広がるJR系IC乗車券システム。電子マネーは“レールサイド経済”の後押しになるか神尾寿の時事日想:

» 2007年10月31日 09時44分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 10月29日、JR九州が2009年から九州エリアで導入するICカード乗車券の名前を「SUGOCA(スゴカ)」にすると発表した(別記事)。詳しくはニュース記事に譲るが、利用可能エリアは福岡・北九州市の144駅になるという。ちょうど九州経済の中心エリアがカバーされる形だ。

 JRグループのIC乗車券システムは、FeliCaの草分けでもあるJR東日本の「Suica」を筆頭に、JR西日本の「ICOCA」、JR東海の「TOICA」、そして2008年秋にスタートするJR北海道の「Kitaca」があり、JR九州の「SUGOCA」は5つ目になる。JR四国のIC乗車券システム導入が未だ検討段階であるが、それ以外の地域ではJR系のIC乗車券システムが出そろった形だ。すでにSuicaとICOCAで実現しているような、相互利用の動きも順次進んでいくだろう。

JR九州「SUGOCA」(左)とJR北海道「Kitaca」(右)

電子マネーで「地方都市の駅前回帰」と連動を

 一方、電子マネーの分野に目を向けると、JR東日本の「Suica」が、発行枚数・利用数ともに、Edy・nanacoに並んで“電子マネー3強”の一角を占めるのに対して、東日本以外のJR各社(以下、JR各社)の取り組みはパッとしないのが実情だ。現在、Suica以外で電子マネーを推進しているのはJR西日本のICOCAだが、その発行枚数や加盟店数はSuicaに大きく水をあけられている(別記事)。TOICA、Kitaca、SUGOCAなどは、当面はIC乗車券としての展開に軸足をおいており、電子マネー事業への姿勢は、JR東日本に比べてかなり消極的である。

 JR各社が電子マネーに慎重な背景には、地方の経済圏が「鉄道と駅を軸にしていない」(地方の経済同友会幹部)という事情がある。モータリゼーション以降の“クルマ社会化”で、地方都市は郊外型・ロードサイド型に拡散し、「国道沿いとショッピングモール」が新たな経済圏になった。結果として、駅と駅前はさびれ、“クルマがないと生活できない”状況になってしまった。駅と駅前が、人と経済の集約点ではないのだから、JR各社が電子マネー事業に及び腰になるのも無理からぬ部分がある。

地方のクルマ依存社会は袋小路に入り込んでいる

 しかし、今ある「地方のクルマ依存社会」に綻びが見え始めているのも事実だ。例えば、2010年には約1400万人に達する高齢者ドライバー問題は、クルマ依存社会の地方でこそ深刻である。また、解消の見込みが立たないガソリン価格の高騰は、“クルマが生活の足”である地方生活者の懐に重くのしかかっている。クルマ依存型の社会であることが、今後さらに地方の重荷になり、東京など大都市と地方の経済格差を広げる要因の1つになるのは間違いない。

 モータリゼーションがもたらした拡散型のクルマ社会は、人口と経済が右肩上がりで成長する時期にはよいが、人口と経済の伸びが止まった縮小均衡の状況では非効率さの方が目立ってくる。ロードサイド型のクルマ社会は、袋小路に入り込んでいると言えるだろう。

中核都市への集約の重要性

 経済効率、そして環境効率を考えれば、地方における“中核都市への集約”は今後さらに重要になってくる。鉄道・バスなど公共交通をモビリティの中心に据えて、人と経済が駅と駅前に集約する「レールサイド型」の街作りが必要になってくるだろう。

 この駅前回帰において、鉄道事業者の果たすべき役割は大きい。鉄道事業はもちろん、それ以外の分野でもサービス拡大や新ビジネスの展開をし、駅と駅周辺という経済圏に対して利便性提供を行う必要があるだろう。鉄道系の電子マネーは、その重要なひとつである。実際、このような取り組みは、JR東日本やスルッとKANSAIなど大都市の事業者はもちろん、地方でも愛媛県の伊予鉄道(別記事)や香川県の琴平電鉄(別記事)がチャレンジしている。JR各社も前向きに「地方中核都市の駅前発展」と、それに連動して鉄道系電子マネーの積極展開に乗り出すべきではないか。

 幸い、JR各社にはJR東日本のSuica電子マネーという先輩がいる。Suica型の鉄道系電子マネーが全国の中核都市に広まり、レールサイド型経済圏の創出と活性化に貢献することに期待したい。

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