JR東日本はなぜ、ITインフラ・サービスへの投資に熱心なのか 新春特別インタビュー: (1/2 ページ)

» 2008年01月07日 13時49分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 2007年は、Suicaにとってビッグニュースが相次いだ年だった。

 3月18日のSuica/PASMO相互利用開始(参照記事)を皮切りに、首都圏のIC乗車券/電子マネー利用が急拡大。PASMOは一気に認知され、Suicaの利用率向上にも繋がった。昨年後半には、JR東海の「TOICA」との相互利用や、JR西日本の「ICOCA」、JR北海道の「Kitaca」とのIC乗車券・電子マネーの相互利用に向けた発表が行われ(参照記事)、「モバイルSuica特急券」の概要も明らかにされた。年末には全日本空輸(ANA)と包括提携し(参照記事)、“鉄道と航空の異業種連携”でも大きな一歩を踏み出した。

 そして年が明け、2008年。JR東日本は「Suica/モバイルSuica」を、どのように進化・発展させるのか。

 今回は新春特別インタビューとして、東日本旅客鉄道(JR東日本)常務取締役IT・Suica事業本部長鉄道事業本部副本部長の小縣方樹(おがたまさき)氏に、Suicaの拡大と2008年の展望について話を聞いた。

Suica×PASMO相互利用の効果は想像以上だった

東日本旅客鉄道 常務取締役 IT・Suica事業本部長 鉄道事業本部副本部長の小縣方樹氏

 2007年を振り返ると、Suicaを取り巻く環境変化の中でも、最も大きなトピックといえるのがSuica/PASMOの相互利用開始だろう(参照記事)。この実現により首都圏の公共交通の利用は劇的にスムーズになり、電子マネーの認知度も向上した。

 Suica/PASMO相互利用の効果は、数字にも表れている。

 「Suicaの発行枚数で見ると、昨年末時点で約2300万枚を突破し、PASMOと合わせれば3000万枚の規模になっています。モバイルSuicaの利用者増にも拍車がかかり、約75万人に達しました。PASMOとの相互利用開始による好影響は大きいだろうと予想していましたが、(実際にスタートした結果は)想像以上の効果がありましたね」(小縣氏)

 さらに相互利用の開始で変化したのが、Suicaの利用状況だ。Suicaチャージや電子マネーの利用件数は相互利用開始前のほぼ倍になっており、Suicaシステムのトランザクション(処理回数)※は、約800万から約1600万に急増したという。

※Suica/PASMOのトランザクションには、定期券の区間内利用数は含まれない。公表されたトランザクションは、すべて定期券を除くIC乗車券として利用したもの、あるいは電子マネーとして利用したものの回数を指す。

 「トランザクションを始め、多くの数字が倍増しているということは、(Suica/PASMOの)相互利用がお客様の利便性を向上していることの証左ですし、Suicaの稼働率向上という経営的な視点でも大きな効果が得られたことの証になっています。

 これは当たり前のことなのですが、交通系のICカード/電子マネーにおいて、(他事業者との相互利用で)シームレス化することは利用の底上げになります。今年はPASMOとの相互利用で『3線連絡定期券』にも対応しますので(参照記事)、Suicaはさらに使いやすいものになり、利用の拡大に繋がるでしょう」(小縣氏)

Suica発行件数の推移

 さらにSuica/PASMO利用エリアの拡大は、Suica電子マネーの普及・利用促進にとっても“追い風”だ。相互利用開始以降、Suica電子マネーが使える加盟店は順調に増えている。

Suica × ANAで、「陸と空」をつなぐ

 昨年、Suica関連で大きく注目されたニュースは2つある。

 1つは先述のSuica/PASMO相互利用開始であり、もう1つが全日空(ANA)との包括提携だ。後者はSuicaのポイントや提携カードの発行はもとより、営業面での提携まで含んだ包括的なものだ。

 →“ANA=Edy”ではない――全日空に聞く「JR東と組んだ理由」 (参照記事)

 「ANAとの提携はかなり戦略的なもので、『陸(鉄道)と空(航空)』で連携を深めることが大きな狙いになります。ですから提携の内容は包括的なものですし、将来的には連携領域をさらに広げていく考えを持っています」(小縣氏)

