「投資は恋愛結婚、主観的投資のススメ」――山口揚平×北原奈緒美 投資入門対談(2)山口揚平の時事日想・特別編

» 2008年02月05日 00時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

山口揚平(やまぐち・ようへい)

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 これから投資を始めようとしている人や、すでに投資をしている初心者に「投資とは何か?」を考える。マネー関連雑誌で活躍している北原奈緒美さんとの対談を通じて、銘柄選びのコツや働きながらどのように投資をしてばいいのかを、語ってもらった。

「貯蓄はレストラン、投信は弁当、株は食材」――山口揚平×北原奈緒美 投資入門対談(1)

主観的な視点が大切

――これから株式投資を始めよう、新しい銘柄を買おうと思っている人は、まずどうすればいいでしょうか?

北原奈緒美(以下、北原) 私の場合、何かの情報で気になった銘柄があれば、まずその会社のWebサイトを見ます。そしてその会社に関する情報を調べ、IR説明会があれば足を運び、機会があれば担当者と話をさせていただきます。

 その会社のことを肌で感じることができるまで、株は買いませんね。もし興味を持って「買いたい」と思えれば、買います。そしてその後もIR説明会に足を運び、興味がわかなくなれば売ります。

山口揚平(以下、山口) 僕も北原さんの考え方には賛成ですね。僕は「資本主義には愛」が必要だと考えていますが、現状の“金融資本主義”は間違っていると思う。だけど会社は大好き。会社は社会の弱点を補うための組織で、価値を生み出すもの。1人でできないことをみんなで何かをやろう、またできるのが会社だと思う。そのことを応援するために、僕は投資をしています。

北原 金融資本主義とはどういう意味ですか?

山口 多くの個人投資家は株価が「高いか安いか」という軸で考えています。Aという銘柄を「安いから買う」という点でしか、株を見ていない人が多い。逆にいえば「高いから売る」につながります。それは会社でなくてもいいことで、要するに(会社を見ずに)株を買っているだけのこと。株の先には会社があって、会社の先には社会が存在しています。これは非常に重要なことだと思う。

 株価が高いか安いかということよりも、投資をしようとする会社のことが「好きか嫌いか」という主観的な視点――株式投資とは本来“恋愛結婚”のようなものだと思うのです

北原 つまり一番いいのは、好きな銘柄を安く買うということですか?

山口 その通りです。嫌いな銘柄を高く買う人はいないと思いますが、嫌いな銘柄を安く買うより、好きな銘柄を高く買うほうがいい。主観的な視点がなければ、投資というものが「富の拡大サイクル」しか考えない、つまらないことになってしまう。

北原 どうすれば自分の中で、主観的な視点を作ることができますか?

山口 まずは会社を理解することから始まります。個人投資家は会社を理解することが必要だが、一方で会社は、きちんとした情報を提供しなければなりません。会社は自分の会社に「投資をしてもらおう」と考えているのであれば、表面的な情報だけではダメだと思う。どんどん会社の情報を提供する必要があるでしょうね。

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自分が興味を持って調べられる業種・銘柄を選ぼう

――まずはどんな業種や銘柄を買えばいいのでしょうか?

北原 自分が嫌いな業種や銘柄に投資をするのは止めたほうがいいですね。興味をもって調べることができる業種や銘柄を選ぶことが大切です。

 あと生活に密着した銘柄を選ぶのもいいですね。例えばJRで通勤をしていれば、身近なところでJRに関係する銘柄を買ってみるのはどうでしょうか。電車の本数が増えたり、駅ナカの利用者が増えていたり、注目する点はたくさんあると思います。

山口 北原さんご自身では、どういった業種や銘柄に興味がありますか?

北原 今、興味をもって調べているのは鉄鋼です。なぜかというと証券会社で働いていた時代に、鉄鋼の会社を営業で回っていました。そのためには鉄のことを分かっていないと、仕事にならなかったのです。そこで鉄のことを勉強していくうちに、だんだんと興味がわいてきたのです。

 山口さんはどんな銘柄に興味がありますか?

山口 世界と戦える会社が好きですね。例えば自分の会社しか持っていない技術であったり、コンテンツであったり、そういった会社を見つけたときには、株価が高いか安いかというのはあまり関係ありません。先ほど申し上げた通り、好きか嫌いかという主観的な視点で株を買いますね。

――働きながら株式投資とどのように向き合えばいいのでしょうか?

山口 家を買うように株を買ってほしいですね。家を買う時には自分で調べたり、不動産屋から話を聞いたりします。同じようにできるだけ情報を仕入れてから、株を買うようにしたほうがいいと思う。

 例えば男の人であれば車を購入する際、カタログで調べたり、実際に試乗車に乗る人も多いでしょう。売る時の転売価格のことを考えている人や、車の色で選んで買う人もいると思う。「この車が好きだ」という主観的かつ「高く売れるかな」という投資的な考えを組み合わせ、ゆっくりと時間をかけながら銘柄を選ぶことをお勧めします。

株価のことばかり気になれば“感情のコスト”が高くつく

北原 具体的にはどれくらいのペースで買えばいいのでしょうか?

山口 1年間で1銘柄――これで十分なペースだと思います。頻繁に売買を繰り返し株価が気になるようだと、“感情のコスト”が高くつく。家や車を購入するように、株を買っていけば精神的にとてもいい。

 転売価格を意識しながら主観的に株を買っているので、株価が上がろうが下がろうが、あまり気にならない。つまり株価というのは買う時にだけ意識していればいいのであって、頻繁に株価をチェックする必要はありません。ビジネスパーソンの基本は仕事に打ち込むことで、きちんと働きながら、うまく株と付き合っていけばいいでしょう。

北原 私も投資をしていく上で、株価のことばかり気になっていてはダメだと思います。やはり仕事をすることが大切で、株価を気にするということは精神的にもマイナスでしょう。

 しかし自分の大切なお金を使って投資をしている以上は、「株価がまったく気にならない」というのは難しいですね。そのため午前の終値やその日の終値をチェックするだけで、十分だと思います。

 20〜30代であれば株で失敗しても、いくらでも取り返すチャンスはあります。失敗したからといってあきらめず、次の投資スタイルを構築していく材料にすればいいと思います。「夢を買う」というのも、ひとつの投資スタイルですよね。またのんびりと中長期的な投資をして、きちんと仕事に打ち込むことが賢い投資術だと考えています。

(→後編に続く)

北原奈緒美(きたはら・なおみ)

野村證券出身で、現在はUFPFフィナンシャル・サービス株式会社シニアマネージャー。日本テクニカルアナリスト協会研究一部幹事。レギュラー執筆は株式新聞水曜日版のコラム「マネーサプリ」のほか、株式にっぽん毎月15日発売号ではチャート分析をする「チャートでチョイス」を担当。また、インタビュアーとして企業トップとの対談も手掛けている。テクニカルアナリスト、ファイナンシャルプランナー。


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