どこまで続く、サブプライム・ショック 藤田正美の時事日想

» 2007年11月05日 09時28分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」


 サブプライムローンの損失が、金融機関を蝕んでいる。比較的影響が少ないと見られていた日本の金融機関でも、野村證券が1500億円近い損失を出したのを始め、みずほフィナンシャルグループが500億円、三菱東京UFJが200億〜300億円、三井住友フィナンシャルグループが320億円、農林中金が400億円といった損失を出している。もちろんこれは現段階でということだから、サブプライムローンを含む証券の価格動向次第ではさらに膨らむ可能性もある。

 欧米の金融機関は、さらに大きな打撃を受けている。アメリカの大手金融機関10社が被った損害額は(損失引当金も含め)約290億ドル(3兆3000億円)に上ったという。サブプライムローンに伴う損失額はこれで全部とは言えない。来年になって返済不能額が増えれば、評価損がさらに出てくるかもしれない。とりわけサブプライムローンは、来年になると支払い金利が増額する仕組みになっているものが多いため、その影響が懸念されている。

FFレートの引き下げは、物価にも景気にも影響する

 こうした状況を受けて、アメリカのFRB(連邦準備理事会)は10月31日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートを0.25%ポイント引き下げ、年4.5%とした。金利を引き下げたのは、先月に続いて2度目、引き下げ幅の合計は0.75%だ。1987年10月のブラックマンデー(株価大暴落)、1988年のヘッジファンド危機(ロシア通貨、ルーブルの暴落でヘッジファンドのLTCMが破綻した事件)のときも合計0.75%の利下げで乗り切ったから、FRBのバーナンキ議長としては今回で利下げの打ち止めとしたいところだ。

 利下げとともに発表された声明に、「インフレが高まるリスクと景気が低下するリスクはほぼ同じ」と書かれているように、FRBとしてはどうしても物価の上昇率が気になっているのである。実際、9月の消費者物価指数はエネルギーと食品を除くコア指数で0.2%(年率換算では1.8%)上昇している。

 まだこの範囲の物価上昇ならば「目標」の範囲内ではあるが、原油相場が90ドルを越えたところで乱高下しており、これが一般の物価にはね返ってくることを考えると、いくら金融市場が不安定で信用が収縮しているとしてもそう大幅な利下げはやりにくい。市場では12月までにもう一度利下げという観測もあるが、先月末のFOMCでも連銀総裁の一人が利下げに反対したように、物価動向を懸念する声は根強いのである。

 その一方で、景気がどう動くかも注目されている。7〜9月期の成長率は、市場の予想を遙かに上回る年率3.9%だった。成長率を押し上げたのは輸出などだが、10〜12月期は住宅市場が一段と冷え込んでいるため、民間のエコノミストの平均でも年率1.8%と急減速するとされている。

米国の好調な個人消費は、住宅価格の伸びが背景にあってこそ

 もともと住宅の価格上昇を背景に、GDP(国内総生産)の7割を占める個人消費が安定的に伸びてきたという側面がある。住宅価格の値上がりによる資産効果とセカンドモーゲージという資産価値上昇分への融資による消費押し上げである。この効果が消えるばかりか、住宅価格が値下がりしてくると、銀行は融資の繰り上げ返済を迫り、それが個人消費を押し下げることにつながる。それにガソリン価格が大幅に上昇することで、当然、他の項目への支出は抑えられる可能性がある。

 このような状況の中で、余ったカネが世界を飛び回る構造が変わってしまったわけではない。ヘッジファンドやプライベートバンクなどが、有利な運用先を求めて、為替市場や商品市場、証券市場をさまよう。それだけに消費者物価、個人消費、住宅市場さらに原油相場などが動くたびに、かなり荒っぽい展開になる可能性がある。

 それがいつになったら落ち着くのかは誰にもわからないが、1つ明らかなのは少なくとも年内は神経質な動きになるだろうということだ。そしてもう1つはっきりしているのは、日銀は現在の低金利状態を何とか脱したいとしているものの、利上げのチャンスは年内にはなさそうだということである。

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