ケータイの買い方はどう変わる――“ソフトランディング”を図るauと、後出しドコモの選択肢(後編)

» 2007年10月16日 17時06分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 携帯電話の販売方法が大きく変わろうとしている。直接のきっかけとなったのは、モバイルビジネス研究会の設置などを通じた総務省の動きだが、右肩上がりの普及拡大期を終え、携帯電話キャリアが、そのビジネスモデルや販売方法を見直す時期にきていたのは確かだ。これまで「市場拡大と業界発展を支える両輪」(キャリア幹部)とまで言われた販売奨励金制度をどう変えていくのか。そこに大きな注目が集まっている。

ケータイの買い方はどう変わる――“ソフトランディング”を図るauと、後出しドコモの選択肢(前編)

KDDIの本命はフルサポートコース

 携帯電話の販売方法の見直しについて、最初に舵を切ったのはソフトバンクモバイルの「割賦販売制」だった。そして10月4日には業界2位のKDDI(au)が、「au買い方セレクト」として新販売方法を発表した(10月4日の記事参照)。本記事の前編で述べたとおり、このKDDIの新方式は、総務省が求めた「分離プラン」のシンプルコースと、従来型の販売奨励金制度を修正した「利用期間設定・ポイントによるARPU連動型」のフルサポートコースの2つで構成されている。特にKDDIが重視しているのは後者のフルサポートコースであり、これはキャリアによる端末値引きや割引の公平性を高くしながら、キャリアのメリットは従来より大きく、販売店に対する影響も少ない。よく考えられたソフトランディングプランといえる。

 このKDDIの動きに対して、“後出し”となるNTTドコモはどう対応するのか? 今回はドコモの選択肢について、少し考えてみたい。

割賦販売制は、“店頭価格を下げる”というニーズに応えられる

 ドコモはこれまで、定例社長会見などでたびたび「将来的な割賦販売制の導入」を匂わせる発言をしてきた。モバイルビジネス研究会に言われるまでもなく、今の携帯電話販売方法に見直すべき課題があることは、ドコモも理解している。また、ソフトバンクモバイルの“持ち帰り0円で、その後の利用料金に応じて特別割引を付ける”変則的な割賦販売制「新スーパーボーナス」が、店頭での販売競争において一定以上の効果・成果を上げていることに注目しているドコモ関係者は多い。割賦制を含む複数の選択肢を、以前からドコモが検討していることは間違いない。

 ドコモショップを運営する販売会社も、夏頃からドコモの割賦制導入をほぼ確実視しており、その準備と対策を検討していた。

 「ドコモの端末価格は(他キャリアより)高いと言われて、新しい機種が売りにくかった。特に平均所得の低い地方では、ドコモ端末の割高感は東京以上に強い。どういう形にせよ店頭価格が下がるのは競争上のメリットがある」(販売会社幹部)

 このように割賦制導入を前向きに捉える声は少なくなかった。ドコモにとって、ユーザーから“割高”と見られている端末の店頭価格を下げる必要性は高い。販売方法の変更はいずれにせよ不可避なのだ。

 では、ドコモはどのように販売方法を変更するのか。

ドコモが取れる「3つの選択肢」

 今回、KDDIがポイントプログラムを絡めたフルサポートコースを発表したことで、その選択肢は大きく3つになったと言えるだろう。

 1つはKDDIの「フルサポートコース」と同じく、端末の利用期間を定めた上で直接値引きし、ARPUや利用期間連動によるポイントプログラムで、ハイエンドユーザーの早期買い換え支援や長期利用者優遇を行う方法だ。

 ドコモは以前からドコモポイントやドコモプレミアクラブなど、利用者優遇プログラムの充実に力を入れてきた経緯がある。一連の販売方法の見直しで“ポイント連携”が許されるならば(※注)、KDDIよりも積極的にこの方法を選択したいところだろう。また、KDDIがフルサポートコースで導入する「販売奨励金に端末値引き分を含めず、キャリアが端末値引きする」方法に似た仕組みは、ドコモは今夏の端末価格割引キャンペーン「夏割」で導入していた。システム的には、KDDIの追随はそれほど難しくない。

※総務省が設置したモバイルビジネス研究会の議論では、キャリアが付与したポイントを端末購入や割賦金の相殺で利用することが「不適当である」とされていた。この議論に対し、KDDIはシンプルコースをポイントプログラム適用外にし、フルサポートコースではポイントプログラムをフル活用する形で対応している。

