「会社四季報が売れていないときは株の“買い時”」――山口揚平×北原奈緒美 投資入門対談(3)山口揚平の時事日想・特別編

» 2008年02月12日 00時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

山口揚平(やまぐち・ようへい)

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 「投資を始める前に企業のどこを見ればいいのか」「情報収集の仕方」など、投資の基本を学んでいく対談企画。山口揚平氏と北原奈緒美氏が20〜30代のビジネスパーソン向けに、投資のススメを語った。

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短期売買は高速道路を制限速度以上で走行するようなもの

――どうやって投資スキルを身に付ければいいでしょうか?

北原奈緒美(以下、北原) 車の運転もそうですが、免許を持っていない人は、まずしっかりと勉強をしますよね。投資も同じことで、まずは投資について勉強をしなければなりません。そして実際に道路で運転してみると、分かることがたくさんあります。これも投資にいえることで、実際に投資をすることで分かることがたくさんあります。

 ただいきなりたくさんのお金を投資するのではなく、余裕資金でよく知っている企業に投資をするのがいいでしょう。「短期間で結果がすぐ欲しい」という人は短期売買が向いているでしょうし、「のんびりと結果は後から付いてくる」と思っている人であれば中長期での運用が向いているでしょう。

山口揚平(以下、山口) やはり北原さんは中長期派ですか?

北原 そうですね。短期で売買するということは、高速道路を制限速度以上で走行するようなことなので、視野が狭くなります。つまり株価の値動きによって、気持ちがどんどん熱くなり、正確な判断ができなくなってしまいます。そのため「なんであの値段で買ってしまったのだろう」と、あとで後悔することが多いですね。

 一方の中長期であれば、ゆっくりと自動車を走らせるようなもので、ニュースなどを分析することができるというメリットがありますね。

 投資の本質は企業を応援することなので、やはり中長期での運用が基本だと考えています。しかし「任天堂を応援したい」と思っても、500万円※ほどのお金が必要です。いきなり500万円もの大金を投資に使うのは、やや無理があるでしょう。ただミニ株であれば10分の1の価格で購入できるため、任天堂の株も50万円あれば投資できます。初心者は、まずはミニ株から始めるのをお勧めしますね。

※2月8日現在の株価は4万7500円

山口 僕もまずは投資を始めることが大切だと思います。年を重ねてから投資を始めると、初めてのスキーなのに山頂から滑るようなもの。そのため雪ダルマのように、転がり落ちる危険性がある(笑)。20〜30代から投資を始めれば、じっくり勉強して投資と向き合うことができるタイミングでしょう。

 「貯蓄から投資へ」という時代の流れの中で、団塊世代が退職金を元手に投資を始めようとしても、リスクがとても大きいのです。20〜30代であれば何回も転びながら、投資をしていけばいいと思います。

財務諸表の分析が大切

――どういった情報の取り方をされていますか?

山口 僕の場合は企業の財務諸表を読みます。中でも一番よく見るのがキャッシュフロー計算書です。利益は作り上げることができるが、キャッシュフローはお金の動きを映し出す“生もの”のようなもの。

 利益は出ているのに現金が乏しい会社が5年後に粉飾していた……こういったケースが多いのです。結局は利益に出すために現金を回さないといけないので、粉飾がバレてしまう。利益だけを見ている個人投資家は、騙されることがあるので注意した方がいいですね。

 損益計算書を見て「会社の利益が伸びている=株を買う」といった個人投資家は多いと思います。中には貸借対照表を見る人もいるが、キャッシュフロー計算書を分析する人は少ないでしょう。しかしプロの投資家はまずキャッシュフロー計算書を見ます。そして貸借対照表、最後に損益計算書を分析します。

北原 キャッシュフローは利益の先行指標ともいいますね。

山口 その通りです。「キャッシュフローは利益の先行指標」の例として、日産自動車が挙げられます。日産自動車は2000年3月期に大幅な赤字を計上しましたが、実はその前にキャッシュフローは回復していたのです。そのため翌年は、「V字回復」を成し遂げました。

 投資で儲けるということを考えると、まず人より早く投資をしなければなりません。そう考えれば、キャッシュフローが回復しているかどうかを分析することも1つの目安になるでしょう。

 ただ投資の初心者や未経験者にとって財務諸表を理解することは、少し難しいのが現実です。北原さんはどんな情報の取り方をお勧めしますか?

