シナリオ通りのプーチン“首相”、メドベージェフ政権を傀儡化藤田正美の時事日想

» 2007年12月17日 00時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を務める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 12月2日にロシア下院選挙でプーチン与党が圧勝し、その後、注目されていた人事も急展開した。

 プーチン大統領が来年5月の任期切れ以降も、実権を持ち続けようと考えていたことは明白だった(別記事参照)。しかし、どういう地位について権力を持ち続けるのか、次期大統領には誰を指名するのか、ロシアの将来はどうなるのか。プーチン大統領のプランは、なかなか明らかにならなかった。それが10日から11日になって、突然発表されたのである。

 ロシアの下院選挙では、プーチンの与党統一ロシアが単独でも3分の2を超える議席(450議席のうち315議席、自由民主党や公正なロシアといった友党を加えると393議席)を確保した。これで憲法改正を含めて統一ロシア、すなわちプーチンが、大統領退任後も圧倒的な権力を持つことが決まった。

 そして統一ロシアでは、17日に党としての次期大統領候補を明らかにするとしていた。しかし事実上の後継者指名を急遽、1週間早めたのは、政権内での権力争いが表面化してきたためだとされている。それを抑えるためにはプーチンが、とにかく後継者を指名することが必要だったというわけだ。

プーチン時代以上に強権的となるか

 プーチンが「指名」したのは側近中の側近、メドベージェフ第1副首相(42歳)だった。プーチン政権には、旧KGBなど情報機関出身の有力者が多いが、メドベージェフ副首相はそういった機関とは関係がない。政治思想もリベラル派とされ、西欧の受けもいい。そして、世界最大のガス会社ガスプロムの会長でもある。

 指名された翌日、メドベージェフ氏は「自分が大統領になったら、首相をプーチン大統領にお願いする」と語った。「国民的指導者」というあいまいな立場で実権を振るうとか、憲法の大統領連続3選禁止規定をかいくぐって大統領になるとか、いろいろ憶測されていた大統領退任後の“プーチン・シナリオ”はこれで一応の決着を見た。

 大統領が安全保障や外交などを管掌し、首相が経済政策などを管掌するという役割分担は憲法で規定されている。だがプーチン大統領が首相になれば、実質的にはすべての権限は首相に集中することになるはずだ。一方のメドベージェフ「新大統領」は、首相の任命権を持っている。プーチン大統領がこの9月にも新しい首相を指名したように、「取り替える」ことも可能だ。

 プーチンが、この12月2日の選挙で、地方の知事に票集めを命じたり、野党の党首を拘束したりするなど、ドイツのメルケル首相が「公正ではない」と非難するような手法を用いて圧勝しようとした理由がここにある。もし17年間「子飼い」だったメドベージェフが反乱しようとすれば、下院3分の2の議席を持つ統一ロシアが単独でも大統領を弾劾することができる。その時点でプーチンが大統領に返り咲くことも可能だ。

 これに対してメドベージェフは、権力の基盤がない。それを補うために大統領の座に就いたときに、プーチン時代以上に「強権的に」なる可能性があるとも指摘されている。ロシアの元外交官は、「メドベージェフが大統領になれば、今までとは上下関係が逆転するが、少なくとも最初の4年間は大統領を弾劾したり、憲法を改正して首相の権限を強めるといったことはないだろう。問題はその次だ」と語った。

 そして「プーチンが権力を持ち続けることは決して悪いことではない」とも続ける。「プーチンは強いロシアの復活を目指し、反欧米ではあるけれども、日本には好意的。プーチンがいる限り、日本にとってロシアが厄介な存在になることはない」と話す。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.