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» 2008年02月21日 12時14分 UPDATE

郷好文の“うふふ”マーケティング:ギアチェンジにこだわった多色ペン“リポコン4”を検証する

実は筆者、マルチペン・フェチで、文具店でペンをカチャカチャするのが大好きである。最近ひかれたのがトンボ鉛筆「リポコン4」。このペン、開発者のこだわりが随所に溢れているのだ。

[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

 マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・運営、海外駐在を経て、1999年よりビジネスブレイン太田昭和のマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。現在、マーケティング・コンサルタントとしてコンサルティング本部に所属。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 マルチペン(多機能ペン・多色ペン)の魅力、それは“ギアチェンジ”である。黒、赤、青、緑、果てはシャープペンシルまで、1本のペンでカチャッとペン先を“ギアチェンジ”できるのがマルチペン。

 実は筆者、マルチペン・フェチである。1色では我慢できなくて、多色のペンを常に持ち歩く。だから新製品が出ると、文具店にカチャカチャしに行く欲望を抑えることができない。自動歩行で丸善に出向いてカチャカチャする。色の組み合わせ、持った感触、重量や太さ、ギアシフトの感触とその音。頭の中にマルチペン・レーダーチャートを引いて品定めをする。

 カチャカチャしながら、開発者が何にこだわったかを考える。持ちやすさか、書きやすさか、スリムさ、バランスか。何千円もする高価な品なら素材感がいいのは当たり前だが、しょせんは筆記具。数百円の価格帯で、理想のマルチペンを追求する商品開発レースにこそ興味がある。

トンボのリポコンを観た!

 トンボのマルチペン「リポーター4コンパクト」に惹かれたのは、商品開発ポイントだった。以下はプレスリリースから引用する。

 「長さを約2割(当社従来品比較)短くし、身に着けやすくした4色ボールペンを2月1日から発売します。首かけもでき、多色筆記が求められる運動競技の記録員や、医療・看護施設の現場などの立ち仕事に最適です」

yd_go1.jpg リポコン商品一覧

 4色で長さを2割短くして、ターゲットは首かけ立ち仕事ですか……ここまで用途やシーンを絞り込んだ多色ペンは、これまでなかったはず?

 マーケティング魂に火がついて、すぐに取材を申し込んだ。いただいた資料には“リポコン”とある。開発コードネームからして短縮形なのだ。「リポコン4」の商品概要は以下の通りだ。

  1. 全長は117ミリ(従来の4色ボールペン=144ミリから19%短縮)。
  2. インク色は黒・赤・青・緑(各油性)。
  3. ボディー色は透明、透明ブルー、カームブルー(空色)、テンダーグリーン(黄緑)、メリーピンクの5色。
  4. ノックボタンは触れて違いが分かるアシンメトリー(非対称)な形状。
  5. 10ミリ開くクリップ(厚手のノートなどにはさめる)。
  6. 価格は350円、首かけ付きは480円(希望小売価格)。

なぜこの長さやグリップが生まれたか?

 トンボではWeb調査(学生・社会人468人)を実施し、「ボールペンを筆箱に入れずに携帯する」と回答した中で、屋外へ携行する人は86%、屋内では90%にも達していることを突きとめた。さらにどのように持ち歩くかを探ると、社会人女性では「バッグに直接入れる」「手帳にはさむ」が6割以上、男性では「胸ポケットに入れる」が7割近くいたのだ。

yd_go2.jpg リポコングラフ女性
yd_go3.jpg リポコングラフ男性

 ボールペンの携帯性への不満も多かった。社会人男性は「胸に」入れるときに長すぎること。胸はあっても胸ポケットがない社会人女性は「服の襟」や「手帳に」はさむ。はからずも“胸の有無”が分かれ目になった。筆記具の開発なのに、胸や襟に視線を落とすなんて洒落ている。すんなりおさまるサイズの試作を繰り返し、長さは117ミリに落ち着いた。

yd_go4.jpg リポコン長さ
yd_go5.jpg リポコンクリップ

 手帳にはさんで持ち運ぶと問題になるのは“厚さ”だ。手帳にもグイッとはさめるように、クリップは10ミリ開く仕様とした。短縮(117ミリ)と拡張(10ミリ)、小さいボディに“ミリ単位の読み”があった。

職業と筆記具の熱い関係

 さて、この原稿もメモが元になっている。メモは揺れながら書き(電車の中です)、濡れながら書き(風呂場です)、うなりながら書き(トイレです)、目をつむりながら書いている(布団の中です)。筆記具と仕事は切り離せない。リポコン4では職業を強く意識して、「運動競技記録員」や「医療従事者」という職業に最適な仕様を詰めていった。職業別インタビューは多岐にわたっていた。

  1. 学生:「ボールペンの使用実態」(Web調査)
  2. 医療関係従事者:「多色ボールペンの使用実態」(グループインタビュー、対面インタビュー)
  3. 物流関係従事者:「ストラップ付き商品テスト」(実使用テスト)
  4. 官公庁:「多色ボールペン全般に関するヒアリング」(対面インタビュー)
  5. 一般企業:「多色ボールペン全般に関するヒアリング」(対面インタビュー)
  6. 当社(トンボ)の事務職女子社員:「ボディー色の選好度調査」(対面インタビュー)

 ここから生まれたのが「ブラインドタッチ」「静かなノック音」「ソリッドカラー」。手元を見ずに色が分かるようにノックボタンの形状が色ごとに違う。使用感では黒と赤の違いはかなりわかりやすく隣合わせなのもいい。緑は“すんなり”青は“出っ張り”と、色のイメージで形状を作ったことが分かる。

 

yd_go6.jpg リポコンアシンメトリー

 病院や図書館での使用を想定し「カチャカチャ音の衝撃音」を減らした。確かに小さい。本体のソリッドカラーはオフィスファッションのカジュアル化に対応したもの。リポコン4のギアチェンジへのこだわりは細部にわたっていた。

ギアチェンジの旅が、また始まるか?

 ところでマルチペンのギアチェンジ、いったい何をチェンジさせるのか?

 オモテ向きは色やペン素材の変化だが、実は表現のギア、思考のギア、そして発想のギアをチェンジさせる。表現とはノートやメモが字や図で埋める作業。思考とは表現プロセスを深めること。そして表現と思考が煮詰まったとき必要なのが、発想の転換。3つのギアチェンジの自在な行き来を書き手に与える―それがマルチペンの魅力である。

 表現・思考・発想の3点セットのハマり具合からリポコン4を評価すると、首かけ&短いサイズは表現力を支援する。ブラインドで分かるノックボタンの形状は思考をさまたげない。発想の転換はどうだろう? 「首からブラブラ下げるなら、4色目を“DSのタッチペン”にすれば電車ゲーマーにはいい」「ノックボタンの形状にもうひとつ“チクチク”を追加すれば、眠くなる会議でホッペをチクリとやって眠気覚ましもできる!」……といった発想も湧いたので及第点でしょうか。

yd_go7.jpg ギアチェンジの旅.

 写真は私のマルチペンの“旅コレクション”だ。2本のクロス(1)はシャープとボールペンのセットで“マルチ”。ロトリング4イン1(2)は使い込んだせいで「色の印」が消えた。ノックして何色が出るかはまったくの勘です。黒のない“齋藤メソッド”の3色ペン(3)は、黒が無いのが嫌になった。ハイテックCコレトはお気に入り(4)。首下げの赤黒ペンは店舗調査用で、ペン先を出し放しにしてはシャツのお腹にも書きこみをした。

 文具に浮気な私の“ギア(道具)チェンジの旅”、リポコン4でまたもや加速しそうです。

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