ロングテールを支えるSEOノウハウとは?――ケンコーコム・丸敬弘氏 EC最前線インタビュー:

» 2007年10月22日 21時22分 公開
[吉田卓司,Business Media 誠]

 “インターネットでモノを売る”ECサイト。ECコンサルティングを行う吉田卓司氏が、数あるECサイトの中から第一線で活躍しているサイトをピックアップ。「最新ではなく最前線」をコンセプトに、現場の目線で「ECの今」を語ってもらう対談企画。本連載の第4回目に登場するのは、健康関連商品を扱う通販サイト「ケンコーコム」である。

 ケンコーコムは、いわゆる“ロングテール”というビジネスモデルが日本で最も似合うECサイトではないだろうか。扱うアイテム数は、現在8万2000点。しかも独自のSEO対策を施しており※、Googleなどの検索サイトで欲しい商品を検索すれば、同社のサイトは上位に表示される。何かを欲しい、買いたいと思ったユーザーは、高い確率でケンコーコムにたどり着き、そこで商品を購入することになる。商品を検索したときに、どうやって検索エンジンに上位表示させるか?――このSEO技術こそ、ケンコーコムのロングテールモデルを支える集客エンジンになっているのだ。

※SEO……Search Engine Optimizationの略。検索エンジンの検索結果ページで、自分のサイトが上位に来るように工夫すること。
ケンコーコム

 ECサイトにとって、SEOが巧みだということは、大変魅力的な集客ノウハウといえる。SEOを集客方法と考えたとき、その大きなメリットは「コストが無料」ということだ。サイトの集客を進めるにはさまざまな方法があるが、広告を出すなどの方法に比べ、SEO対策にはコストがかからない。従ってSEOがうまくいっているECサイトは、商品数を増やせば増やすほど、売上が伸びることになる。

 実際にケンコーコムでは、2006年度には65億円の売上を上げている。“検索エンジンで上位表示される”という一見原始的に見える方法は、実はもっともコスト対効果の高い集客ノウハウといえるのだ。

 SEO対策を行い、ロングテールモデルを実現する戦略とは?――連載第4回目となる今回は、ケンコーコム経営企画室Web系担当の丸敬弘(まる・たかひろ)氏に、そのコツを聞いていく。

SEOへの目覚め

ケンコーコム経営企画室Web系担当、丸敬弘氏

吉田 本日はお忙しいところありがとうございます。まずは御社のサービスについて教えてください。

 弊社のEC事業は“ヘルシーネット”(注:ケンコーコムの旧社名)時代にダイレクトメールを使った通販で、健康関連商品を数点扱うところから始まりました。2000年にインターネットに着目し、「ケンコーコム」 というサイトを立ち上げてインターネット通販事業へとシフトし、現在に至ります。その当時の商品数は50点くらいです。その後、商品数を増やす方向に注力し、今は8万2000点に増えています。今年度末で10万点を目指しています。

吉田 10万点とは、他社と比較してもものすごい品数ですね。御社では「アイテム数拡大=アクセス数の拡大=売り上げの拡大」というビジネスモデルをとっているわけですが、この勝ちパターンは創業当初からのものなのでしょうか?

 いいえ、むしろ逆です。まだ売り上げが70万円くらいしかない当時、ヤフーのトップページに広告費を投下しすぎてつぶれかかりました(笑)。当時首脳陣は、ネット上で人通りが多いところに広告を貼りさえすれば、ユーザーがたくさん来て商品が売れると思っていました。しかし、それだけではお客様は来ない。そこで、懸賞サイトに旅行券が当たる企画を出したり、クーポンをばらまいてみたり、「コスト効率の良い集客方法とは何か?」を模索した時期がしばらくありました。ちょうどその後Googleが出てきて、その一般浸透度の高まりとともにトラフィックを伸ばすことができたのです。

吉田 Googleが出てきたときに、すぐに「これは来る!」と思って動いたのですか?

 最初からビビビときたわけではないです。サイトのログを見ていくうちに「人がGoogleから来ている」ということが分かってきて、それでGoogleについて調べ始めたのです。

吉田 SEOを重視するサイト構築を始めたのはいつごろからですか?

 2001年、リンクポピュラリティについて京都大学の方が論文をWeb上に公開していたのを、後藤(玄利氏、ケンコーコム社長)が見つけたんです。そこで後藤を中心に、ロボット型検索エンジンはどのようにページの順位を決定するのか、調べていきました。

SEOは効率がいい集客方法

 ケンコーコムでは、SEOをマーケティング戦略の一環として捉えている。現在、丸氏はマーケティング担当部門のトップとしてチームを率いている。

吉田 現在、マーケティングチームはどんな体制なのですか?

 マーケティングを担当するチームは2つに分かれています。1つは、SEOやサイトの構造設計を行うテクニカル系で、もう1つはアフィリエイトやリスティング、メルマガなどを行う属人系です。

吉田 SEOは、集客を行う“攻め系”マーケティングという位置付けですよね。SEO担当は何人くらいいるのですか?

 SEOは2人で行なっています。

吉田 2人ですか! その集客が65億円の売上につながったのだから、非常に効率が良いですね。最近のECサイトはマーケティング手法のバリエーションが増えているため、広告担当、アフィリエイト担当といった形で別々に担当を置く結果、もっと人数が多いのが普通です。SEOに特化するという明確に絞りこんだ戦略だからこそ、こうした効率のよい運営が可能なんですね。

  • SEOの基本とは?

吉田 SEOと言葉ではよく言いますが、具体的にはどういうことをするのでしょうか?

