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» 2007年10月15日 13時15分 UPDATE

動画界の風雲児・ニコニコ動画が破壊したもの(前編)

2ちゃんねるの管理人・ひろゆき氏を取締役に迎え、「動画サービスは儲からない」といった“定説”を覆して、快進撃を続けるニコニコ動画とドワンゴ。ここではドワンゴという組織について考察してみよう。

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 ニワンゴの動画サービス「ニコニコ動画」の快進撃が止まらない。9月21日にネットレイティングスが発表した調査レポートによれば、ニコニコ動画の8月月間の総利用時間は前月比で52%増加。いまだに成長が衰えず、1.5倍増のペースで成長を続けている。ユーザー1人あたりの平均訪問回数、および平均利用時間では、いずれも“ネット動画サービスの代名詞”であるYouTubeを抜き去った。

 このうねりに、コンテンツホルダーも反応している。MTV Networksのほか、吉本興業やエイベックスといった企業が動画コンテンツの提供を決めた(10月10日の記事参照)。こうした立て続けのポジティブなニュースは、親会社のドワンゴにも影響を与えているようで、この9月以降のドワンゴ株の高騰ぶりは目覚しいものがある。

ドワンゴの株価チャートドワンゴの株価チャート(1年:縦軸の単位は1000円)

 ニコニコ動画といえば、今年1月にオープンしたばかりのサイト。それが、いつしかネット界に旋風を巻き起こす“風雲児”としての地位を確立している。動画に字幕をつけられる――特徴をひとことで説明するなら、ニコニコ動画はそれだけのサービスだ。だが、確実にそれだけではない「革命的な何か」が存在するように思える。ニコニコ動画が破壊したものは何なのか、考えてみよう。

 →ニコニコ動画に死角はないのか?(後編)

強力なコミュニティに裏付けられ、素人コンテンツが「覚醒」

 「素人が作るコンテンツなどつまらない」という保守的な見方を、ニコニコ動画は徹底的に破壊した。ニコニコ動画に掲載されているコンテンツは多岐にわたるが、なんといっても最大の特徴は、ユーザーが既存のコンテンツに手を加え「パロディ化」した動画の多さ、そしてその動画のクオリティの高さだろう。

 音楽のパロディ、アニメのパロディ、ゲームのパロディ。ニコニコ動画のユーザーたちは何でも“ネタ”にしてみせる。著作権侵害の問題はあるにせよ、面白い動画には字幕として、ユーザーの称賛のコメントが嵐のように書き込まれる。それが制作側(アップロード側)の人間のやる気に火をつける。動画の人気順に順位が付く「動画ランキング」も、クリエイターたちにとって一種のインセンティブになっている。

 背景にあるのは、ニコニコ動画のコミュニティ色の強さだ。ユーザー同士、みな同じ趣味を共通する“仲間”のような、独特の連帯意識がある。以前本連載で「ハイコンテキストカルチャー」について触れたことがあるが、ニコニコ動画は究極のハイコンテキスト社会といえる。。何気ないセリフや、たった1枚の絵で皆が“元ネタ”を理解する。Aという人間が作ったネタ(アイデア)に、Bという人間が音楽を載せ、Cという人間がアニメーションを加える。そうして出来上がったハイブリッドなコンテンツも少なくない。皆が面白がって、ネタを進化させていく格好だ。

 強力なコミュニティに裏付けられているからこそ、パロディが生きる。そして面白い動画が次々とアップロードされ、必然的にユーザーが増える。コミュニティが盛り上がれば、クリエイターにとって発表の舞台としての魅力も増す。こうして、ポジティブなサイクルが出来上がっていく(9月28日の記事参照)。ニコニコ動画のマーケットでの競争優位性を挙げよと言われたら、技術面ではなくこのコミュニティの強さを指摘すべきだろう。

 MBAの教科書によれば、好調な企業もいつか後発によって追い上げられ、競争が激化すると書いてある。例えば新規技術/アイデアによって抜け出した新興企業が、ブランド力のある大手企業によって追随され、シェアを失うという理屈だ。しかし現状では、ニコニコ動画と同等のクオリティのコミュニティを作り上げられる企業がそうそうあるとは思えない。

 ニコニコ動画を例にとると、IT業界で圧倒的な事業規模、および信頼感を誇るNTTグループが同様のサービスを始めたとしても、おそらく流行らないだろう。コメント付き動画サービスというのは、コミュニティ形成の難しさが一種のエントリーバリアになっていると考えられる(4月9日の記事参照)

ひろゆき氏とマネジメントのバランスの妙

 ニワンゴを見ていると、その経営体制は少し変わっている印象を受ける。組織論としてニワンゴを取り上げるのも面白い。

 前述の強力なコミュニティ形成に、一役買ったと思われるのが巨大匿名掲示板である「2ちゃんねる」の管理人こと西村ひろゆき氏だ。ニコニコ動画のネタは、元をただせば2ちゃんねるのネタであることも多い。2ちゃんねるの「ネタ至上主義」ともいえる雰囲気を動画に持ち込んだという意味で、ひろゆき氏の影響は大きかったように思われる。