北原 まずはWebサイトから企業の事業内容や中期経営計画を見て、その会社に「期待が持てるかどうか」を重視すればいいと思います。もちろん同業他社の動向も注意しなければなりません。このほかにもIRに注意するなど、できるだけ多くの情報を見る必要があるでしょうね。

 「投資をしよう」と考えていると、情報の見方が大きく変わってきます。例えばサブプライムローン問題(低所得者向け住宅ローン)や為替、GDPなど、1つ1つ別のニュースとして見ていたものが、実はつながっていることが分かってくるでしょう。いままで読んでいたニュースの理解が深まり、ビジネスパーソンであれば投資をすることによって、経済の理解度が深まるのではないでしょうか。

株式相場は他人が作るものなので、予測することはできない

――株を買うタイミング、売るタイミングを教えてください。

北原 私の場合はチャートを重視します。チャートというのは株価の履歴にあたるため、企業の株価がどういった動きをしてきたのかを、じっくりと見ます。過去と比べ現在の株価はどのあたりに位置しているのかを、まずは知る必要がありますね。

 株は買うのも売るのも、本当に難しいものです。しかし自分なりに「買うタイミング」「売るタイミング」を見つけなければなりません。「みんなが今は買うタイミング」と言っているから、「じゃあ自分も買ってみるか」という考えで買っても、高値をつかむことが多いので注意が必要でしょう。

 逆に「みんながもうダメ」と売り始め、自分も売った後で株価が上昇していくこともよくあります。もちろん人の意見も大切ですが、あまり流されずに、自分の考えを大切にして、投資をすることがいいでしょうね。

山口 あと株関連の雑誌の売れ行きも、注目したほうがいいですね。例えば『会社四季報』が売れていない時は、“買い”でしょう。というのも個人投資家は株に対して関心が低くく、割安な株が多いことがあります。反対に売れている時は“売り”。つまり雑誌の売れ行きと株価は、非相関関係にありますね。

北原 「証券会社に人が溢れると、そこが天井(高値)だ」ともいいますものね。ということは現在の相場は買いでしょうか?

山口 タイミングとしては買いでしょうね。ただ安いからと言って買うのではなく、「投資をしようと考えている会社が10年後にも残っているか?」と予測し、「世界と戦える企業に成長している」と思えるようであれば、投資をしてもいいでしょうね。

――これから投資を始めようとしている人にメッセージをお願いします。

北原 「投資をしよう」と思った時から、自分の将来のお金と真剣に向き合うことがスタートします。投資金額が決まったら、まず銘柄のリストを作り、その会社の事業内容を徹底的に調べて欲しいですね。

 また「このタイミングで買った」「ここで売った」といったシミュレーションをするのもいいかもしれません。そうすれば「いくら儲かった」「いくら損した」といった感覚がつかめます。そして実際に証券会社で口座を開き、投資を始めてみるのはいかがでしょうか。

山口 繰り返しになりますが、まずは企業の財務諸表を勉強して欲しいですね。財務諸表の勉強はとても難しいのですが、僕の場合は通勤電車の中で、毎日2社の財務諸表を読んでいました。不思議なことに毎日見ていると、会社の“匂い”を感じることができます。

北原 匂いとはどういう意味ですか?

山口 天才数学者は数字を、1つの性格として考えるそうです。例えば3+5=8ですが、3という性格と5という性格を足せば8になるということです。もちろん僕は数学者ではありませんし、天才でもありません。しかし数学者のように、財務諸表を見ていれば「この会社はダメ」と、匂いで感じることができるようになりました。

 株式相場というのは他人が作るものなので、完璧に予測することはできません。しかし会社を理解することは難しくありません。そのためにも財務諸表を理解することは大切だと思います。

北原奈緒美(きたはら・なおみ)

野村證券出身で、現在はUFPFフィナンシャル・サービス株式会社シニアマネージャー。日本テクニカルアナリスト協会研究一部幹事。レギュラー執筆は株式新聞水曜日版のコラム「マネーサプリ」のほか、株式にっぽん毎月15日発売号ではチャート分析をする「チャートでチョイス」を担当。また、インタビュアーとして企業トップとの対談も手掛けている。テクニカルアナリスト、ファイナンシャルプランナー。


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