独裁と民主主義――プーチン大統領の支配はいつまで続く? 藤田正美の時事日想

» 2007年10月15日 00時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

 最近のロシアへの興味は、来年5月に大統領としての任期が切れた後、プーチン大統領がどうするのかというところに集まっている。今後の主な政治日程としては、12月2日にロシアの下院選挙、そして2008年3月が大統領選挙だ。現在2期目のプーチンは、憲法の規定によってこの大統領選挙に立候補することはできない※。

※ロシア憲法に規定された大統領の任期は4年で、かつ3選が禁止されている(4月11日の記事参照)

 プーチン大統領の腹の中はなかなか読めない。しかしまだ55歳になったばかりのプーチンには、政治の表舞台から降りる気持ちはさらさらないようだ。それに政治権力を手放したとたんに、後任の権力者によって権力濫用を告発されるリスクも当然ある(ソ連時代はそんなことが日常茶飯事だったし、ロシアになってからでも、エリツィン元大統領の周辺でスキャンダルが取りざたされたこともある)。

 プーチン大統領が実質的に最高権力者として君臨するためには、どのような手段があるのか。最近の欧米マスコミの興味はそのあたりにあるようだ。

プーチンが最高権力者として君臨するための3つの手段

 そのプーチンの動向を読む最も新しい手がかりは、12月2日に行われるロシアの下院選挙(完全比例代表制)で、プーチンの与党である「統一ロシア」の名簿第1位にプーチンの名前が載ることになったことだ。これで統一ロシアが下院選挙で圧勝することが確実になったと言われている。現在の議席は半分強だが、憲法改正に必要な3分の2を確保する可能性が大きくなってきた。

 英国の新聞「Financial Times」は、プーチンには3つの選択肢があると書いている(参照リンク)

 1つは、公職に就くことなく影響力を行使するという方法だ。中国の搶ャ平の例がある。2つ目の選択肢は、議会多数派のリーダーとして大統領をコントロールするというもの。具体的には、今年9月、突然プーチンが首相に指名したズプコフ氏が短期間だけ大統領になるかもしれない。ズプコフ氏が大統領を務めたあと、2012年の大統領選に満を持してプーチンが出馬するというストーリーだ。ロシア憲法では3期連続で大統領になることは禁じられているが、改めて出馬することは「合憲」なのである。

 3つ目は、プーチンが首相となるというもの(Financial Timesでは最も可能性が高いとしている)。首相を指名するのは大統領だが、プーチンが選んだ大統領であれば、その大統領がプーチンを首相に選ぶのは間違いないだろう。

大統領を“お飾り”に変える?

 このシナリオに多少の変化球があるとすれば、与党「統一ロシア」が3分の2の議席を取った場合、憲法改正をするのかどうか、するとすれば何をするのかということだ。1つは首相の権限を大幅に増やすという可能性がある。現在のロシアの大統領は「超大統領」と呼ばれるほど権限が強い。この大統領職をお飾りに変えて、首相の権限を強くする。もっともこの場合は、お飾りの大統領が実権を握る首相を選ぶということになるから、当然、首相の選び方も変えなければおかしくなる。

 憲法改正のもう1つの焦点は、大統領の任期と3選規定の廃止である。すでに今年の3月末には上院議長のミロノフが現在は4年の任期を5年から7年に延長するという案を表明したことがある。もちろん3選禁止も廃止するとした。来年3月の大統領選前にこの改正を実施するか、あるいは次の大統領選に向けて改正するかでプーチンの行動はもちろん変わってくる。

長期政権を握るプーチンに対し、日本は……

 今のところ、プーチン自身は憲法改正を否定している。それを信じれば、ズプコフ首相が大統領になり、憲法を改正して、すぐに健康上の理由で辞任。大統領選挙が行われ、そこにプーチンが立候補するというシナリオも成り立つ。

 具体的にどうなるかはまだわからないが、1つだけ明らかなのは、プーチン大統領は少なくとも今後相当の長期にわたって、ロシアの指導者あるいは支配者であり続けるということだ。プーチンが大統領代行も含めてトップの座に就いて以来、日本では小渕、森、小泉、安倍、福田首相と首相の顔ぶれが変わってきた。これではロシアと対等にやり合うのは相当にむずかしいということもまた明らかである。

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