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» 2007年11月29日 02時09分 UPDATE

保田隆明の時事日想:ミシュランガイドは円高日本を救うか

ミシュランガイドの東京版「ミシュランガイド東京2008」が話題だ。「外国人には日本の味覚が分からないから困るわね」と批判する評論家もいるようだが、経済的観点から見れば、これほど喜ばしいガイドブックは他にない。

[保田隆明,Business Media 誠]

 11月22日に発売された、ミシュランガイドの東京版「ミシュランガイド東京2008」が話題になっている。内容については賛否両論あるようだが、多くの人がまず疑問に感じるのが「そもそもなぜタイヤメーカーがこのようなガイドブックを作っているのか?」ではないだろうか。

ay_hoda.jpg 「ミシュランガイド東京2008」の表紙。日本語版は2310円

出発点は“ドライブ用ガイドブック”

 どういう歴史があるのだろうと、同社Webサイトを見てみた。当初は「自動車修理工場の紹介あり、市街地図あり、休憩のためのガソリンスタンドやホテルの紹介あり、と本当にドライバーがドライブを楽しむためのガイドブック。それが、なんと無料で配布されていた」と書いてある。なるほど、タイヤメーカーがその手のガイドブックを作るのは納得がいく。

 それがいつの間にかレストラン評価の本になったようだ。再び同Webサイトによると「1930年代からレストランを星でカテゴリー分けするシステムがスタート」し、「ミシュラン社員が匿名でレストランやホテルを訪ねるようになったのもこの頃」とのこと。当初はミシュラン社員が調査員だったそうで、その理由は「一般のお客様としてサービスを受けること」と書いてある。

 つまり、当初はタイヤメーカーの従業員が「これはいい!」と思えるレストランを紹介してくれるのがこのガイドブックだったということになる。しかし今回の東京のミシュランガイドを見てみると、紹介されているのは超高級店ばかり。とてもじゃないがタイヤメーカーの従業員が、おいそれと訪れる感じの店ではない。

通常のタイヤメーカーでは実現できないメディア露出度合い

 結局、現在のミシュランガイドは当初の目的からは外れてしまっているわけだが、「ミシュラン」という単語は、検索ワードランキングで上位に食い込むほど注目を集めている。また、テレビでミシュランのニュースを見て、初めて同社のキャラクターであるミシュランマン(ビバンダム)を見たという人もいたかもしれない。そもそもミシュランという企業がタイヤメーカーであったことを初めて知った人も多いに違いない。

 タイヤメーカーがいくらテレビCMやWeb戦略にお金をかけたとしても、今回ほどの注目を受けることはまずありえない。極論すれば、企業はガイドを発行したことにより、たとえどんな批評や批判をされようが、金銭価値では測りきれないほどのメディア露出を実現できたのである。

ay_hoda02.jpg ミシュランのキャラクター、ビバンダム。体はタイヤでできている

日本はグルメで観光立国できるか

 このガイドブックを日本人向けと理解するのはどうかと思う。「外国人には日本の味覚が分からないから困るわね」というようなトーンで、これ見よがしに批判する料理評論家も少なくないようだが、経済的観点から見れば、これほど日本にとって喜ばしい飲食店ガイドブックは他にない。世界的に有名な飲食店ガイドブックが東京を星の数で世界一に評価しているわけである。それを聞いて、海外から「じゃあ、東京においしいものでも食べに行くか」と思う人たちが続々とやってきて、外貨を落としてくれるわけで、日本経済にとっては大変ありがたい。

 海外に比べると何でもモノが高いと言われてきた日本だが、近年は日本円の価値が下がったおかげで、海外の人たちにとって日本のモノの値段は下がっており、以前に比べ日本を訪れやすくなっている。特に欧州の人は、ユーロ高の恩恵を存分に受けることであろう。

 そして発行されたこのミシュランガイド。日本政府は「Yokoso! Japan」(ようこそ!ジャパン)と称して、あの手この手で海外からの観光客を誘致しようと試みてきた。2002年に500万人しかいなかった日本を訪問する外国人を、2010年には倍増させようというプロジェクトである。しかし、日本には外国人観光客を惹きつける目玉があまりなかった。そこに「東京は世界一グルメな街である」とミシュランが言ってくれたのである。かつて、「おいしいものを食べに行こう」と言って日本人が香港を訪問するのがブームのようになっていたが、これと逆のことが起こりうる。政府にとってはまさに“棚からぼた餅”である。

日本人にとってのミシュランガイドの価値とは?

 日本には輸出型産業が多いため、円高になるといつも悲観的な観測が広まる。この産業構造を何らかの形で変えていかないといけないわけだが、自分たちが気付かないところに実は世界に誇れる一大産業「飲食業」があったと気付く――それが今回のガイドブックの、日本人にとっての価値ではなかろうか。

 しかし、高級飲食店を紹介するガイドブックなら東京には既に山のように存在するのに、ミシュランガイドが10万部以上売れてしまうとは、東京は不思議な街である。ランキングが大好きな国民性がミシュランにとっては功を奏したのかもしれない。

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