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» 2007年12月11日 10時50分 UPDATE

山口揚平の時事日想: 人はなぜマルチ商法にはまるのか?

友人知人に商品を売りつける、有名人の名前を大げさに吹聴する……“マルチ商法”と呼ばれるビジネスは、昔から連綿と続いている。マルチはなぜ消えないのだろうか。そして人はなぜ、マルチにはまるのだろうか?

[山口揚平,Business Media 誠]

著者プロフィール:山口揚平

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トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 週末起業は、気軽に出来て、自分のやりたいことができるということから一種のブームになっている。独立心の強い人々がどんどん起業することは、社会の新陳代謝という意味でとてもいいことだと思う。

 だが最近の情報起業ブームの行く先には懸念もある。情報起業とは、「情報商材」と呼ばれるニッチな情報をネットで販売するトレンドのことだ。1商品あたり5000円から高いもので10万円〜30万円のものが一般的なようである。

 情報には“手に入れるまでその価値を認識できない”という性質があるため、情報商材をうまく販売するには、ネット上でいかに購買感情を喚起するかが重要な要素となる。

 従って、巧みな言い回しを満載したセールスレターを作り、販売(クリック)までこぎつけるのが、そのノウハウの根幹となる。

 一時の感情を喚起して、思わず買わせてしまうテクニックは、マーケティングという枠組みの中では問題ない。また情報商材の中に有益なものも多いことは事実だ。

“売るためのノウハウを売る”ことがバブルを生む

 しかし最近の風潮は、別の問題を思い起こさせる。それは、今の流行商材が「情報商材を売るためのノウハウを提供する情報商材」であることだ。

 そこには、本来の価値を有する「現物」の情報商品は存在しない。「売るためのノウハウを売る、ためのノウハウ」という複雑さは、お金を得るという1つの欲望によって固く結ばれた虚構である。

 この虚構においては、“富”は「創造」されず、閉じた系の中で、単に“お金”が「移転」しているだけである。実体なきババ抜きゲームが行なわれ、最後の参加者が損をするというばかげた事態が起こる。

 証券化を繰り返して膨張しすぎたサブプライムローンの崩壊などに見られる金融経済と同じ構造である。価値なき流通は、バブルを産み出し、最終的に瓦解する。

マルチ商法の定義と問題点

 マルチ商法が、私たちの不快感をそそるのも同じ理由である。

 マルチ商法とは何か? それは何が問題なのか? マルチ商法が問題なのは、端的にいえばそれが「他人の損失の上に、自らの利益を作る」仕組みになっているからだ。

 マルチの問題の本質は、本来の価値なき流通虚構に、実体なき儲け話を差し込み、会員を巻き込むことにある。

 例えばあるマルチ商法では、最初は、ごく普通に商品を販売する。しかしその後で、商品を買った人に対して、その商品の販売会員(ディストリビューター)となるように誘う。ディストリビューターになったら、その商品を友人や周りの人に勧めれば自分にマージンが入るよ、と誘うのである。

 ディストリビューターになると次は「実際に使ってみるまでは、人に薦められないよ」本部にささやかれ、自分が使う以上の商品を“在庫”として抱えることになる。なかにはディストリビューターに対して、ノルマを課す団体もある。

 本部から見れば、ディストリビューターが増えるほど、大量の在庫がさばけて利益が出ることになる。しかしディストリビューター側は、限られたマーケットのなかで、それだけの量をさばく事は当然できない。その結果、いわゆる“流通在庫”がたまる状態になり、訴訟が相次ぐ。

 一度、ディストリビュータの持つ在庫を含めた「連結」決算を見てみれば、マルチ商法を行う会社がどれだけの債務超過になっているかが分かるだろう。要するに、マルチ商法の本部は、連結外しによって本体の収益を底上げしているだけだからだ。

 どのような言い訳をしようとも、マルチ商法の胴元は、「モノがいいならなぜ代理店制度をやらないのか?」という究極の質問に答えることはできない。なぜなら彼らの富の源泉は、価値の提供対価として受け取る利益でなく、その流通機構(=会員)の欲望を巧みに利用し、そこからお金を吸い上げることにあるからだ。

 余談だが、同様の構造が持つ懸念は、フランチャイズビジネスにも当てはまる。

 フランチャイズビジネスは、本部が優秀なプロトタイプを作り、それをフランチャイズにして展開するビジネスモデルだが、これは、成長初期まではきわめて良好に機能するケースが多い。だがいったん、その店舗モデルの価値が劣化すると、フランチャイズ側の収益が落ち込み、本部へのクレームや訴訟が相次ぐことになる。急激な成長は、急激な衰退とセットであることを認識しなければならない。

なぜマルチ商法にはまるのか?

 では、なぜ人はマルチ商法にはまるのだろうか?

 それは、自分(エゴ)の視点から、欲望というフィルターを通してものを見るからだ。マルチを回避するには、自分にとっての利益ではなく、システムの背景にある全体の利益構造に思いをはせる必要がある。その上で「これは社会全体にとって価値を“創造”しているのか? それとも富を“移転”させているだけなのか?」ということを、常識をもって判断すればいいだけだ。

 マルチ商法は、なぜ販売実績に応じた複雑なランク制度と過酷なノルマを作る必要があるのか。なぜ自己啓発的なセミナーを開催し、個人の金銭的成功を煽り立てる必要があるのか。なぜ有名タレントや有名大学のドクターの名前をことさら大げさに喧伝する必要があるのか――これらの問いの答えを考えてみる必要がある。

大切なのは、情報の裏にある本来の価値を見つめること

 情報の流動性が著しく高まった昨今においては、欲望を起点とした、価値なき虚構の膨張が、大きな悲劇を招くのではないかと私は危惧している。本格的な知価社会では、知識格差が拡大し、知恵のない者からある者へと富の移動がますます加速するだろう。

 それを防ぐには、私たち個々人が、情報の裏側にある本来の価値を見つめる目を失わないこと、そして「それは全体の価値創造につながるのか?」という、きわめてまっとうな倫理観を心に持ち続けるしかないのだろう。

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