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» 2008年01月31日 11時56分 UPDATE

神尾寿の時事日想: ケータイ春商戦を制するのは? 各キャリアの布陣を俯瞰する

auは11機種38色、ソフトバンクモバイルは16機種57色――ドコモの705iシリーズやウィルコムを合わせ、携帯・PHS各社の春商戦向けラインアップが明らかになった。2年間の利用を前提とする新販売方式が本格的に始まる今年の春商戦。3キャリアのラインアップと戦略をまとめてみよう。

[神尾寿,Business Media 誠]

 1月28日、KDDI(au)とソフトバンクモバイルが、2008年春商戦向けの新ラインアップおよびサービスの発表を行った。詳しくはニュース記事に譲るが、KDDIの新端末は11機種38色(参照記事)ソフトバンクモバイルは16機種57色の新端末を発表(参照記事)。一方、最大手のNTTドコモはすでに春商戦向けの705iシリーズを先行発表しており(参照記事)、13機種34色が春商戦に投入される。1月21日に新端末を発表済みのウィルコム(参照記事)もあわせて、携帯電話・PHS主要キャリアの“春の布陣”が出そろった。

話題性重視のソフトバンクに、順当な内容のau

 くしくも同日開催となったauとソフトバンクモバイルの発表だが、この日の話題をさらったのは明らかにソフトバンクの方だった。

 ティファニーとコラボレーションした1台1000万円の超高級モデルを筆頭に、携帯電話の使いやすさはそのままにインターネット機能を強化した「922SH」、ドコモで“品切れ続出”となったVIERAケータイのソフトバンクモバイル版「920P」、有機EL搭載の「REGZAケータイ 921T」、8.9mmの薄型モデル「822P」、防水ケータイの「822T」、素材感でデザイン性を高めた「THE PREMIUM TEXTURE 823SH」、スマートフォンの「X02NK」や「X03HT」など、多種多様な新モデルを用意。どれもが注目を集める端末であり、ソフトバンクモバイル社長の孫正義氏が「まさにフルラインアップ」とたびたび強調したのも無理からぬところだろう。

ge_0128abm_tobira01.jpg ソフトバンクモバイルは16機種57色の新商品を発表

 一方、auの新ラインアップも、春商戦向けであることを考えれば、“まっとう”な内容である。同社の新世代プラットフォーム「KCP+(ケーシーピープラス)」を採用するハイエンドモデルは3機種とやや少なく感じるが、これはスタンダードモデルが販売の主力となる春商戦では常道といえる。冬商戦に続いて“有機EL+ワンセグ”を訴求するほか、新たなサービスとして「au Smart Sports」も打ち出した。国際ローミング対応機種が1機種しかなく、W61Sを除けばすべてQVGAという点が他社に比べて大きく見劣りするが、これまでの春商戦では他の商戦期ほど端末性能の差が競争上の差にはならなかった。auの布陣は、良くも悪くも「今までどおりの春商戦」の路線をなぞったものになっている。

ge_0128au01.jpg 新サービス「au Smart Sports」と合わせて発表になったauの新モデル

“選択の幅”を重視するドコモとソフトバンク。“割安感とサービス”のau

 こうして出そろった各キャリアの春商戦向けラインアップを見渡すと、各社の傾向の違いが見えてくる。

 まず、ドコモとソフトバンクモバイルは、支払い方法の多様化と「2年間の利用」をベースにした新販売方式時代にあわせて、店頭に並ぶラインアップ全体の広がりを重視した布陣になっている。高価格なハイエンドモデルから、多様性があり価格帯が手頃なスタンダードモデルまで幅広く取りそろえており、ラインアップ全体のバリエーション感でauを上回る。特にドコモは冬商戦以来品不足が続いていた905iシリーズ一部機種も戦列復帰し、今まで以上に「ユーザーの選択肢」を重視する姿勢だ。

 「(割賦支払い制を含む新販売方式では)販売価格が高くても人気のある端末はきちんと売れる。欲しい端末なら、お客様は入荷を待ってでも欲しい機種を選んで買うようになりました。逆に『価格が安いから』という理由だけでは、端末が売れなくなってきている」(ドコモショップを経営する販売会社幹部)

 ハイエンドモデルからスタンダードモデルまで、質感とデザインを底上げし、その上で“選択の幅”を広げる。これが新販売方式に移行したドコモとソフトバンクモバイルの基本的な商品戦略になってきているのだ。

 一方、auはあくまで“端末の割安感が春商戦では重要”とする布陣である。KCP+対応のハイエンドモデルの投入数は少なく、端末スペックや質感、デザインで見比べると、他社のハイエンドモデルより見劣りする。ラインアップ全体の販売価格差は小さくまとめ、従来型の販売モデル「フルサポートコース」を使って他社の端末より安く販売していく戦法だ。さらに新規加入者がフルサポートコースで端末を購入すると6300円分のポイントを進呈するキャンペーンを実施し、機種変更時のお得感まで打ち出す。

