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» 2008年01月28日 10時43分 UPDATE

ロサンゼルスMBA留学日記:「ゴミ拾い」をするビジネスエリートたち

地域への貢献が重視される米国社会。MBA受験の際、「どんなかたちで貢献してきたか」と質問されるほど。ある日、近隣の小学校へ「出張授業」に参加、そこで感動したこととは?

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 地域コミュニティへの貢献。米国では、これが大いに重視される。MBA受験の際に、面接で「あなたはコミュニティにどんなかたちで貢献しましたか」と質問が飛ぶほどだ。

 今回は米国学生のコミュニティ奉仕活動について紹介しよう。

受験で大きなアピールポイントになる「ゴミ拾い」

 MBA受験では、GMATやTOEFLといったテストで好成績を上げなければ名門校に合格できない。それはもちろんだが、これに加えてさらに、学校側が指定したトピックに対して自分をアピールするエッセイを書かなければならない。内容は「これまでに達成したこと」「将来の夢」などが一般的だが、ビジネススクールによっては「地域コミュニティにいかに貢献したか」といった項目も設定されている。

 MBA受験予備校の人間に「どういったエッセイを書くが適切なのか」と聞くと、過去の受験生の例を挙げながら、こう説明してくれた。「理想的なのは……『私は○○湖の環境改善に乗り出し、ゴミ拾い活動を組織しました。その活動は代々受け継がれ、今では○○人が参加する地域の一大イベントになっています』といった内容だ。このエッセイは大学側にも高く評価された」

 MBA受験する人間は“ビジネスエリートになりたい”と思っている人が多いため、基本的にはバリバリ働いている。しかし、コミュニティへの奉仕活動を熱心に行っているビジネスパーソンが、日本でどれだけいるだろうか。地域社会を重視するということだが、若干のカルチャーギャップを感じざるを得ない。

 この手のエッセイを課せられているスクールに合格した友人に話を聞いたところ、「エッセイ執筆のためだけに慌ててボランティア活動に参加した」とのこと。エッセイの「ネタ作り」に励んだというわけで、動機はやや不純だが、結果的には「いい経験になった」とのことだった。

幼稚園に大挙して訪問する大学院生

 筆者の通うUSC(南カリフォルニア大学)でも、地域コミュニティとのつながりは重要視されている。そもそもUSCは大学アメリカンフットボールの強豪で、ユニフォームなどの大学グッズが地域住民に多く販売されているという事情もあるが、それ以外に大学側のさまざまな努力があって地域社会への溶け込みが実現されているといっていい。

 課外活動としてMBAの学生たちが、近隣の幼稚園や小学校に「出張授業に出かける」というイベントが開催されたのだ。出席率はほぼ100%とのことだったので、筆者もそのイベントに参加した。当日になると、経営大学院に通う25〜35歳ぐらいの男女が大挙してバスに乗り込み、学校入り口まで乗りつけるという構図だ。

 筆者が受け持ったのは小学校1年生だったので、授業はごく簡単なもの。「みんなのお父さんお母さんは、それぞれ働いているんだよ。『仕事』って分かるかな?」「『仕事』を通じて社会に貢献しているんだよ。その対価として『お金』をもらうんだよ」といった感じだ。それにしても、小学校1年生の男の子や女の子が質問されるたびに「ハイ! ハイ! 先生、私にあてて! 発言したい!」と勢いよく迫ってくる様子を見ると、子供を教えるとはなかなかいいものだ。

 その後お昼休みとなり、みんなで縄跳びやボール遊びをして、最後に子供たちに学習したご褒美として「ひょうしょうじょう」を手渡し、終了。ビジネススクールの生徒のうち何人かは、継続してこうした授業を熱心に行っているようだ。

障害を持つ子供のスピーチ

 障害者を支援するクラブ活動に取り組む学生もいる。軽度の知的障害を抱えているが、ある程度の運動はできるという少年を集めて、スポーツのイベントを行うという団体があるのだが、あるときこのイベントに参加する少年がビジネススクールの生徒の前で壇上に上がりスピーチをした。

 見るとその少年は、いかにも着慣れていないブレザーを着て、野球帽をかぶるという妙ないでたち。英語も、留学生である筆者が言うのもなんだが、たどたどしくて流暢とは言いがたい。内容は以下のようなものだった。

 「……僕はこのイベントが楽しいです。スポーツを通して、自分の能力にチャレンジができるからです。僕はこのイベントを通じて、自信を持つことができました。支援してくれたお兄さん、お姉さんには、本当に感謝しています」

 やがて、スピーチが終わり、その少年はニコニコしながら「……ご清聴、ありがとうございました」と言った。その瞬間だった。席についてスピーチを聞いていた学生全員が無言のまま一斉に起立し、万雷の拍手をその少年に送った。少年はやっぱりニコニコしたままで、うれしそうにその拍手を浴びていた。

 これも一種のカルチャーギャップというか、米国らしい風景なのだろう。正直、このシーンには少しだけ感動した。

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