インタビュー
» 2008年01月18日 16時30分 UPDATE

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」:伝説のレストランは、なぜ東京で復活したのか――マルハレストランシステムズ・小島由夫氏(前編) (2/2)

[嶋田淑之,Business Media 誠]
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 海外の有名レストランを日本に誘致して成功させるのは決して容易なことではない。料理は、その土地の気候風土や人情と不可分一体を成しているからだ。例えば、熱帯の高温多湿な土地で大汗をかきながら食べる香辛料たっぷりのエスニック料理を、日本で氷雨降りしきる寒い夜に食べたとする。現地で食べた時と同じ感動を味わえるかと言えば、明らかに答えはノーだ。

 現地の味をそのまま日本に持ってきても、決してうまくはいかない。では逆に、日本人の味覚に合わせてアレンジしてしまうとどうなるか? 日本のフランス料理やイタリア料理でもよく起こることだが、たちどころに「フランス“風”料理」や「イタリア“風”料理」に変質してしまう。

日本に誘致して成功するレストランとは?

 何をアレンジして、何を変えてはいけないのか? 小島氏は、その秘訣をこう明かす。「海外のレストラン、とりわけ老舗の名店を日本市場に誘致する際に考えなくてはいけないこと。それは、何があっても決して『変えてはいけないこと』(=「不変」の対象)と、大胆に「変えるべきこと」(=「革新」の対象)とがあるということです。その両者の『識別』を的確に行うことが大切なんです」

 その「識別」のポイントはどこになるのだろうか?

ay_nir04.jpg ディナータイムには、コース形式で料理を提供している(左のメニューとは異なる)

 「お客様から見て『愛情の対象』となってきた部分は、決して変えてはいけません。ニルヴァーナの場合であれば、『ニューヨークならではのインド料理』という部分は変えてはいけないんです」

 2008年1月のディナーコースの一例(8000円)を挙げてみよう。

  1. 「ムング豆のブリニイチジクチャツネ、ナスのディップ、キャビアを添えて」
  2. 「新鮮ホタテのバナナリーフ包み焼き ガーリックミント風味」
  3. 「オーストラリア産ラムシャンク輪切りのカシミール風カレー」
  4. 「プレーンナン」
  5. 「さつまいもとホワイトセロリのライタ」
  6. 「キングブロンとビーフサーロインのタンドールグリル盛り合わせ」
  7. 「ジンジャーチョコレートケーキ」

 いかがだろうか? 純正のインド料理でありながら、同時に、ニューヨークの洗練を感じさせるラインアップではないだろうか。

変えるべきところ、変えてはいけないところはどこか

 小島氏はこうも言う。「また、ニューヨーク時代の『ニルヴァーナ』には、『ホンモノ志向』と同時に、『ノスタルジックな雰囲気』がありました。これも変えてはいけない部分です」と。

 昨今の日本社会は人心が疲弊し、暖かい島国にあるリゾート地への移住や、映画「ALWAYS 3丁目の夕日」に代表されるような、昭和中期へのノスタルジーがちょっとしたブームになっている。そういう意味で、ニルヴァーナの「ノスタルジー」は、顧客ニーズにも適合するのでは?

 「まさにその通りなんですよ。ですから、ニルヴァーナを東京で復活させるに当たっては、『多くの日本人が漠然と抱いている将来に対する不安感を解消すること』、『仕事や家庭などの日常生活に対する不満感を解消すること』と並んで『ノスタルジーを感じさせる』ことを重視したんです」。

 筆者の理解では、小島氏の「不変」の貫徹とは、すなわち、海外の本店が持っている「ときめきや感動の源泉」を、日本という文脈の中で変質させることなく再現することにある。

 逆に「革新」の実現とは、「不変」の貫徹に貢献し得る部分を思い切って変えてゆくことだ。同時に、海外の本店が持っている魅力的なファクターでも、上記の「不変」の対象になり得なかったり、日本での進出地域の気候風土や顧客ニーズにそぐわなかったりする点を、大胆に変えてゆくということである。

 東京ミッドタウンの新生「ニルヴァーナ」は、小島社長のこうした思いが隅々まで裏打ちされた店になっている。ミッドタウンにすでに行かれた方々は理解してもらえると思うが、昼はテラス席の目の前に緑豊かな庭が広がり、夜になれば大きなよく磨かれた窓の向こうに輝く夜景を臨み、ロマンチックな雰囲気が店内に漂う。そしてテーブルに饗されるのは、洗練された“ニューヨーク式インド料理”だ。「日本でもニューヨークと同じように、プロポーズ神話に彩られたセレブ御用達の名店になるのでは?」そんな気にさせられる。

 小島氏はこう語る。「ニルヴァーナはニューヨークで始まり、しかしそれは悲劇的な事故によって途絶えました。それが何年か後に、遠い日本で復活を遂げた。となれば、やはりこの物語は、ニルヴァーナがニューヨークに凱旋することによって完結するのではないでしょうか?」そう、ニルヴァーナの物語はこれで終わりではなく、ニューヨーク編へと続くのだ。

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 次回は小島氏がこれまで、どのように海外のレストランを日本に誘致し、成功させてきたのか。その物語を聞いていこう。

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

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1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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