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» 2007年12月07日 12時06分 UPDATE

神尾寿の時事日想: JR東日本・ANAの“強者連合”はなぜ実現したか

JR東日本と全日空という、国内公共交通の“強者”が包括提携を行った。クレジットカードのほか、SuicaとANAマイレージの結びつきが強まる見込みだが、この提携はどのような背景・狙いで行われたのだろうか。

[神尾寿,Business Media 誠]

 12月6日、東日本旅客鉄道(JR東日本)と全日本空輸(ANA)が営業面における包括提携を行うと発表した(別記事参照)。詳しくはニュース記事に譲るが、この包括提携では「マイル・ポイント制度の連携」・「提携クレジットカードの発行(ANA Suicaカード)」「個人・法人向けWebサービスの連携」「旅行サービス会員組織/販売商品の連携」など、営業面における大規模な連携が図られる。

 この中で特に注目なのが、「マイル・ポイント制度の連携」と「提携クレジットカードの発行」だろう。

 前者は、ANAマイルからSuicaポイントへの交換が可能になるもの。SuicaポイントはSuicaのバリュー(利用分)としてチャージ可能なので、ANAマイルがSuicaのIC乗車券・電子マネーに化けることになる。周知のとおりSuicaは、首都圏のJR・私鉄・バスで利用可能であり、駅ナカ・駅周辺を中心に鉄道系電子マネーとしても広く普及している(別記事参照)。こと“首都圏での使い勝手”で考えれば、現在最も使いやすい電子マネーといえる。

 一方、後者は三井住友カードが提携カードとして発行する「VIEWカード タイプ2」方式になる。VIEWカード タイプ2とは、「VIEW」ブランドを前面に押し出すが、JR東日本以外の会社が発行するカードのことだ。そのためJR東日本が発行する「VIEWカード」と機能面ではほぼ同等だが、特典ポイントの付与など一部のサービスに違いがある。今回、発行元になる三井住友カードは「ANAカード」発行元としても最大手だが、「ANA Suicaカード」も手がけることで、提携カードのラインアップに“航空+鉄道カード”を持つことになる。これは同じANAの提携カード発行ではライバルである、JCBやダイナースに対する競争優位性になりそうだ。

※VIEWカードの航空系提携カードとしては、すでにJALの「JALカード Suica」があり、SuicaとJAL ICサービスの統合をしている。
※記事初出時、ANA Suicaカード発行会社の確認が取れず、内容の誤りがありました(JR東日本が発行するカードとして執筆)。読者の皆様および関係者各位にお詫びとともに訂正させていただきます。

ANAとの提携で、PASMO陣営にリードしたいJR東

 今回の提携は、「国内最大の鉄道会社であるJR東日本と国内線(シェア)第一位であるANA」(プレスリリース)が手を組む“強者連合”である。サービスが狙い通りスムーズにシームレスになれば、首都圏という膨大な旅客市場を背景に、JR東日本・ANA連合が大きな力を持つことは間違いない。

 さらに両社の置かれている経営環境を鑑みると、今回の強者連合には、協力体制を敷くに十分な利害の一致があることが分かる。

 まず、JR東日本のメリットは、お膝元である首都圏における支配力強化だ。周知のとおり、首都圏のIC乗車券サービスとしては今年3月から私鉄系の「PASMO」が登場している(別記事参照)。SuicaとPASMOは当初から相互利用が可能であるなど協力体制にあるが、その一方でオートチャージも含めた鉄道系クレジットカードの競争まで含めると競合関係にある。この点、沿線住宅街と商業施設を多く持つ大手私鉄各社はJR東日本よりも有利な立場にあり、鉄道系クレジットカードが必要なオートチャージ機能付きPASMOも含め、予想以上の伸びを示した(別記事参照)のは記憶に新しい。JR東日本にとって、首都圏のビジネス層を中心に人気の高いANAのマイルサービスと連携することは、首都圏鉄道事業における“Suica・VIEW事業の後押し”という狙いがある。

 また、JR東日本の場合、所有する新幹線事業のビジネスが、ANA・JALの国内線と競合しにくいことも、航空会社と手を組みやすい理由になっている。国内長距離旅客ビジネスの“ドル箱”は東名阪と、その先の福岡であるが、これらの地域を管轄するのはJR東海とJR西日本だ。この2社はANA・JALと競合しており、価格やサービス競争を繰り広げている(別記事参照)。しかし、JR東日本の新幹線エリアで、ビジネス需要の多い宇都宮や仙台までは羽田発の航空路線設定がないため、長距離旅客分野でのANA・JALとの競合が少ない。収益の大半を新幹線事業に頼るJR東海などと比較して、JR東日本は航空会社と提携しやすい事業環境にあるのだ。

 この「路線が競合しにくい」ことはANA側からしてもメリットであり、予約サイトや会員組織など営業窓口の連携が実現する背景にもなっている。

「マイルの出口」を増やしたいANA

 では逆に、ANA側から見てJR東日本と組むメリットはどこにあるのだろうか。

 1つには、これまでJALカードが先行していた「首都圏の鉄道事業者との提携」で競争環境が対等になる点がある。

 前述の通り、JALは早くからJR東日本の「VIEWカード」や東急カードの「TOP&」の提携カードを発行し、マイルをクレジットカードポイントに交換、その後にSuicaやPASMOにチャージするというスキームを構築していた。「電子マネー」という視点では、ANAはEdyに交換する仕組みを以前から用意していたが、Edyでは電車・バスに乗ることができない。今年3月のSuica・PASMOの相互利用サービス開始後(別記事参照)、“電車・バスに乗れる電子マネー”として、首都圏におけるSuica・PASMOの利便性やEdyに対する相対的な価値が高くなった。鉄道会社のポイント・電子マネーとの連携で、ライバルのJALと対等にしておく必要性がANAにはあったのだ。

 さらに「マイルの出口を増やす」という点でも、JR東日本との提携はメリットになる。航空会社のマイルは、特典航空券や各種利用券など航空会社のサービスに交換できるが、これらは特典交換の最低ラインが1万マイル以上と高めで、飛行機にあまり乗らない人には交換しづらい。そこで“マイル獲得のメリット”を高くするために、汎用的で、より低いレートから交換可能な他社ポイントや電子マネーが利用されてきた。その代表的なものがEdyだったわけだが、今回そこにSuicaも加わることになることで、ANAマイルの兌換性や価値はより高くなることになる。また、マイルを消費しやすい環境を作ることは、会計基準の見直しで「マイル負債」の問題が高まる中で、その対策としての効果も期待できるだろう。

ビットワレットはどう動く?

 お互いの利害が一致し、ビジネス的な効果も大きそうなJR東日本とANAの「強者連合」。その影響は“本業”である鉄道・航空旅客市場はもとより、クレジットカード会社や電子マネー、旅行ビジネスまで広範囲に及ぶだろう。JALや首都圏の大手私鉄各社、またEdyにおける“ANAとの蜜月”に疑問符がついたビットワレットが今後どう動くか。今後の動きは波乱含みのものになりそうだ。

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