には理解できなくはありませんが、国内と同レベルの安全性の確保という点は、『変えてはいけない』部分だと考えています」

 カントー橋崩落という未曾有の悲劇を直視しつつ、途上国のインフラ整備への貢献という使命(ミッション)には、いささかのブレもない。その使命を遂行するために、何を変えるべきで、何を変えるべきでないかを明確に答える。

 筋の通った彼の姿勢を見ていると、日本の大マスコミが報じるODA批判や日本企業バッシングのプロパガンダからは窺い知ることの出来ない、日本のビジネスマンの真剣かつ誠実な、プロフェッショナルな姿が浮き彫りになってくる。

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