 まずは検索エンジンのロボットクローラーがどう動くのかを考えることです。クローラーの動きは、基本的に、人間がロボット型の検索エンジンで検索したときと同じ流れです。必ずしもトップページから(商品ページへ)来るわけではなく、むしろトップページよりも、下のページ(商品ページ)に直接たどりつくことが多いわけです。この場合、下のページがトップページになるわけですから、下にたどり着いたユーザーやクローラーから見ても、サイト全体の構造が分かるようになっていないといけないのです。

一般的なリンクのはり方では、トップページが決められていて上流(トップページ)から下流(商品ページ)に流れるのに対し、SEO対策を意識したリンクのはり方の場合には、どこのページにたどりついてもそこがトップページとして機能する

 同じような情報でも、何段階か隔てて遠いところにあると、クローラーが到達する可能性が下がります。同質の情報はできるだけ直接リンクにするなどして近い位置に配置するようにし、少ないクリック数で到達できるようにしておくことが大事です。

吉田 頂上(トップページ)からの“おすそ分けモデル”はサイトが増え過ぎて意味をなさなくなったわけですね。SEOで必要なリンクポピュラリティを上げるには、外部からの被リンクを増やすだけでなく、こうしたサイト内部のリンクの張り方が大事なのですね。

SEOは楽しい

吉田 こうしたノウハウはどのように作っているのですか?

 自分で仮説を立てて、自社サイト上で検証しています。“Googleは必ずこれに気づいてくれる”と信じてやり続けています。

吉田 どうしたらGoogleのロボットに気付いてもらえるのでしょう。具体的に教えていただけますか?

 ロボット型検索エンジンは、文章からその主題を類推する、という国語の問題を機械的に解こうとしていると考え、その問題解決を楽にしてあげるような変更を行っています。例えば、HTMLソースはできる限りシンプルで分かりやすいほうがロボットは読みやすいだろうと考え、ページの主題に関係ない記述が減るようにページ構成を見直したり、HTMLソースそのものが軽くなるように、デザインはスタイルシート化を進めたり、といったことですね。

吉田 ご自身で何か、本やWebサイトを見て研究されているのですか?

 私はあまり、第三者の作るSEO情報サイトやコラムは見ないです。今は直接ヤフーやGoogleの開発者のブログを見られますので、それで十分足りると思います。

ロングテールモデルを支えるのは“物流”

吉田 今までこうした仕事をされてきて一番嬉しかったことは?

 SEOをやって思い通りになった時。(SEOは)タダなので、非常に“お得感”がありますね。同じ結果を出すために「これがSEM※だったら」と想像して費用対効果を考えると、「得したな〜」というしみじみとした喜びがあります(笑)。結果が出てくるのに3カ月くらいかかるので、いろいろ調べて「他に変動要因がないのだから、きっとあれが効いたのかも」と、遠回りな形で確認できるに過ぎませんけど。

吉田 確かに。丸さんの場合は完全に“攻めのSEO”ですから、効果があれば喜びもひとしおですね。やはり御社の強みはこうしたSEOの独自ノウハウに尽きる、ということでしょうか?

 いえ、SEOはその1つではありますが、圧倒的な商品数とそれを低コストで運用する物流の仕組みがあってこそです。他社でECをやっている方からはよく「数万アイテムの在庫と管理はコスト負担がきついでしょ?」と言われるのですが、逆にそこをうまくやるのが私たちの強みだと思います。商品販売におけるあらゆる作業でコストを最小限化しているので、たとえばアイテムが数個売れたら元が取れ、あとは売れたら売れた分儲かる、というビジネスモデルになっているのです。

吉田 確かに! ロングテールを行うということは、そのアイテム数を抱える物流がキモになるわけですね。

 そうです。仕入れもロットではなく、ピース単位でやるとかですね。やればやるほど、私は「ECは物流だな」と思います。昔、Amazonがなぜ赤字を垂れ流してまでも物流センターに投資をし続けたのか。当時は私にも良く理解できませんでしたが、今は実感できます。

吉田 AmazonのベソスCEOは昔、「Amazonの最大の強みはレコメンデーションやWEBシステムではなく、物流にある」という発言をされていたのを思い出しますね。御社もまさにそこが強みなのですね。

ECは総合格闘技

吉田 最後に一言お願いします。

 私は、ECって総合格闘技だと思っています。でも、その辺のイメージが世の中に伝わっていないなと思います。ECは、Webマーケティングだけを見ると、キラキラしているイメージを持たれがちです。でも実際は、物流やカスタマーサポートなど泥臭いところもしっかり行って、それらの歯車がすべて揃わないと顧客満足度の高いサービスを提供できたことにはなりません。そういった基礎の重要性は、今でも変わっていないと思います。

吉田 総合格闘技……確かに。ECはWebやシステムだけではない、在庫管理やクレーム対応などリアルな部分を多く持ち合わせているので、総合サービスが完成して初めて立派なお店ができますね。大変勉強になりました。

筆者より一言……ロングテールを支えるSEO、そして物流

いかがでしたか? “ロングテール+SEO”は大変相性のよい集客ノウハウだということ、そしてそれをECサイトで実現するためには“物流”という裏側の強みが必要であることが理解できるお話でした。ケンコーコムの強さは、SEOと物流の両輪をバランスよく回すことによって実現できているのです。Webサイト構築、システム、顧客対応、商品数、物流……インターネットの世界ではよくいわれる“ロングテールモデル”を実現するためには総合力が必要であることが、よく分かったのではないでしょうか。

吉田卓司:2000年にオイシックスを創業。代表取締役副社長として感動食品専門スーパー「Oisix(おいしっくす)」を日本でもトップクラスの食品ECサイトに育てた。現在はECコンサルティングを行っている。2007年7月、Oisixでの7年間のEC実業で培ったノウハウをもとに、企業向けに最適なECソリューションを提供する会社「オイシックスECソリューションズ」を設立した(7月23日の記事参照)


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