 「フルサポートコースで端末を買うと『2年間は機種変更できない』という誤解が生じて、冬商戦は苦労しましたからね。だから、新規加入でいきなり6300円分のポイントをあげちゃう。これならフルサポートコースで安く端末が買えて、1年くらい使えば(新規加入時の6300円分のポイントと)毎月の獲得ポイントをあわせて機種変更できますから」(KDDI取締役執行役員常務の高橋 誠氏)

 このようにauは端末の販売価格を抑えて買いやすくした上で、「au Smart Sports」をはじめとする新サービスで、他社との差別化とブランディングを行う方針だ。記者会見では詳しい概要は発表されなかったが、「LISMO Video」などの新サービスが春商戦開始後に順次発表・投入される模様である。

 「(春商戦のキャッチコピーである)auの庭には、いろいろな種が蒔いてある。LISMO Videoは代表的なものなんだけど、これがスタートすれば、ワンセグ以外でも有機EL搭載といった映像への取り組みが生きてくる。これから庭に花を咲かせていきますよ」(高橋氏)

「15歳の春」の争奪戦。各キャリアの優位性は?

 春商戦の本番は2月。この商戦期の主役である“15歳の子供たち”が受験を終えて、新入学に備え始める時期が天王山だ。ここに向けて3キャリアは、端末ラインアップ以外にも様々な施策を用意している。

 なかでも携帯電話業界内の注目を集めているのが、ソフトバンクモバイルの投入する春商戦限定キャンペーン「ホワイト学割」だ。これは2月1日から5月31日までの期間に新規加入した学生が対象になり、同社の「ホワイトプラン」(月額980円)の基本料が3年間無料になる。ホワイト学割は、パケット料金定額制の「パケットし放題」(月額0円〜4410円)、「S!ベーシックパック」(月額315円)、専用ポータルサイト「コンテンツ学割クラブ」の利用がセットになるので、厳密に言えば“3年間の完全無料”はありえないが、それでも「学生層への訴求力は強く、春商戦の脅威であるのは間違いない」(ドコモ地域会社幹部)。ドコモとauはホワイト学割への直接的な対抗は避けたものの、22歳以下の新規加入者向けのキャッシュバックキャンペーンを実施し、牽制しながら様子を見る模様だ。

 auは、そもそもの「端末の安さ」に加えて、春商戦ではかなり大胆な販売促進キャンペーンを張る可能性が高い。その背景にあるのは、皮肉なことに昨年12月に起きたKCP+開発の遅れと、それによるハイエンドモデルを中心とした販売不振だ。携帯電話キャリアのビジネスモデルでは、端末を売れば売るほどコストがかさみ、それは価格の高いハイエンドモデルほど顕著になる。auは昨年の冬商戦でハイエンドモデルの不在と販売不振に陥ったが、それが結果的に販売コスト削減となり、各種予算が“プールされている”状況にあるのだ。実際、複数のKDDI関係者が、「(冬商戦の不振で)春商戦向けの予算は積み上がっている」ことを認める。KDDIが、この温存された販促費を春商戦に一気に投入すれば、auの春商戦モデルは発売直後から「新規加入・フルサポートコース加入」を条件に、かなり安いプライスタグがぶら下がるだろう。端末価格の安さは、今期のauにとって最大の武器になりそうだ。

 一方、春商戦におけるドコモの優位性になりそうなのは、新製品投入の「スピード」だ。春商戦は2〜3月が山場だが、実際のピークはメーンターゲットである「受験生が合格を決めてから2週間が獲得の勝負」(キャリア幹部)とかなり短い。短期決戦という一面があるのだ。つまり、できるだけ早く新機種を発売し、いち早く販売促進キャンペーンを本格化できたキャリアが有利となる。

 ドコモは春商戦向けの705iシリーズを昨年の段階で発表しており、すでに一部機種から発売が始まっている。2月上旬には905iシリーズの在庫不足も払拭される模様である。今回の春商戦でドコモの動きは速く、このまま早いタイミングで積極的な販売促進キャンペーンに打って出れば、先手を打てる可能性がある。筆者は、ドコモが展開スピードの有利を生かせるかどうかのターニングポイントを2月中旬と見ている。

ym_705i.jpgsi_willcom-02.jpg ドコモの705iシリーズ(左)と、ウィルコムの春モデル(右)

 携帯電話市場全体が飽和し、一方で既存契約市場の流動性が落ちる中、若年層という“純粋な新規契約者”を獲得する春商戦の重要性は増してきている。さらに今年の春商戦は、携帯電話市場全体の構造変化や、キャリアのビジネスモデル転換期であることも受けて、例年以上に重要かつ注目である。その勝敗の行方はもちろん、各キャリアがどのような戦略をとり、市場はどのような反応・評価をしたのか。今後数年のモバイルビジネスの潮流を見る上で、それは重要なケーススタディになりそうだ。

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