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» 2007年11月13日 10時53分 UPDATE

山口揚平の時事日想: 現代の不思議な貨幣論・入門編――エコロジーとエコノミーが表裏一体な理由

お金はどこから生まれてくるの? 銀行が利益を上げられるのはなぜ?――お金にまつわるこれらの素朴な疑問について、正しく答えられる人は意外に少ない。今回は貨幣にまつわる“素朴な疑問”を解き明かしていこう。

[山口揚平,Business Media 誠]
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著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 皆さんは、銀行がどうやって利益を上げているかをご存知だろうか。また、お金はどこから生まれるのかについて、真に知っているだろうか? 今回はこういった素朴な疑問から、貨幣にまつわる誤解を解きほぐしていこう。

銀行のはじまり

 まずは簡単に、銀行とお金の歴史を振り返ってみよう。

 もともと人々は、肉や魚といった食物を効率的に交換するために、お金という便利な道具を生み出した(別記事参照)。交換道具であるお金は、交換物である肉や魚と同様に実質的な価値がなければ機能しない。だからお金には、貝や金(カネ、ではなく金属のゴールド)が使われることになった。そのためお金は、始めはそれ自体に価値があった。

 お金を造るのは、金細工師の役目だ。金細工師は、造ったお金を厳重に管理する必要があった。そして彼はこの お金を預かる金庫管理業を手がけることになった。銀行の前身だ。

 ある日、彼は大変なことに気付いた。それは「自分が預かっているすべてのお金が引き出されるということはない」ということである。そこで彼は、人から預かっているお金を人に貸し出し、利息を取るビジネスをはじめた。

 このビジネスは順調だった。だが次に、彼は、さらにとんでもないことを思いつくのである。

 それは、「自分が預かって“いない”お金も貸し出せるのではないか?」ということだ。そうすればもっと大きな利息を得ることができるはずだ。これは革命的な“気付き”だった。

紙幣の誕生

 早速彼は、持ち運びに不便な金(ゴールド)ではなく、その価値を保証する紙のお金を発行した。紙幣である。この紙幣は便利だったので、たちまちマーケットに流通した。かくしてこの金細工師は、ありもしないお金を貸し出し、利息を取ることによって莫大な富を得ることができるようになった。文字通りの“錬金術師”が登場した瞬間である。

 ところが彼の栄華をみて不審に思った市民が、彼のもとに紙幣を持ってきて、実際の金(ゴールド)に交換するように要求するようになる。しかしそのころには、彼らが発行した「紙幣」があまりにも多く流通しており、実際の金(ゴールド)と交換する分は金庫に残っていなかった。こうして取次騒ぎが起こり、初期の銀行は破綻していった。

 ところが当時、産業が発展するためには紙幣が必要だった。

 そこで銀行家たちは考えた。何もないところから何かを生み出すには、法律を作ってしまうのが一番だ。このようにして、お金を作る法律ができ、銀行は作るお金の「量」の制限に合意をした。これが近代の銀行の姿だ。

貨幣と銀行にまつわる2つの誤解

 さてここで、多くの人が持っている、貨幣と銀行にまつわる2つの誤解を紹介したい。

 1つ目の誤解は、多くの人が「銀行が貸し出しているお金は、皆が預けている預金が元になっている」と思っていることだ。実は、銀行は預金に利息をつけて貸し付けているわけではない。銀行は、貸付(ローン)を元にお金を貸しているのである。

 これはどういうことだろうか?

 銀行が発行できる貨幣の量は、保有する資産に基づいて決まる。銀行の資産とは、銀行が中央銀行に預けている小額の元金と莫大な貸付(ローン)である。

 できたばかりの銀行は、中央銀行に預けている元金1に対して、10の貨幣を発行することができる。そして発行した貨幣を誰かに貸付すると、銀行はその抵当権(ローン)を担保にして、さらにその10倍の貨幣を発行できるのだ。

 このような準備制度のもと、銀行はおよそ元金の90倍のお金を創り出すことができる。つまり銀行はお金を、預金ではなく借金から創っているのである。あなたが持っているお金は、実は誰かの借金である。誰かが借りないとお金は生まれないからだ。

 いまや銀行は、複雑な制度をかいくぐって限界なく貨幣を創りだすことができるようになった。銀行は私たちが借りられる限り、お金を創ることができるのである。現在流通している貨幣の95%は銀行のローンによって生まれたものである。これが金融経済の実態だ。

 余談になるが、サブプライムローン(別記事参照)のような信用収縮の問題が生じる本質はここにある。実態経済と金融経済の圧倒的な規模の違いと銀行の貨幣創造システムを知っていれば、より深く理解することができるだろう。

環境破壊が止まらない原因は、モラルではなく経済のシステム

 さて銀行は、新たな利息収益を上げるためにさらに貸付(ローン)を増やし、このクレジットという化け物は膨張してゆく。

 貸付(ローン)には、当然、利息の支払いが伴う。だが、銀行は利息分の経済的価値を生み出すわけではない。銀行が生み出したのは元金だけである。

 ではどこから巨額の元本に対する利息が支払われるのだろうか? 利息を生み出すのは、実質的な経済活動しかない。そのため、この膨張した貨幣システムを維持するためには、“経済がいつまでも成長し続ける”という前提が必要となる。

 だが経済の成長には、資源が必ず必要になる。膨張する経済システムは、永久の経済成長を必要とする。しかし残念ながら地球の資源は有限であり、永久の経済成長と地球資源の保護を両立させることはできない。

 昨今のコモディティ(原油・鉱物・農作物)価格が軒並み上昇しているのは、急激に膨張した金融経済に対する実質的資源の枯渇を端的に表している。現代の金融資本主義システムは、いやおうなく自然を壊しつづけ、地球を侵食しつづける。これは貨幣論から見れば、非常に単純な理屈である。

 どんなに自然保護を叫んでも環境破壊は終わらないだろう。なぜなら問題は皆が考えているよりもはるかに構造的だからだ。それはモラル(倫理)の問題ではなく、経済システムの問題なのである。

 マネーサプライ(貨幣の供給)の総容量は、地球が再生産できる資源供給量の中に収めなければならない。エコロジーはエコノミーとセットで考えなければならない。そしてそのような目を持つ時、現代の貨幣システムが抱えている根本的な欠陥を私たちは知ることになるだろう。

 次週は、皆が持っているもう1つの大きな誤解「誰が貨幣をコントロールしているのか?」について考えていこう。

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