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» 2008年01月07日 08時27分 UPDATE

ロサンゼルスMBA留学日記:大統領選に思う、米国学生の「署名運動好き」

日本と比べ署名活動などを積極的に行う米国の学生たち。黒人の減刑を訴えたり、大学側が生徒に署名を求めるケースもある。今回は米国の学生たちの各種運動を紹介する。

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 米国で、いよいよ大統領選挙が始まった。現在は民主、共和両党が大統領候補を選出すべく予備選挙を開始した段階だが、米国のトップを決める重要なプロセスとあって世界中の注目を集めている。筆者のアパート付近でも選挙活動は行われていて、路上駐車していた筆者の車にオバマ氏支持者の集会の案内状がはさんであったりする。

 今回は選挙に関連して、米国の学生たちがいかに積極的に各種運動(政治関連でないものも含めて)を行うかを紹介しよう。

37歳の黒人を救え

 ビジネススクールでは、授業のはじめに学生が教授の許可を得て壇上に立ち、簡単なアナウンスをすることがある。内容は多岐にわたるが、多くは自分の所属するクラブが開催するイベントの告知だったり、パーティへの招待だったりする。

 ある日のこと、女性の生徒が壇上に上がってクラスの生徒を前に簡単なスピーチを始めた。その生徒によれば、37歳の黒人男性が貧困のため軽い犯罪を犯したが、それがきっかけでついには終身刑を受けてしまった。「あまりにもかわいそうだから、全員で減刑の嘆願書を司法の担当部署に送らないか」という。

 クラスがはじまる前の短い時間を利用しているため、ごくかいつまんだ説明に留まったが、それなりに熱意は伝わってくる。女性はこの事件についてMySpaceに「まとめサイト」もできていると紹介しつつ、全員に手紙を配った。この手紙に宛先や主張内容は記入済みで、受け取ったクラスメートが同意してサインを書き込めば、女性が責任を持ってまとめて送付するという。こうやって数の力で、黒人男性を救おうと試みているのだ。

 あるときは、生徒と学校が対立する――という事件も起こった。ことのきっかけはこうだ。

 ある教授が試験を行うにあたり、過去問を用意しなかった。そしてその授業を履修しているある生徒が、一学年上の先輩が去年の試験問題を持っていることを知り、勉強のために極めて有用だと考えた。ビジネススクールの生徒たちは、協力しあって勉強することを奨励されている。その生徒は入手した「過去問」を皆で共有しようと、全体メールで一斉送信した。

 これが問題ある行為かどうかは、微妙なところだ。教授によってはこの行為を認めることがあるし、自発的に何年分かの過去問を生徒に配布する。だが、当該クラスの教授はこれを不正行為とみなし、「過去問」を配布した生徒を退学処分にするかどうかの検討を始めた。これに学生が一斉に反発したというわけだ。

 学生の立場からすれば「教授が過去問を配布すべきなのにそれをサボリ、かつ代わりにそれをやってくれた生徒を罰するとは何事か」と反発。たちまち学級委員を中心に大学への抗議が行われ、生徒集会まで開かれた。最終的には一斉送信をした生徒は退学を免れたが、その後の解決方法がちょっと面白かった。

 大学側と生徒側が話し合った上で至った結論は「大学のさらなる向上を目指し、大学/生徒両代表からなる委員会を設置する」こと。また学習環境改善のため、いくつか具体的なプランの検討を始めた。トラブルが起こったのは残念なことだが、そこから学習して次につなげようという意思があり、なかなか米国らしいと感じられた。

大学が展開した署名運動

 先日も、印象的な出来事があった。なんと大学そのものが、署名運動を行うにあたり生徒に協力を依頼するメールを一斉送信してきたのだ。

 USCは大学アメリカンフットボールの強豪で、NFLのスター選手も多く輩出している。本拠地にしているロサンゼルス・メモリアル・コロシアムは大学南部にあり、ほとんどキャンパスの一部となっているが、かつてはオリンピックの陸上競技にも使われたという非常に立派なものだ。この支配権をめぐり、USCとスタジアム運営側との間でいさかいがあった。

 大学側の主張によれば、従来USCはスタジアム運営側に料金を払って“テナント”の位置付けであったが、しかるべき金額を払ってスタジアム運営の権利に積極関与するとともに、徐々に老朽化が進むスタジアムの改修工事をしたいと申し出た。しかしこれを運営側から拒否されたため、「スタジアムを最新設備にしてやろうと言っているのに、なぜそれが認められないのか」と怒り、署名活動を展開することを決意した。さしあたってまず生徒たちの参加を求めたというわけだ。

 USCは地域住民にも親しまれており、USCのロゴ入りグッズを購入する地域住民も多いし、カレッジフットボールの試合ともなれば周辺の住人が大挙してスタジアムに押し寄せる。そういう意味では、「親USC」の住民たちを味方に付ければ州政府や関係機関も動くのではないか――と見たのだろう。

 日本でも、署名活動をする組織は数多くある。しかしここまで一般の生徒/大学組織が積極的に運動に乗り出すことはない。なんとなく、米国民主主義の一端をかいま見た思いがしている。

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