北海道第3の中核都市にして、鉄道・フェリーにおける本州からの玄関口。そして、観光都市としても有名なのが、道南の要衡、函館市である。この函館市で10月27日、FeliCaと携帯電話を活用した先進的な観光振興サービスの実証実験が始まった。10月27日から11月11日まで実施される。
今回の実証実験は、函館市湯の川温泉で開催される「はこだて湯の川温泉泊覧会」(はこだて湯の川オンパク実行委員会主催)に合わせて実施されるもので、函館まちナビ協議会、公立はこだて未来大学、日本電気(NEC)が導入にあたっている。
「函館まちナビプロジェクトは、国土交通省が全国31カ所で選んだ『まちめぐりナビプロジェクト』で北海道唯一のものであり、本日(27日)から始まる はこだて湯の川温泉泊覧会を支援するものになります。今回のプロジェクトでは、(FeliCa)ICカードと携帯電話を組み合わせることで、函館を訪れる皆さんに街めぐりで楽しんでいただける情報を提供し、観光に役立つものにしたい。2週間という限られた期間ですが、成果を出したいと考えています」(公立はこだて未来大学 システム情報科学部 情報アーキテクチャ学科教授の鈴木恵二氏)
函館まちナビプロジェクトでは、複数の観光情報提供サービスが試みられる。そのコアになるのは、FeliCaと携帯電話を組み合わせた観光スポットのチェックポイントラリーだ。
観光客はまず、市内3カ所に設けられた「まちナビインフォメーションセンター」で参加登録し、500円をデポジットしてFeliCaカードの「はこだてまちナビカード」をもらうか、おサイフケータイで登録する。この際、携帯電話のメールアドレスも登録し、まちなびカードもしくはおサイフケータイのFeliCa情報とメールアドレスの紐付けを行う。市内各所に設置されたチェックポイントにはFeliCaリーダー/ライターがあり、ここにFeliCaカードもしくはおサイフケータイをかざすと、チェックポイント通過の記録とともに、その場所にちなんだ観光情報とクイズがメールで届く。函館市内8カ所のチェックポイントうち、5カ所以上を回ると「函館制覇」の称号と記念品が贈呈され、さらにクイズに3問以上正解すれば、後日、抽選で賞品が届くというものだ。
FeliCaカードと組み合わせる場合は3キャリアの携帯電話が利用できるが、おサイフケータイで登録する場合はNTTドコモのみが対象となる。
このチェックポイントラリー以外にも、函館まちナビプロジェクトでは、「観光ビデオが収録されたiPodの貸出」や「携帯電話向けに動画コンテンツの提供」、「NECのパーソナルロボット PaPeRoの体験コーナー」などが用意されている。すべて体験すれば、丸1日、函館観光が楽しめるという内容だ。
オープニングセレモニーの取材後、筆者もさっそくチェックポイントラリーに参加してみた。
参加登録はまちナビインフォメーションセンターで行うが、ちょうどセレモニーが開催された「湯の川観光ホテル」にも用意されている。ここでカードを受け取り、自らの携帯電話メールアドレスを登録すれば、準備完了だ。
最初のチェックポイントは、インフォメーションセンターの中にある。早速かざすと、チェックポイント通過と湯の川観光ホテルについての情報が記載されたメールが到着。メールにはURLリンクもあり、さらに詳しい情報が欲しければ携帯電話サイトで見られる仕組みだ。その後、すぐに観光クイズのメールも届く。クイズの内容は、チェックポイントに関連するもので、逆に言えば「その場にいないと分からない」ものだ。湯の川観光ホテルでは、大浴場の名前が問題になっていた。
湯の川観光ホテルはさらに、はこだて湯の川温泉泊覧会の事務局も設置されており、インフォメーションセンターにはロボットコーナーも用意されていた。ここにNECのパーソナルロボットPaPeRo(パペロ)もいて、リーダー/ライターの上にまちナビカードを置くと、ロボットと会話ができる。PaPeRoと会話後、彼(彼女?)に見送られながら、いよいよ函館めぐりを開始する。
湯の川観光ホテルでスタッフに聞くと、最寄りのチェックポイントは「湯の川プリンスホテル渚亭」だという。どうやら徒歩圏らしい。ホテルの外に出ると、涼しい、というか寒い。道南とはいえ、やはり北海道。東京とは風の冷たさが違う。ふと見ると、空中に白いものがフワフワと上下している。雪虫だ。地元の人によると、この雪虫が飛び交うようになると、雪が降るのも近いという。
湯の川プリンスホテル渚亭に着くと、ここにもインフォメーションセンターがあり、リーダー/ライターを発見した。カードをかざすと、すぐにメールが届き、観光情報をチェックしつつ、クイズに答える。
さて、次のチェックポイントは……と最初にもらったパンフレットを開くと、その他の場所はけっこう離れている。どうやら市電に乗って移動するらしい。この市電にもチェックポイントがあるのだが、それは最新鋭車両の「らっくる号」1両のみ。つまり、これに乗らないとカードをかざせない。
