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» 2008年02月21日 11時49分 UPDATE

保田隆明の時事日想:次世代DVDレコーダーの普及に貢献した東芝

次世代DVDの規格競争にBlu-ray Disc陣営が勝利し、HD DVDを押していた東芝が撤退会見を行った。「やり方次第では違う展開もあったかもしれない」とも思う半面、早々に撤退を表明した東芝は英断といえるのではないだろうか。

[保田隆明,Business Media 誠]

 昨年末に、「Blu-rayレコーダーは意外に速く普及する?」(参照記事)というコラムを書いたが、まさかこんなに早くHD DVDとの決戦を制するとは当時は予想だにしなかった。既報の通り、東芝がHD DVD事業を3月末に終了すると正式発表したのだ(参照記事)

直接的な引き金はワーナーによる陣営の離脱

 2月19日に行われた東芝の撤退記者会見によると、ワーナーの陣営離脱は寝耳に水だったとのことである(参照記事)。今回のHD DVD対Blu-ray Discの対立構図には、ハードメーカーとソフトを作る映画会社が両陣営に二分するという面があった。当初はソフト側のシェアも半々だったのが、ワーナーの離脱によってBlu-ray Discの優勢が圧倒的になってしまったのだ。

 映画会社にとっては、DVDから得られる大きな収入を考えると、Blu-ray Disc対HD DVDの対立構造が続き、消費者が買い控えをする状態は好ましくない。この点で、映画業界は早期決着を歓迎しているはずだ。

 今回の件で注目したいのは、ユーザーがHD DVDに対してNOと言ったのではないということである。テレビのニュースでもさまざまな“ユーザーの声”が流れていたが、大半はHD DVDを購入してしまった消費者がアフターサービスを心配する内容であり、「Blu-ray Discのほうがいいんだよ」というようなインタビューは見かけなかった。消費者の判断以前に、映画制作会社と小売店の対応によってHD DVDは負けたのである。

小売店での扱いで差

 1月のワーナー離脱が明らかになる前、2007年の年末商戦の時点でも、特に国内においてはBlu-ray Discの優勢が伝えられていた。ただ、それは消費者が積極的にBlu-ray Discを選んだ結果というよりも、小売店におけるBlu-ray Discの扱いのほうがHD DVDに比べて良かったからという事情がある。ワーナー離脱後、小売店におけるHD DVDの扱いはますます悪くなっていった。

 小売店での扱いという視点で考えたとき、2つのことに思い至った。

 1つは、小売店の店頭でどれぐらいの量の東芝ブランドの商品が扱われているのかということだ。小売店ではさまざまな家電製品、AV製品が扱われている。Blu-ray Disc陣営にはソニー、パナソニックなど多数のハードウェアメーカーが相乗りしている、それらの企業が小売店に支払うインセンティブの総額と、東芝1社が支払うそれを比べれば、やはり小売店としてはより多額のインセンティブを受け取れるBlu-ray Discを優先することになるだろう。

 もう1つは、もしHD DVDの名称が、Blu-ray Discのように「DVD」という言葉そのものを全く使わない名称だったらどうだっただろうか、ということだ。HD DVDという名称だったがために、既存のDVDレコーダーとの違いがいまいち分からなかった消費者もいたのではないだろうか。小売店としても目新しさの訴求には、Blu-ray Discという名称のほうが楽だったのではないかとも思う。

ノートPCのシェアよりもテレビ市場のシェアが“効いた”

 東芝としては、「テレビに接続をするHD DVDレコーダー商戦では多少苦戦したとしても、HD DVDを搭載したノートPCを今後大量に販売することである程度の地位を確立しよう」いうもくろみもあった。確かに東芝は、ノートPCの世界市場でのシェアは上位におり、今後はノートPCに既存のDVDプレーヤーの代わりにHD DVDを搭載し、大々的な普及を進めるというストーリーには説得力がある。

 しかしPCを購入する人にとって重要なのは、PC本体の性能であり、DVDやHD DVDプレーヤーはあくまで付随的な存在でしかない。一方、次世代DVDレコーダーを購入する人たちにとっては、Blu-ray DiscなのかHD DVDなのか、それこそが重要である。次世代DVDレコーダー市場を制することは企業にとってやはり重要であったと思われる。

 また、次世代DVDレコーダーはテレビと接続するものなので、その点、テレビでのブランド力がある企業のほうが次世代DVDレコーダーも販売しやすい面があったと思う。特に最近のテレビメーカーは企業ブランドよりも商品ブランドを定着させることに腐心していたので、テレビブランドを次世代DVDレコーダーでも大いに活用しようという戦略を追求できる。しかし東芝の場合、国内テレビ市場のシェアでは存在感が薄く、“テレビ連携”という戦略は取りづらかった。

東芝の“功績”

 確かにすでに購入した消費者にとっては今回の東芝の撤退劇は大問題であるが、一方、引き続き2つの陣営が競合し続けていくと、犠牲となる消費者が増えてしまう。その点では今回の東芝の幕引きが早かったことは一定の評価をされていいと思う。もっとも、実際の商戦になる前に規格を業界で統一しておいてほしいという意見もあるだろうが、規格を統一していれば今のように次世代DVDレコーダーの劇的な値下げはなかったはずであり、その点、東芝は今後Blu-ray Discを購入する人たちにとっては大いに値下げに貢献したとも言える。

 今回の撤退劇を見るに、メディア報道によって東芝の戦況が加速度的に悪くなっていった面が多分にあると思う。今回の撤退発表が行われたのは火曜日(2月19日)だったが、その前の週末にはすでに主要メディアでは撤退が報じられていた。月曜日に発表しなかったのは、まだ月曜日には社内で「で、どうする?」という議論がされていたとも想像される。HD DVD陣営のハードウェアメーカーは実質的に東芝1社だったこともあり、メディアが東芝不利という観測を働かせやすくなるのは分かる。とはいえ、東芝のメディアの活用がもう少しうまければ……とも思わされた撤退劇であった。

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