 ニワンゴがひろゆき氏を取締役に迎えると発表したとき、筆者は正直どの程度のメリットがあるのかつかみかねていた。しばしば訴訟沙汰になっている2ちゃんねるの管理人を、上場企業であるドワンゴの子会社が経営陣に迎える。これは少々リスキーではないか……という懸念もあった。筆者も過去にひろゆき氏を複数回取材しているが、必ず遅刻してくるといった具合で、会社組織にフィットしやすいタイプの人ではない。しかしこれまでの経緯を見る限り、ニワンゴは「賭けに勝った」と見るべきだろう。

 ひろゆき氏は取締役と言いつつ、ニワンゴの実務に追われているわけではない。かつてニコニコ動画がYouTubeからのアクセス禁止を受け、一旦サービスを休止して1週間で再稼動するという荒業をやってのけたとき、ひろゆき氏は以下のような行動をとっていたとコメントする。

 「ニワンゴのスタッフやサーバ会社の人は、再開に向けて頑張ってくれたと思います。僕は実質的なところはタッチしてないから『頑張れー』と思いながら家でゲームしてました。すみません」(4月20日の記事参照)

 なんとも脱力してしまうコメントだが、ひろゆき氏は全体的なアイデア立案に加え“広告塔”としての役割が大きいようだ。インタビュー取材で舌鋒鋭いメディア論を展開するのは多くの場合ひろゆき氏だし、パネルディスカッションなどでニコニコ動画について話しているのもひろゆき氏だ。彼の大胆な発言は「記事のタイトルを付けやすい」から、素行の問題はともかくマスコミ受けはいい。

 2ちゃんねるの文化(カラー)を一部継承した一方で、ニコニコ動画が2ちゃんねるのような無法地帯になっているかというと、案外そうでもないのが面白い。例えばニコニコ動画では基本的にアダルト動画は禁止。水着など「セクシーショット」であれば許容されるが、一線を越えたアダルト動画はただちに削除される。動画アップロードサイトとして、著作権侵害の問題は常につきまとうが、こちらも対応を強化するとアナウンスしている(10月1日の記事参照)。「角を矯(た)めて牛を殺す」といった事態にならないことを祈るばかりだが、少なくともきちんと管理しようという姿勢は見える。

 サーバが時折重くなって、利用しにくいといった問題もある。メンテナンスもしょっちゅう行われており、「運営しっかりしろ」と不満を持つユーザーも相当数いるようだ。しかし、YouTubeから弾かれた当初は、Googleでさえ無視できなかった巨大なトラフィックをさばききれるのか……との疑問もあった。現時点では、まずまず善戦していると評価できるのではないか。ひろゆき氏の広報活動に、ドワンゴが着メロダウンロードで培ったネットワーク管理技術が組み合わさり、組織として一定の成果を出していると見ることができる。

「動画で収益を立てる」という離れ業に成功

 個人的に、ニコニコ動画に最も期待しているのが「利益を出せるかどうか」だ。動画サービスは儲からない、という常識を、ぜひとも破壊してほしい。そして、その期待は現実となろうとしている。

 ニコニコ動画の収益源になっているのが、月額525円の「ニコニコプレミアム会員」だ。ITmediaの過去記事をたどると、7月27日時点の会員数が約5万4000人。それが9月の時点で会員数が8万6000人まで増え、最新の数字(=10月10日の記者発表会)では10万3000人を超えたことが報告されている。これだけで、概算で毎月5400万円以上の収入があることになる。年間で6億円を超える売上を見込めるのだから、大したものだ。

 新サービスの「ニコニコ市場」も順調で、年間で1億円レベルの収入が現実的なものになってきているようだ(8月3日の記事参照)。7月末日時点で「1日1000件以上」が売れている状況だったが、9月26日のアナウンスによれば「5600件以上と過去最高記録を更新」するところまで成長している。ほかに、ネットサービスの基本である広告からの収益もある。事業の継続的な発展に重要な、「複数セグメントから安定的に収益を得る」ということがちゃんと実現できている。

 コミュニティを売りにして急成長したあのミクシィですら、第5期の売上高がようやく3億円、6期目で7億円というレベルだった。当期純利益はそれぞれ約600万円、1億円(参照リンク)。ちなみにミクシィの場合は第7期(2006年3月期)の売上で約19億円にまで伸ばし、それから約6カ月後に上場を果たしている。一方でニコニコ動画は、始まってからまだ1年もたっていない。ニコニコ動画は動画サービスだけに、サーバへの投資金額が大きくなると思われるが、利益を出すことは必ずしも不可能ではなさそうだ。

ニッコニコにしてやんよ――ニコニコ動画の今後

 上記のとおり、ニコニコ動画は今一番「何かやらかしてくれそう」という勢いを感じさせるサービスであり、ビジネスの視点から見ても非常に面白い素材といえる。「ニッコニコにしてやんよ」――そんなニワンゴの、運営にかける意気込みが聞こえてきそうだ。

 ニコニコ動画は今後どのような展開が考えられるのか。そしてまた、ニコニコ動画に「死角」はないのか。次回はそのあたりを考えてみたい。(後編につづく

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