「日本の構造改革は進まない」、危機感なき福田政権藤田正美の時事日想

» 2008年02月18日 09時41分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」 


 東京で開かれた日米欧など7カ国財務相・中央銀行総裁会議は2月9日、世界経済に下振れリスクがあるとの認識を示して、「個別あるいは共同して適切な行動をとる」ことにした。

 「危機」の発端は米国の低所得者向け住宅ローンであるサブプライムローンの延滞が広がっていることだ(関連記事)。これによって高金利のサブプライムローンを組み込んだ金融商品が値下がりし、それが金融機関の多額の評価損になって表面化している。すでに損失額は全世界で13兆円前後に達しているが、まだ膨らむ可能性が大きい。このため金融機関は、資本増強を行うと同時に融資に慎重になっている。それが実体経済に影響を与え、米国をはじめとして景気の減速が明らかになりつつある。

財政出動に慎重な姿勢を示すヨーロッパ諸国

 先進工業国は「現状認識」として一致したとはいえ、それにどう対処するかは国によってかなり異なるようだ。米国の連邦議会は、過去最速と言われるスピードでブッシュ大統領が提案した総額16兆円に上る景気刺激策(税の戻しと設備投資促進)を承認した。2008年11月に大統領選挙を控えていることもあって(関連記事)、共和党も民主党も景気悪化の責めを負わされたくないという思惑が透けて見える。

 さらに通常は財政均衡の守護神として振る舞うことの多いIMF(国際通貨基金)のストロスカーン専務理事は2月13日、金融政策が景気悪化を防ぐ第一防衛ラインとしながらも、財政的に余裕のある国は財政出動することも検討すべきと語った(参照リンク)

 もともと財政による景気刺激を主張したのはケインズだが、それがどの程度有効かということについては議論がある。さらに財政出動した結果、財政赤字が増大し、結果的にインフレ、長期金利の上昇を招くという批判もあった。バブル崩壊後の失われた10年の間、財政による景気刺激を続けた結果、日本はGDP(国内総生産)の1.6倍にも及ぶ国の債務を抱えてしまった。

 その意味では、米国やIMFの主張にもかかわらず、英国やスペインを除くヨーロッパ諸国は財政出動にはやや慎重な姿勢を示している。そればかりではない。今回の米国の景気対策はかつて例のないほど早いタイミングで決定されたが、政治家の決断は「遅すぎる」のが普通だ。米FRB(連邦準備理事会)のグリーンスパン前議長の回顧録でも、2001年9月11日のテロの後、財政支出が検討されたが、結果的に経済は自律的に回復し、財政刺激策はほとんど何の役にも立たなかった。

蚊帳の外に置かれている日本

 もっとも日本は、こうした議論のほとんど蚊帳の外に置かれている。金融政策でも財政政策でも世界の景気に役立つことはほとんど何もできないからである。日銀の政策金利はいまだに0.5%でしかなく、緩和する余地はまったくない(1回だけ0.25%引き下げることはできるだろうが)。デフレ状況のときはゼロ金利、量的緩和という異常事態まで敢えて実行したが、今の状態でそこまでやれば逆にインフレの懸念が強まるだけだ。

 金融も財政も打つ手がなければ、残された手段は市場開放を進めることで消費や直接投資を促進することなのだが(実際、G7でも日本は構造改革を進めるように要請されている)、現在の福田政権ではほとんど不可能だと言ってもいい(関連記事)

 その理由は単純である。構造改革を進めるためには、従来の政策優先順位を変えなければならない。簡単に言ってしまえば、道路を造ることよりももっと波及効果の高いと思われるところに資金をつぎ込んだり、国のビジネスを開放して民間資金を導入したりすることが必要だ。

 しかし福田政権は自民党のほとんどの派閥に支持された政権。そういう政権が蛮勇を振るうことは不可能である。小泉首相は、人材不足の隙間を縫って首相になり、国民の圧倒的支持を取り付けることによって自民党内の支持を得た。福田政権とはまったく違うのである。だから、日本の構造改革は絶対に進まない。今、日本にできることは、世界経済が落ち込まないように祈ることだけなのかもしれない。

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