市電乗り場に着くと、ちょうど反対路線をらっくる号が通過中だった。湯の川温泉は市電の折り返し地点でもあるので、しばらく待てば、通過したらっくる号が折り返してくる。旧型の車両を2両ほど見送ったら、らっくる号が戻ってきた。これに乗り込み、3つ目のチェックポイントをこなす。
市電は函館市内の観光エリアをめぐるようになっており、まちナビも「市電+徒歩」で回れるように構成されている。湯の川温泉から距離的に近いのは有名な「五稜郭」だが、ここは市電駅から少し歩く上に、チェックポイントは五稜郭タワーと書かれている。今回は取材時間が限られているので、効率よく回りたい。そこでチェックポイントが集中しているベイエリアまで移動し、一気に「函館制覇」を狙うことにした。
らっくる号で函館市内中心部を通過し、洋風建築が立ち並ぶベイエリアに向かった。ちなみに、らっくる号に乗っていて気付いたのが、乗客の多さだ。2両編成の路面電車なのだが、ほぼ満員で函館駅周辺ではすし詰め状態。函館市は中心街がまとまっており、ビジネス街や観光地を網羅するように市電が走っている。そのため「クルマより市電の方が便利、ということも多い。住民だけでなく、観光客もレンタカーではなく市電を使う人が多い」(地元スタッフ)という。この辺りの交通事情は、バスと路面電車が発達している長崎市に似ている。
さて、ベイエリアのチェックポイントは、倉庫街のショッピング施設「金森倉庫」と、「函館市地域交流まちづくりセンター」に用意されている。ベイエリアを越えれば函館山山頂にもチェックポイントはあるが、そちらは体力と残り時間が心配なのでパス。まずは金森倉庫に向かった。
金森倉庫のチェックポイントはショッピングセンター内にあり、今までの場所に比べると分かりにくい。参加時にもらうパンフレットには屋内見取り図もあるが、これはかなり簡略化されたもので、施設内を探索することになる。実際、筆者は施設内をウロウロと探し回ることになった。倉庫内には、おみやげ物から雑貨まで数多くのお店があるので、ショッピングをしながら探すのが本筋なのだろう。
金森倉庫を後にすると、函館制覇まで必要なチェックポイントはあと1カ所。素直に一番近くにある「函館市地域交流まちづくりセンター」に向かう。ここにはインフォメーションセンターもあるので、そこで終了すれば、すぐに記念品がもらえるメリットもある。
函館市地域交流まちづくりセンターは函館市の行政施設という位置付けだが、その建物の内外はとても公共施設とは思えないほど趣のあるものだ。この建物は、1923年(大正12年)に丸井今井呉服店函館支店として建てられたものだ。それを再利用し、今は市民交流の場になっている。ここのチェックポイントは入り口から入ってすぐのカウンターにあり、インフォメーションセンターも兼ねている。筆者が訪れた時も、地域住民とおぼしき親子連れが函館まちナビの説明を受けていたところだった。
函館市地域交流まちづくりセンターで、まちナビカードをかざすと、携帯電話に「函館制覇」のメールが到着。インフォメーションセンターで記念品をもらう。これは「らっくる号」のペーパークラフトやポストカード、お菓子などで、ちょっとしたおみやげ物になる。
日帰り取材ということもあり、駆け足でめぐった函館まちナビのチェックポイントラリーだが、筆者の感想を正直にいえば「想像以上に楽しかった」。チェックポイントでカードやおサイフケータイをかざすと届く観光情報は、かなり詳しいもので、ちょっとしたガイドブック並み。地元ならではの観光情報も含まれている。
また、チェックポイントごとに設けられたクイズも手応えがあった。その場に行かなければ分からない答えが多く、メールが届くと近くにあるはずのヒントを探し回ることになる。チェックポイントが函館市内の広範囲にわたるため、「全部を回ろうとすれば、結果的に広い範囲で観光することになる」(函館まちナビ協議会の星野裕氏)のもポイントだろう。筆者は短時間で回れるコースで函館制覇を果たしたが、8カ所すべてで「完全制覇」を目指し、観光もしっかりすれば丸一日はかかるはずだ。
今回の函館まちナビプロジェクトは、11月11日のはこだて湯の川温泉泊覧会の終了まで実施される。この期間、観光客や地元の人たちが参加して楽しめるほか、主催者側はチェックポイントごとの利用状況や人の移動を統計化し、今後の観光振興のための“生きたデータ”にするという。
FeliCaと携帯電話を使った情報配信サービス、観光振興におけるIT活用など、さまざまな点で見所の多い函館まちナビプロジェクト。もし秋の行楽の予定が決まっていなければ、このイベントに参加し、筆者が実現できなかった「函館完全制覇」を実現してみてはいかがだろうか。
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