樋口流、部下を巻き込むテクニック必須スキル“巻き込み力”向上演習2008

実績が評価されてマネージャーに抜てきされたあなた。しかし部下を持ったとたんに、求められるものが変わってきます。「部下がついてくるリーダーになるには?」「的確に部下を指導し、成果を上げるには?」「どこまで部下をしかっていいんだろう?」。アイデアマラソンの発案者・樋口健夫氏が、部下の能力を引き出し、発揮させるマネージャーになるために必要なことを教えます!

» 2008年02月18日 10時00分 公開
[PR/Business Media 誠]
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 日本から飛び出し、外国に駐在して、その国と日本を結ぶビジネスを行う商社マン。商社マンは、高い巻き込み力が要求される職業といえる。言語や習慣が異なる現地スタッフと上手く付き合い、プロジェクトごとに異なる取引先の相手と巧みに交渉しながら、さまざまなビジネスをまとめあげる。人並み外れた“巻き込み力”がなくては、商社の仕事はとても務まらない。

 今回登場していただくのは、三井物産の商社マンとしてナイジェリア、サウジアラビア、ネパールなどさまざまな国の駐在経験を持つ樋口健夫氏だ。国が違えば、人もいろいろ。日本とは習慣も考え方もまったく違う異国で、さまざまなビジネスを成功させてきた樋口氏は、若い頃は「たき付け屋の樋口」と呼ばれていたほどの“巻き込み力のプロ”である。

 ここからは樋口氏に、いかに部下を“巻き込む”かについて、ビジネスの現場でよくあるシーンを想定し、その対処法としてどう樋口流で解決するか、その極意を語ってもらった。「部下のやる気と能力をどうやって引き出そう?」このテーマに悩む新人マネージャーには、ぜひ参考にしてほしい。

樋口健夫:1946年京都生まれ。大阪外国語大学卒業後、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。


 担当からリーダーになったら? そう、いよいよ部下たちをリードしていかなければならない立場に立つことになる。そこで必要となる能力が「巻き込み力」だ。

 担当だったころは、自分自身の能力が十分に発揮されていればよかった。自主的であれ、指示されながらであれ、1人で満足な仕事ができていれば、苦手や嫌な同僚とチームを組んで、気を遣いながら仕事をする必要はあまりなかった。

 しかし誰かの上に立つとなれば、自分自身の能力を発揮するだけでは足りない。さらに部下たちの能力を引き出し、発揮させるのもあなたの責任となる。1人でも部下がいるならば、これまでは上司に“引き出されていた”能力を、今度は部下を動かす巻き込み力を得るために、“引き出す能力”に変えなければならない。巻き込み力を駆使して部下を動かせなければ、あなたのリーダーとしての資質が問われることになる。

 では、実際の現場でよくあるシーンを見てみよう。「あるある!」ではなく、ここに巻き込み力があったら事態はどう変わるか、考えてみてほしい。

シーン1:部下をうまく巻き込んでいる……ように見える上司だが

課長 ちょっとキミ、このリポートをまとめておいて。それから、明日の会議の企画書も作っておいてくれるかな。

部下 はい! やっておきます。

 〜3日後

課長 この前頼んだ仕事は終わってるか? 追加で申し訳ないけど、こっちのシステムへの入力も至急やってくれ。すごく重要な仕事だから。君が頼りだよ!

部下 これもですか……? 分かりました。

 〜3日後

課長 新しい案件が入ったよ。大変だと思うけど、いまが踏ん張り時だ。これも頼むよ。

部下 ……はい(課長、自分でやればいいのに……)


 あなたがリーダーになったときに、巻き込み力の一番大切な対象は、若手の担当者である。

 人を巻き込むのは、薪でご飯を炊くのに似ている。

 「はじめチョロチョロ、中パッパ、ジワジワ時に火をひいて、赤子泣くとも、ふたとるな」とは、まさに巻き込み力を示す言葉といえる。ゆっくりと仕事を1件1件増やして、次第に火力を上げていく。ここのところのペースの取り方が、最高に難しい微妙なところだ。

 その担当の仕事の絶対量が多くなりすぎないように、注意しなければならない。このやり方で巻き込み力の強さを上げていくと、必ずどこかでゆがみが生じ始める。これが中パッパの状態である。

 まずは担当の態度に、少しずつ変化が出てくる。避けるようになったり、視線を合わさなくなったり、笑いが少なくなったりする。リーダーは、鈍感であってはならないが、過剰に反応してはいけない。

