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» 2008年02月07日 10時34分 UPDATE

保田隆明の時事日想: サッポロビール特別委員会は正しいのか?

スティールパートナーズから買収提案を受けているサッポロビール。スティールの買収提案が企業価値を既存しないか、第三者の特別委員会に諮っているが、その回答は“予想通り”のものだった。

[保田隆明,Business Media 誠]
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著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 スティールパートナーズから買収提案を受けているサッポロビール。スティールパートナーズからの買収提案が企業価値を毀損しないか、第三者からなる独立委員会に諮っていたが、その結果が出てきた。特別委員会は、スティールによるサッポロビールの買収について、「企業価値を毀損し、株主の共同の利益を著しく害するおそれは大きいと評価する」と判断した。

特別委員会が「予想通り」スティールの買収提案を否定

 これを受けてサッポロビールは、3月5日までにスティールの買収提案に対して何らかのアクションを起こすことになる。おそらく提案を拒否し、場合によっては敵対的買収防衛策を発動するという流れになるだろう。

意見書骨子

(1) スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)・エル・ピー(SPJSF)が、本件買付提案に記載された買付行為を行う場合には、サッポロホールディングス株式会社(サッポロHD)の企業価値を毀損し、株主の共同の利益を著しく害するおそれは大きいと評価する。

(2) 本件買付行為が濫用目的によるものであるか否かについては、特別委員会としては、特に判断する必要はないと考える。したがって、濫用目的の存否は判断しないこととした。ブルドックソース事件最高裁決定が濫用目的を買収対応策発動の要件としていないことに鑑みれば、これを独立した要件とする必要はなく、企業価値を毀損し、株主共同の利益を害するおそれの有無だけを判断すれば足りる。

(3) SPJSF は、本件買付提案に関して、経営支配権取得後の経営方針、経営チームに関する情報、投下資本の回収方針等企業価値を左右すると考えられる重要な情報を提供していない。これは、ブルドックソース事件最高裁決定が示した要件にも該当するものである。さらに、SPJSF による本件買付行為は、強圧的二段階買収に該当する可能性が高い。したがって、SPJSF が本件買付提案に記載された買付行為を行う場合には、サッポロHD の企業価値を毀損し、株主の共同の利益を著しく害するおそれは大きい。

(4)付言するに、特別委員会の上記評価は、サッポロHD の現在の経営に全く問題がないとするものではなく、現経営陣に対しては、問題点を把握し速やかに経営改善に努め、株主の期待に応えるよう要望するものである。

(サッポロビール「『当社株券等の大規模買付行為への対応方針』に基づく特別委員会からの意見書受領について」より、PDF


特別委員会の根拠は、最高裁のブルドック判決

 今回の特別委員会の判断は、プレスリリースを見る限りは、スティール V.S. ブルドックソースの法廷闘争の際の最高裁の判断(参照記事)に依拠した内容となっている。あの法廷闘争ではスティールはほぼ存在価値そのものを否定されたわけで、それに準じて判断すれば今回の判断がスティールに不利になるのは“予想通り”である。

 ここで問題となるのは、果たしてブルドック裁判での最高裁の見解が正しく、広く受け入れられるべきものなのかどうか、という問題だ。最高裁の判断以来、M&Aに詳しい弁護士を中心に賛否両論が巻き起こっている。敵対的買収をめぐる議論は、何が正しくて、正しくないかのコンセンサスがまだ形成されていない。

株主は直接買収提案の是非を判断する機会を奪われている

 特別委員会はサッポロの社外メンバー3名で構成されている。スティールからの提案が株主にとってプラスかどうか、この3名が判断するわけだが、これだと株主は自らがスティールの提案を判断する機会を奪われてしまい、すべてをこの3名に委ねることになる。

 株主にはいろいろな考えの人がいるだろう。ブルドックの判決に対して法曹界でも見方がおおいに分かれたことからも、サッポロの株主全員が特別委員会の判断に同意するという保証はない。おそらく中には、特別委員会の判断に同意できない株主もいるはずだ。

サッポロ、スティール間での功績の奪い合いを冷めた目で見る株主たち

 サッポロビールは工場の閉鎖や清涼飲料での事業提携など様々な戦略を進めているが、それをスティールは自らの提案が採用されたと主張し、「スティールは株主価値の向上に貢献している」とアピールしている。それに対して、サッポロはそれらの戦略はスティールの提案には関係なく、サッポロ経営陣、取締役会が独自に判断して行ったものであり、スティールが株主価値の向上に貢献しているなんてとんでもない、と応じている。そして、スティールが主張するそれらの提案は、そもそも提案と呼べるようなものではなかったとサッポロは主張している。

 両社は今、お互いにプレスリリースを公表しあう形でこういった功績の奪い合いを行っているが、大人がやる行為としてはいささか幼稚ではないか。ただ、最近の敵対的買収をめぐる議論が、往々にしてメディアや世論の影響を大きく受けることを考えると、こういうプレス合戦は重要になってくる。

 ただ、お互いがどういう行為を取ろうとも、株主が直接それを判断する機会を持たないのであれば、サッポロをめぐる議論はどこまで行っても密室の中での議論にしか見えない――そう思う株主は少なくないのではなかろうか。

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