PiTaPa/ICOCA+ワンセグで何ができる?――大阪レポート神尾寿の時事日想

» 2008年02月20日 12時05分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 2月1日から14日まで、大阪の阪急三番街で地下街でGPSを利用する実証実験が行われた(参照記事)。詳細は別記事「大阪で実験中!“屋内で携帯GPSナビ”体験記」でも書いた通りで、ここではGPSナビゲーション以外にも携帯電話やICカードを用いた情報提供サービスの実験が行われていた。

 今日の時事日想は特別編として、前回に引き続き、大阪の阪急三番街で行われた実験の模様をレポートする。

PiTaPa/ICOCAを利用した情報提供サービス

 関西で広く普及している交通系ICカードといえば、スルッとKANSAIの「PiTaPa」とJR西日本の「ICOCA」である。「ICカードを利用した情報提供システム」とは、この2枚の交通系ICカードを用いて街情報の提供をするものだ。

 このシステムでは、PiTaPa/ICOCAの読み取り機を内蔵した情報キオスク端末を使い、タッチパネルで阪急三番街の店舗を調べられる。さらにキオスク端末設置場所から検索した店舗まで地図と経路が表示され、目的地までのルートが視覚的に分かるようになっている。

 特徴は、利用時にPiTaPa/ICOCAをかざすことで、システム側でカードのID情報と検索履歴を保存すること。「直前に検索した店舗」の情報が記録されているため、店舗を検索し、カードをかざすと、別の場所に設置されたキオスク端末にカードをかざした時も、先に検索した店舗までの地図とルートが表示される。また、過去に検索した店舗情報はPiTaPa/ICOCAのID情報ごとに保存・蓄積されて、傾向分析が行われる。システムの利用回数が増えれば、その人の趣向が分析されて、「その人の好みに応じた店舗をリコメンドするようになる」(説明員)という。

 「ICカードを利用した情報提供システム」は、GPSナビのように手元で誘導してくれるわけではないが、“カードをかざすだけ”でユーザーごとに最適な情報を表示する仕組みは使いやすい。

 「(利用者の)ターゲットとしては、GPS携帯電話のサービス利用に難しいと感じる方を想定しています。普段お使いの交通系カードをかざすだけなので、お年寄りなどにも使いやすいでしょう」(総務省近畿綜合通信局調査官の吉田晴彦氏)

PiTaPa/ICOCAを利用する情報キオスク端末。タッチパネルで地下街の店舗を検索し、カードをかざすと、目的地までの地図が表示される。ルートはキオスク端末が設置された場所からの経路
検索した店舗の情報はカードIDとセットでサーバー上に保存。利用回数が増えると、好みの店舗を傾向分析してお勧め店舗を案内するリコメンド機能も用意されている

情報キオスク端末には、簡易端末タイプもある。こちらは店舗検索機能などが付いておらず、カードをかざすと直前に検索していた店舗までの経路表示をする。地下街に多数設置することで、検索後に道に迷っても「現在地」と「目的店舗までのルート」が再確認できる

小出力のワンセグ放送を使い、店舗を動画でPR

 交通系ICカード以外では、普及が進む携帯電話の「ワンセグ機能」の活用も実験された。これは通常の放送波が届かない地下街において、小出力・小型の送信機を使った店舗の広告情報をワンセグで流すというもの。地下街の複数の店舗に小型の送信機を設置し、“その店舗から半径1メートル程度”の範囲内でのみ、お店のプロモーション映像が受信できる。

 「ワンセグは放送波なので利用には事業免許が必要ですが、これだけ小出力だと免許なしで利用できます。携帯電話の標準機能となったワンセグを使うことで、今あるケータイが映像配信の受信機として使えるのがポイントです」(吉田氏)

 実験は、地下街の店舗の一部に送信機を設置。試験用周波数にチューニングすることで、店舗ごとに作られたプロモーション映像が見られるというものだった。筆者も実際に試したが、映像が受信できるのはアンテナ近くの1〜1.5メートルほどなので、通路を挟んで対面に店舗があっても、混信することなく映像を受信できた。

 「送信出力がかなり低いので、興味があるお店の方を向いてワンセグ受信をすると、(通路の)反対側の店舗からの電波は利用者の体で遮られてしまうのです。だから、ユーザーが向いた方の店舗からの映像だけがきちんと見られる」(説明員)

 ワンセグを使えば、ユーザーにパケット料金負担を強いることなく、映像コンテンツを配信できる。また、かなり狭い範囲でしか受信できないので、スポット広告的な使い方も可能だ。利用時にチャンネル合わせが必要になるといった課題はあるが、ワンセグの新たな活用方法としてユニークだろう。

ワンセグを使った店舗のプロモーション映像配信システム。店頭のランチ見本が置かれたテーブルの奥に小さなアンテナがあり、そこから小出力でワンセグの電波が送信されている
こちらも同じく、ワンセグ利用実験中の店舗。映像の動きはスムーズであり、普通のワンセグ放送受信と同じように見られる
上記の2店舗は、写真のように通路を挟んで向かい合わせになっている。このような近接した環境でも、小出力・ワンセグ送信の映像配信は混信することなく利用できる

小出力・ワンセグ送信システムで使用されている小型送信機。大きさは少し大きな無線LANルーター程度。このように店舗看板の裏側にも設置可能だ

“屋内ナビ”の重要性が増す

 大阪・阪急三番街での実証実験は、現在、産官学で取り組まれている大規模な都市再開発計画「大阪駅北プロジェクト」と連携している。このプロジェクトでは、大阪駅直近の24ヘクタールに職・住・商の複合型施設が作られる予定であり、特にショッピングゾーンでは「施設の複合化・複雑化が進むことで、歩行者の案内・誘導システムが重要になる」(吉田氏)という。GPS携帯電話、交通ICカードの活用、ワンセグ利用の新サービスなど、幅広い利用者層を想定して実験が行われたのはそのためだ。

 この大阪駅北プロジェクトに限らず、最近は大型化・高層化をした多目的ビルや大規模駅施設、郊外の大きなショッピングセンターが増えている。これらの商業施設では、来訪者の経路案内サービスが顧客満足度の向上のために重要である。さらに屋内での店舗検索やルート案内サービスは、位置情報広告や店舗誘導によるリアルアフィリエイトビジネスに展開する可能性もあるだろう。

 GPS携帯電話やFeliCaを用いたICカードの普及は、「位置と地図」を様々なビジネスの素地とするが、その流れは“屋内”も例外ではない。むしろ屋内ナビにこそ、多くの新サービスとビジネスの可能性が広がっているかもしれない。

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