 このあたりの段階から、担当は、あなた自身がどれだけの仕事をしているかを注視し始める。「自分が仕事を過剰に押し付けられ始めているのではないか?」と考えるのだ。

 まだこの段階では担当に「君が頼りだ」というベタ文句で通すこともできる。調子に乗りすぎて、どーんと一気に仕事をたくさん出しすぎると、ご飯でいう“おこげ”になる可能性がある。おこげができても少し褐色の程度ならおいしいこともあるが、こがして煙を出しては元も子もない。あなたのグループ内の人間関係が崩れてしまうのだ。

シーン2:やる気が空回り? 巻き込んだ部下とのコミュニケーション

課長 このプロジェクト、おまえに任せるからな。大事なプロジェクトだ。

部下 はい。分かりました。やります。

 〜1週間後

課長 この前頼んだプロジェクト、進み具合はどうだ? (どうして進捗を全く報告しないんだ? わざわざ聞かないとダメなのか)

部下 いえ、まだできていません。すみません。

課長 ……で、いつまでに企画書はできるんだい?

部下 えっと、来週の火曜までには(どうしよう、ほかにも仕事たくさんあるのに……)。

 〜1週間後

課長 どうだ?(いつもこっちから確認しなくちゃいけないのか?)

部下 はい。まとめました(課長が勝手にしゃべった内容じゃないか。あんなに意味が分からない話、まとめるのが精一杯だよ)。

課長 ──これって、この前言っていたことを個条書きにしただけじゃない?

部下 はい。課長のおっしゃっていたことをまとめたのですが。

課長 (このままじゃ進捗会議に提出できないよ……)。おれがやったほうがいいか? (いや、それじゃこの部下が成長しない……) いや、後でサンプルを渡すから、同じようにまとめてくれ。今日中だよ。

部下 はい(まずい、間に合うかな……)。


 部下をうまく巻き込んで仕事を進めたとしても、巻き込みすぎて部下が燃え尽きてしまうこともあり得る。また、担当者の経験値や知識の限界を超えたときには、やる気も空回りしかねない。こうした限界付近での巻き込み力を発揮させるためには、例えば次のようなアプローチが考えられる。

巻き込み力ポイント
1 懐に予備時間を持て
2 決して怒るな
3 たたき台は一緒に作る
4 協力体制を重視
5 全部やってはいけない
6 できない質と量を押しつけるな
7 結果では担当者を誉めよ
8 同じレベルの仕事をできるだけ早く繰り返させよ

 まずいかなる案件でも、リーダーの懐に予備の時間をできるだけたくさん取っておくこと。締め切りまでの時間がなくなってしまったら、リーダー自らが仕事を進める以外に方法はない。そして、しっかりとしたたたき台を担当者が作るまで面倒を見る。たたき台が完成し方針が固まってしまえば、「赤子泣いても、ふた取るな」である。また、担当者との打ち合わせの内容は、その都度、業務日誌に記載しておく。

 担当者が仕事を始めなかったり、きちんと進行していない場合には、スケジュールをにらみながら、手遅れにならないように協力という名目の介入を強化していく。決して怒ったり、短気になったりしてはいけない。まずは担当者をサポートする人を増やす。それが不可能な場合は、あなた自身が一緒に仕事に取りかかる。会議室を予約して2人で、あるいはサポートの担当者を加えて一緒に作業を始める。

 このとき重要なのは、担当者の仕事を丸々取り上げてしまわないこと。サポートしてでも共同で作業することで、担当者は学び、成長するからだ。

 その仕事の成果をほめる場合、ごくわずかでも担当者がその仕事に参加したならば、担当者を立てることが、次の案件の巻き込み力につながる。その後も、同じレベル、同じ種類の仕事であれば、担当者も断れなくなる。これが、巻き込み力をどんどん強化することにつながるのだ。

 以上、いかに部下とコミュニケーションを取るか、その重要性に気付いていただけただろうか? 会社という組織の中では、個人プレイではなく、チームとしての成果が求められることが多い。リーダーになれば、部下を巻き込み、チームとして成果を出すことが非常に重要なミッションとなる。

 人の能力とやる気を、どうやって引き出すか。巻き込み力、すなわちコミュニケーションスキルは、あなた自身の評価につながる大切な能力なのである。

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提供:株式会社社員教育研究所
企画:アイティメディア営業本部/制作:Business Media 誠 編集部/掲載内容有効期限:2008年12月31日