 さらにドコモには、自らが発行するクレジットカード「DCMX」とのポイント連携・優遇を強くするという選択肢がある。DCMXを持つドコモユーザーのドコモポイント付与率を高くしたり、クレジットカード利用で貯めたポイントを端末利用期間の解除料や端末買い換えで使う場合にポイント還元率を高くするという方法である。KDDIもトヨタファイナンスやJCBが発行する提携カードを持っているが、DCMXはドコモ自身が発行するカードなので、携帯電話販売との連携が取りやすく、他キャリアが追随しにくいというメリットもある。

 DCMXに関しては、以前から存在した提携カード「ドコモカード」の新規申し込み受付が今年9月に終了しており、本業である携帯電話事業と今後ドラスティックに連携してくる可能性がある。かつてのトヨタファイナンスのように、提携カード会員をドコモが買い取り、DCMX会員を一気に増やした上でサービス拡充をするシナリオも十分に考えられる。

 このように、ARPUとポイントプログラムの連携プランということであれば、KDDIよりもドコモの方が取り得る施策や選択肢は多い。ドコモがKDDIに追随し、フルサポートコースをアレンジした上で導入。販売方式の“ソフトランディングによる改変”を図る可能性は高い。

分離型+割賦制の可能性

 一方、現在の携帯電話業界を取り巻くニーズの多様化を鑑みると、ドコモも「分離型プラン」の導入をまったく無視するわけにはいかない。KDDIのシンプルコースと同じく、携帯電話利用料と端末代金を完全に分けたプランの導入は不可避だろう。端末代金を一括で支払い、毎月の利用料金を従来より割安にするのが、2つめの選択肢だ。

 そして、3つ目の選択肢は、KDDIが巧妙に回避した「割賦制」である。賢明な読者ならばお気づきだと思うが、KDDIのシンプルコース/フルサポートコースの二本立てには、実は「割賦制」が存在しない。前者は端末代金を一括払いする分離型プランであり、後者は従来の販売奨励金制度の改良だ。KDDIの狙いは、販売方式の大半を従来の販売奨励金制度よりもキャリアのメリットが大きいフルサポートコースに切り替えることであり、分離型プランのシンプルコースは本命ではない。当然ながら販売現場では、フルサポートコースの拡販に力が入るだろう。

 この状況を逆手に取り、ドコモが「分離型+割賦制」のプランを投入する可能性は考えられる。上述のとおり、ドコモは以前から割賦制導入を真剣に検討しており、KDDIのフルサポートコース発表前はこちらが本命だったフシがある。この場合、毎月の利用料金と端末代金の関係性は切り離されるので、KDDIのフルサポートコースでは手つかずの「割安な利用料金プラン」導入がセットにできるだろう。だが、その反面、機種変更サイクルは割賦払い期間によって引き延ばされる。

 ドコモの分離型+割賦制については、DCMXを絡めることでさらに応用的な導入も可能だ。端末代金の割賦をDCMXのリボ払い扱いにしてしまい、その上でリボ手数料相当のドコモポイントを毎月付与するのである。さらにトヨタファイナンスの「トヨタならポイントが支払いをお手伝い 使ってバック」のように、毎月のカード利用で得られるドコモポイントを、端末代金の割賦金に充当するという手も考えられる。毎月のカード利用が多ければ、毎月負担する端末割賦金は割安もしくはタダになる、というわけだ。この方法は割賦制の支払いがDCMXの加入促進や稼働率向上に繋がり、さらに割賦金に充当するドコモポイントの原資をクレジットカードの手数料として外部調達できるなどドコモのメリットは大きい。ただし、割賦制とDCMXの連携は、利用対象者がカード与信審査に合格する必要があり、“万人向け”として提供できないのが課題になる。

ポイント、プレミアクラブ、DCMXが生きてくる?

 ドコモは今回の販売方法の変更において、最後発でその施策を発表することになる。料金・サービス変更における“後出しじゃんけん”の優位を鑑みれば、有利なポジションにあると言えよう。さらにドコモの持ち手には、「ドコモポイント」・「プレミアクラブ」・「DCMX」という強力な切り札が残されている。この3つのサービス内容を改訂しつつ効果的に組み合わせ、年末商戦にあわせた最良のタイミングで販売方法の変更を行えば、ソフトバンクモバイルやKDDI以上に市場競争力のある新たな販売モデルを築けるだろう。

 しかし、その一方で、最近のドコモは新商品や新サービス投入で出遅れたり、その内容が中途半端で失敗したことが多いのも事実だ。今回の新たな販売方式導入の流れでも、「動きの鈍さ」や「優柔不断さ」が失策に繋がり、せっかくの選択肢の多さが生かされないという可能性はゼロではない。

 KDDIが「au買い方セレクト」を投入する冬商戦までに、ドコモは迅速かつ大胆に動けるか。ドコモのフットワークが試されている。

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