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» 2007年12月06日 10時17分 UPDATE

保田隆明の時事日想: 増殖する新興市場――個人投資家にとってプラス? マイナス?

ジャスダック、マザーズ、ヘラクレス……日本にはたくさんの新興市場があるが、さらにその数を増やそうという動きがある。しかし新興市場を活性化させるには、むしろ市場を統合することが必要なのではないだろうか?

[保田隆明,Business Media 誠]

 “大証がジャスダックを買収して新興市場のヘラクレスとくっつける”なんて話が出たかと思えば、ジャスダック側は「全くそんな考えはない」と全否定。真相はさておき、数が多すぎる日本の新興市場は現在、さらにその数を増やそうとしている。

新興市場はまずは市場として機能することを目指すべき

 金融業界、そして日本政府は「貯蓄から投資へ」というスローガンのもと、個人投資家に株式投資を勧めているが、その個人投資家に人気が高いのがまさに新興市場である。しかし、新興市場は上場基準がゆるいため、未熟な企業も上場している状況であり、業績予想の大幅な下方修正やさまざまな不祥事など、健全な投資をするには程遠い状況にある。

 問題の原因は、新興市場の数が多く、それぞれが少しでも多くの企業に上場してもらうために上場基準を緩和しすぎたという点にある。市場に品格がないのである。日本にはジャスダック、マザーズ(東証)、ヘラクレス(大証)のほかに、地方の証券取引所が運営する新興市場も存在する。一般的にはこの順番で上場審査がゆるくなる。マザーズに上場できなければ、ヘラクレスへ、そこもダメなら地方の新興市場へという流れだ。

 新興市場に振り向けられる投資マネーは、投資マネー全体から考えるとあまり大きなものではない。まずは新興市場への投資そのものを魅力的にし、新興市場に振り向けられる投資マネーを拡大していくことが新興市場の発展には不可欠だが、現実には乱立する新興市場が小さなパイを食い合い、その結果、企業の不祥事が起こり、投資家に損失が発生するという構図になっている。

ジャスダックが新たに作る新興市場「NEO」とは?

 最近では既存の新興市場とは別に、新たな新興市場を設立しようという動きが出てきた。一つはジャスダックが設立したNEO(ネオ:New Entrepreneurs' Opportunity、参照リンク)と呼ばれる新興市場であり、新技術開発などに特化した企業を対象とする市場である。新技術開発と言えば聞こえはいいが、東証がマザーズを、大証がヘラクレスを保有していることから考えると、それらに対抗してジャスダックが新興市場を設立したという見方もできる。

 そもそもジャスダックとその他市場ではその成り立ちやクオリティに違いがある。そのためジャスダック側はマザーズやヘラクレスとひとくくりで「新興市場」と呼ばれることを嫌がっており、NEOというジャスダックの下部組織的な新興市場を作ることにより、ジャスダックをマザーズやヘラクレスと差別化しようという意図も読み取れる。

 また東証を中心に、プロの投資家のみが参加できる別の新興市場の設立も検討されている。これはロンドンの「AIM」(Alternative Investment market)というプロ向けの新興市場の成功に触発されたことは間違いない。

 いったいいくつの新興市場を作れば気が済むのか、と思うのは筆者だけではないはずだ。NEOにしても、プロ向け新興市場にしても、現状では既存の新興市場とまったくつながるところがない。これでは新興市場への投資マネーを食い合うプレーヤーが増えるだけで、結局今まで起こった問題の繰り返しになってしまう。

 もっとも、最近では年金の運用を新興市場で行おうという機運が高まってきていることもあり、本当にプロ向けの新興市場が整備されればプロ投資家の投資マネーが流入し、新興市場で運用される投資マネーが今後増加することが予想される。そう考えれば、新たに新興市場を作るメリットも出てくるだろう。

必要なのは、新設ではなく統合では?

 ただし、それら新たに流入する投資マネーが新設の新興市場だけに向かうのならば、既存の新興市場はますます放置されることになる。既存新興市場の売買金額は細っていき、今までそこで投資をしていた個人投資家にとっては自らのポートフォリオの価値が減少しかねない。

 新興市場の新設が、新興市場全体の活性化のためになされているのであれば、方向性としては間違っていない。しかしその際は、既存の新興市場をどう取り込んでいくかという議論も一緒にされるべきである。さもなければ、今まで新興市場を支えてきた個人投資家が最もワリを食うことになる。

 「問題があるから、新しいものを作ろう」という発想では、いつまで経っても市場全体が抱える問題は解決しない。その点、大証のジャスダック買収が実現し、「新興市場を何とかしよう」という機運を高めるきっかけになれば、個人投資家にとってもメリットになるだろう。

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