 今回の提携内容は広範に及ぶが、その根幹にあるのは「Suicaのネットワークを広げる」という部分だ。1枚にSuicaとSKiP両方の機能を持ち、“1枚で鉄道・バスから飛行機まで乗れる”「ANA Suicaカード」は、その象徴的な存在と言える。

 「交通系(FeliCaサービス)の基本は、相互利用によって『移動』の利便性や付加価値を向上するところにあります。

 ANAは以前からマイレージや会員サービスの分野で(FeliCa)電子マネーの活用に取り組んでいましたし、航空事業においては電子チケットの『SKiPサービス』移行を積極的に行っていました。SuicaがANAと連携することで、交通分野を軸に様々なメリットが両者にもたらされます。特にANA Suica カードが登場する今秋には、Suica相互利用エリアが本州の主要都市に広がっていますから、空と陸の両方を1枚で使えるカードになる。ANAの(国内線)ネットワークと相まって、(交通分野の利便性が高い)パワーカードになると思っています」(小縣氏)

 一方、ポイント・マイル分野の連携では、今年2月からANAのマイルとの連携が始まる。JR東日本には昨年6月に始まった「Suicaポイント」(参照記事)、VIEWカードのポイントプログラムである「ビューサンクスポイント」など複数のポイントプログラムがあるが、連携するのはSuicaポイントのみだ。その理由について小縣氏は、「システム統合のしやすさと、将来的な発展性を考えての判断」だと話す。

 「Suicaポイントは『モバイルSuica』と『VIEWカード』のどちらの会員でも登録可能になっています。また、将来的な構想ではありますが、記名式Suica (My Suica)へのSuicaポイントプログラムの拡大も検討中です。これらの点を踏まえますと、(クレジットカード入会が前提になる)ビューサンクスポイントよりもSuicaポイントの方が、今後、幅広いお客様にご利用いただけるポイントになるでしょう」(小縣氏)

 もちろん、Suicaポイント以外のポイントプログラムがなくなるわけではない。Suicaポイントを多くのSuicaユーザー向けに展開していく一方で、ビューサンクスポイントやえきねっとポイントなど他のポイントは、同社のロイヤルカスタマー向けのものとして併存していく。Suicaというプラットフォームを幅広く覆うのがSuicaポイント、というイメージである。

 「ANAのマイルには多くのユーザーがいますし、(ポイント・マイルの世界で)広く普及している。ANAマイルがSuicaポイントに交換できるようになることは、Suicaの利便性向上になりますし、(ANAマイルとSuicaポイント)双方の価値を拡大してくれるでしょう」(小縣氏)

Web予約の推進で窓口自動化を推進する

 一方、Suica以外のサービスに目を向けてみると、JR東日本はインターネットを使った乗車券・旅行商品販売のポータルサイト「えきねっと」の利用拡大にも力を入れている。同サイトの登録会員数は約244万人、1日あたりの取り扱い予約席数の平均は約1万5000席で(ともに2007年11月末時点)、利用数は順調に増えているという。さらに「えきねっと」は、ANAとの包括提携において「ANA@desk」とのサービス連携が決まっており、サービス内容の拡大にも力を入れる。

 「モバイルSuicaやえきねっとなど、“Webからの予約・購入”は極めて重要な分野と位置づけています。究極的には、旅のご相談窓口など一部のサービスカウンターを除けば、ほぼすべての予約取り扱い窓口を(モバイルSuicaやWeb予約などを活用して)自動化したい」(小縣氏)

 この取り組みは、都内主要駅ではすでに始まっている。昨年4月から展開が始まった「びゅうプラザ」では、従来の「旅行カウンター」と「みどりの窓口」が一体になり、えきねっとと連携した指定席券売機「MV-30」を大量導入しているのだ。昨年12月段階でびゅうプラザは首都圏の主要駅を中心に、134店舗まで展開している。小縣氏は自らびゅうプラザの状況を視察に行き、その時には必ず駅長に、MV-30の利用率が増えているかどうかを尋ねているという。


 Web予約の利用促進は「びゅうプラザ」の展開というハードウェア整備だけにとどまらない。えきねっとでは「えきねっとポイント」というポイントプログラムを導入しているほか、インターネット予約限定の割引キャンペーンを用意するなど、料金サービスの面での取り組みも行っている。今年3月から始まるモバイルSuica特急券の割引料金も、Web予約の利用促進策の1つだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.