ネット証券No.1を掲げるクリック証券、その可能性は?

» 2007年12月04日 17時56分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 ネット証券のGMOインターネット証券は12月3日、「クリック証券」に社名を変更するとともに、今後の事業戦略を発表した。親会社であるGMOインターネット(GMO)が2007年8月、金融事業からの撤退を表明。資本関係が解消されたことから、社名を変更することとなった。

 GMOの子会社として2006年5月からネット証券に参入したクリック証券は、業界最低水準の手数料を武器に展開した。同時期に開業したジョインベスト証券とともに、ネット証券の“後発組”として、手数料競争を繰り広げている。この結果、株式取引売買高はネット証券で8位、FX(外国為替証拠金取引)の取引売買高は5位(FX専業の業者を含む)に躍進(10月の月間数値)。開業からわずか13カ月で、単月黒字化を実現した。

 クリック証券は「FXの手数料無料」※を打ち出したことで、取扱高を急速に伸ばしている。2007年4月頃から取り扱いが増え、7月には3兆円に達した。これは他の大手ネット証券と比べ、5〜6倍の取扱高となる。さらに「一定の証拠金を担保に預け、証拠金の最大100倍まで取引ができるレバレッジに人気が集まった」(経営管理部)と分析している。

※自動的に損失をカットする場合、1万通貨単位あたり500円(税込)の手数料が必要。また南アフリカランドは、10万通貨単位あたり500円(税込)。

システムを自社開発、プログラマブルな取引ツールを提供

 クリック証券の特徴として、システムの自社開発が挙げられる。ネット証券でシステムを自社開発しているのは、同証券のほかにはカブドットコム証券だけ。システム開発のスピードには自信を持っており、「他社に比べ4〜5倍の速さで開発できる。そのため開発コストが安い」(経営管理部)と胸を張る。

 また、取引ツールを作成できるサービスを提供しているのは、クリック証券のみだ。例えば株式取引で儲けた資金を自動的にFXの投資に回すなど、価格や日時などをさまざまに組み合わせて運用することができる。高島秀行社長は「欧米ではシステムトレード(自動的に売買を繰り返して運用する投資方法)が一般的になっている。(日本でもシステムトレードの)普及に力を入れていきたい」と意欲を示した。ただプログラミングの知識を必要とするため、このサービスを利用している顧客は、全体の5%前後にとどまっている。

自由に売買を設定できるシステムトレード

2009年以降にネット証券No.1を目指す

 今後のクリック証券は、投資信託や外国株などを取り扱うほか、高機能の自動売買ツールを提供していく予定だ。2008年には「FX業界No.1」の目標を掲げ、2009年1月以降には「ネット証券業界No.1」を目指すという。そして2009年中に、マザーズ市場への上場準備を進めている。

 ネット証券No.1を目指すクリック証券だが、10月末現在の口座数は3万5150口座。ネット証券最大手のSBIイー・トレード証券の口座数は150万を超えているほか、楽天証券は70万口座を突破した。野村グループのジョインベスト証券は開業当初、2007年3月末までに50万口座の目標を掲げた。しかし新興市場の低迷などもあって(別記事参照)、10月末時点で19万口座にとどまっている。

 ネット証券のメイン顧客は個人投資家なので、口座数の規模は売買代金に連動する。知名度の低いクリック証券は今後、どのようにして口座数を増やしていくのだろうか。

 また今後の課題として、最安値水準の手数料が挙げられる。手数料競争に出遅れた松井証券は(別記事参照)手数料を引き下げたことによって収益力が低下。経営戦略の失敗を認め、手数料の値上げに転じた。その結果、2007年9月中間期では営業収益221億円(前年同期比2%増)経常利益116億円(同4%増)、中間純利益73億円(同11%増)と、他のネット証券が苦戦する中、増収増益となった。

 手数料については各社とも静観しており、これ以上の値下げは“避けたい”というのが本音だ。ネット証券各社では、株式の売買手数料に依存したビジネスモデルの転換を進めており、投資信託の販売など先行者メリットを狙って、新たな金融商品を次々に手掛けている。出遅れ感があるクイック証券も追随する予定だが、どこまで収益力を上げられるかが課題だろう。

クリック証券:2007年3月期

項目 金額
営業収益 4億4800万円
経常利益 −10億4600万円
当期純利益 −10億7800万円

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