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» 2008年02月28日 11時25分 UPDATE

保田隆明の時事日想:サッポロ VS スティールの「?」を読み解く

スティールパートナーズの買収提案に、1年かけてようやく拒否表明したサッポロビール。なぜサッポロは牛歩戦術を取ったのか? なぜスティールはブルドックソースの時のように敵対的TOBを仕掛けないのか? その理由を説明しよう。

[保田隆明,Business Media 誠]
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著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 サッポロビールは、スティールパートナーズから受けていた買収提案に対して正式に拒否を表明した。スティールがサッポロに買収提案をしたのは2007年2月。なんとサッポロ経営陣は1年もかけて、やっと買収提案への態度を明らかにした、ということになる。

 →「サッポロビール特別委員会は正しいのか?」

スティールが「買収させてほしい」とサッポロに事前に提案

 1年も前のことなので、簡単におさらいしておこう。スティールは買い付ける上限株数を3分の2とし、TOBによってサッポロを買収したいと提案した。TOB価格は825円だ。

 「スティール」「TOB」と聞けば、思い出すのはブルドックソースへの敵対的TOBである。スティールはブルドックに対しては直接TOBを仕掛けたのに、なぜサッポロに対しては「TOBをさせてください」と提案したのか、疑問に思う人は多いだろう。

 理由は、サッポロが先に「事前警告型買収防衛策」を導入していたためだ。事前警告型買収防衛策とは、買収したいと思う企業(スティール)が、買収をしたいという意図をあらかじめその企業(サッポロ)に伝え(=事前警告)、取締役会の許可を得るべし、というものである。もし取締役会が企業価値向上に資する買収提案であると判断して受け入れれば友好的な買収実行となるが、取締役会が拒否すれば敵対的買収提案となってしまう。

スティールの選択肢は2つ

 スティールは今後、(1)それでもTOBを仕掛ける(=敵対的買収の実行)、(2)敵対的TOBのカードをチラつかせてサッポロから何らかの譲歩を引き出す、のどちらかの選択をすると予想される。買収提案を取り下げるという選択肢もあるが、サッポロが買収提案を拒否することは当然想定されていたことで、拒否されたからといって買収提案を取り下げるぐらいなら、もともと買収提案などしなかっただろうから、買収提案の撤回という選択肢はないはずだ。

 これまでスティールが日本でどのように利益を上げてきたのか、そのやり方を見てみると、実際に企業に買収を仕掛けて増配を引き出したり、ホワイトナイトを呼び込んで持ち株をちゃっかりと売り抜けたりというパターンだった。ブルドックのケースでは、法廷闘争にもつれ込んで負けたものの、それでもスティールは利益を得ている(参照記事)。なぜなら、ブルドックは買収防衛策を実施するため、最終的にスティールの持ち株の4分の3を買い取ったからだ。つまりブルドックのケースを含め、スティールは今まで、買収を仕掛ければ最終的には着実に利益を確保してきている。

なぜスティールは1年前に敵対的TOBを仕掛けなかったのか

 こうした過去に照らし合わせると、スティールのサッポロに対する次の一手は、やはり敵対的TOBのように思える。しかしそれならば、なぜ1年前に敵対的TOBを仕掛けなかったのかという疑問が生じる。というのは、事前警告型買収防衛策というのは何らかの法律に準拠したものではなく、企業が独自に設計して導入するものだからだ。従ってサッポロが事前警告型防衛策を導入していたとしても、買収者がそれに沿った行動をする必要は実はない。最初から警告なしにサッポロに買収を仕掛けても法律違反ではないし、なんら罰せられることはないのだ。

 それにもかかわらず、スティールは律儀にサッポロの事前警告型買収防衛策に沿う形で、先に会社に対して買収提案を申し入れた。そしてサッポロから正式な許諾、または拒否の返答があるまで待ち続け、その間、両者は何度も質疑応答の応酬を行った。結局スティールにしてみると1年間待ちに待ったわけだが、その結果が買収提案拒否である。この先、それでもTOBを行う場合は敵対的買収に発展することになるが、それならスティールは最初から事前警告型防衛策を無視して敵対的TOBを行えばよかったわけであり、1年間待った意味がない。

 ただスティールにとって、この1年間は他の株主にサッポロの現経営陣の経営能力を吟味してもらう期間であったと捉えることはできる。「ほら、現経営陣に任せておいても大した戦略は見えてこないですよね? だからスティールの味方をしてくださいよ」というメッセージを発信する素地を作るということである。そういう目的なら、わざわざ1年間も我慢してきたことも理解できる。

待っていた1年間の間、世間の目は……

 とはいえ、この1年間にスティールを取り巻く状況は決して好転していない。サッポロの1年間に及ぶ牛歩戦術に付き合っていた間に、ブルドックの案件で法廷闘争に敗退したためだ。特に高裁の判決では、スティールはグリーンメーラーとまで断定されている(参照記事)

 今の状況では、スティールがサッポロにTOBを仕掛けても他の株主からの賛同を得るのは難しいだろう。また、1年前はまだ日本に構造改革の雰囲気が少しは残っていたが、今は完全に一世代前の日本に逆戻りしている。規制万歳の内向き思考になっているため、企業が正々堂々と外資系投資ファンドからの買収提案を拒否しやすい土壌になっている。以前は、企業の効率的経営を主張するスティールのようなアクティビストファンドの存在意義はある程度認められていたが、最近ではその害ばかりが宣伝され、総スカンを食らっている状況だ。スティールは世論を味方につけることができないのだから、サッポロにしてみると「スティールなんて怖くない」ということになる。

 ゲームはまた振り出しに戻った。この1年間が単なる時間の浪費だったのか、あるいは、こうなることも想定した上で、スティールは何らかの特別な対抗策を持っているのか。しかし今のところ、目ぼしい対抗策は見当たらない。

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