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» 2007年11月20日 11時30分 UPDATE

山口揚平の時事日想:現代の不思議な貨幣論・第2話――貨幣をコントロールしているのは誰?

資本主義社会においては、貨幣の流通をコントロールできる者が世界を支配できる。米国では連邦準備銀行、日本では日本銀行が通貨発行権を握っているが、これらの機関は誰のものなのだろうか。

[山口揚平,Business Media 誠]
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著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 前回のコラム「現代の不思議な貨幣論・入門編――エコロジーとエコノミーが表裏一体な理由」では、銀行が預金という実態価値ではなく、ローンという、ある種虚構の資産をベースにお金を“造る”構造について述べた。その結果として、金融経済が実体経済をはるかに超えて膨張し、危うさを増しているという状況についても言及した。

 今回は、貨幣についてのもう1つの素朴な疑問、「いったい誰が貨幣をコントロールしているのか?」について考えたい。

 まず最初に1つ、昔話をしよう。

“食う缶鳥”がうまく行かなかったわけ

 筆者の地元には、「震生湖」という憩いのスポットがある。震生湖は、関東大震災でできた日本でもっとも新しい湖といわれている。

 この湖の自然を守ろうと、近くの売店ではある工夫をした。自動販売機で販売する缶ジュースを通常価格よりも10円高く販売し、飲み終わった後、空き缶を「食う缶(くうかん)鳥」というボックスに入れると10円が返却されるしくみを導入したのだ。

 空き缶の裏には特別なシールが貼ってあり、「食う缶鳥」は、そのシールを認識して10円を返す。これにより、ジュースを飲んだ人は空き缶を食う缶鳥に自発的に返却するようになり、また捨てられた缶についても、缶を拾い集めて小遣い稼ぎをする子供が現れて、周辺環境の破壊を防いでいた。

 しかし、ある地元の子供が、もっと効率よく小遣いを稼ぐ方法を思いついた。「食う缶鳥」の裏には、集めた缶を貯めるボックスがある。そのボックスからこっそり缶を取り出して、また食う缶鳥に入れれば、永久にお金を取り出すことが可能だと気付いたのである。

 売店の店主も、最初は「食う缶鳥」にストックされているお金が減っているのをみて、空き缶の回収率が高まってよかったと思っていた。しかしある日、自動販売機の売り上げに対して明らかに「食う缶鳥」から出てゆくお金が大きいことに気づいた。そして小学生の悪巧みはばれてしまうのであった……。

貨幣の流通をコントロールすることの意味

 さて、この話は、実は我々の住んでいる世界にも起きていることかもしれない。だが現実世界では、話はもう少し複雑である。

 もし、私たちの世界の貨幣の流通総量が、一部の人々によって意図的にコントロールされていたとしたらどうだろう? そしてその人々は、「食う缶鳥」で小遣い稼ぎをする子供よりももっと綿密な方法で経済をコントロールしつづけているのかもしれない。

 貨幣の流通をコントロールができるということは、資本主義社会においては、世界を支配することを意味する。だからその権力はきわめて強力である。

 米国の連邦準備銀行(Federal Reserve Banks, 連邦準備銀行)の元議長のグリーンスパン氏や、現議長のバーナンキ氏の名前を聞いたことがある人は多いだろう。通常、貨幣の発行や通貨政策(つまり金利の決定)は、連邦準備銀行などの各国の中央銀行が行う。

 実質的に連邦準備銀行は、通貨政策のすべてを管理している。アメリカのドルは、この連邦準備銀行が、国債を担保に政府に貸し付けた手形にすぎない。

 もう少し分かりやすく説明しよう。例えば、米国政府が公共投資のためにドルを必要とする。そうすると連邦準備銀行は、米国財務省から国債を購入してそれを担保に政府の口座に求められたドルを振り込む。

 このお金は誰かの口座から借りてきて振り込んだお金ではなく、ただ米国政府の口座に記入するだけである。そして国民は、政府の国債の利払いを通して連邦準備銀行に利益を支払う構造になっている。現在、連邦準備銀行は米国国民に対し、1時間につき4700万ドル(約50億円)の利子を請求しているのだ 。

連邦準備銀行はなぜできた?

 さてここで1つ質問したい。この中央銀行は、誰の持ち物なのだろうか。当然、政府機関だろうと考える読者が多いのではないだろうか? ところが実態はそうではない。

 連邦準備銀行は、米国の政府機関ではなく、100%民間企業である。それではなぜ、こんなややこしいスキームになっているのか。それを知るには、連邦準備銀行の設立経緯を考えてみなければならない。

 連邦準備銀行は、表向きは1907年にロンドンで起こった米銀の恐慌への対策として成立したとされる。しかしその設立は、国際金融資本による通貨コントロールを実現するために綿密に計画されたものだと見ている人もいる。時の大統領、ウィルソンを動かして、強引に連邦準備銀行法案を通過させたというのだ。

 ちなみに現在、連邦準備銀行を実質的に支配するニューヨーク連邦準備銀行の株主は、JPモルガン・チェースとシティ・バンク。この2つの銀行で53%近くの株を所有している。ドルは単なる一国の通貨ではなく世界の基軸通貨だから、こういった国際金融資本家が世界を支配していると考える人がいるのも分かる。

 しかし連邦準備銀行議長の人事権は政府にあり、(連邦準備銀行の)株式の議決権は持っていない。このようにそのシステムの詳細を考えると、単純に結論を下すのは適当とは言えまい。それでは日本の中央銀行、つまり日本銀行(日銀)はどうなのだろうか?

日銀の成り立ち

 日銀は、ベルギーの国立中央銀行をモデルに国家主導の中央銀行として1882年に設立された。日銀の株式は、政府が55%を保有し残り45%は民間から出資され、現在、JASDAQに上場している。日銀の設立には、ロスチャイルド家なども深くかかわっているといわれているが、その詳細もまた明らかではない。

 だが「通貨発行権」という、資本主義社会において史上最も強力な権力が、秘密のベールに隠されているという事実については、私たちも知っておく必要がありそうだ。少なくともそれは、金融資本主義の時代に生きる私たちの義務といえる。

 最後に、金融資本主義や通貨について興味をもたれた方は、エドワード・グリフィンの「マネーを生み出す怪物」や、ジャン・ペイルルヴァッドの「世界を壊す金融資本主義」といった本を読んでみるとよいだろう。現代の貨幣論の現実と、実体経済と金融経済の乖離の危険性について分かりやすく紹介している良書である。

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