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» 2007年10月11日 18時56分 UPDATE

郷好文の“うふふ”マーケティング:小雪&綾瀬はるかが六本木ヒルズをジャック!――伝えたいことは何?

ジャック広告といえば、電車1台を特定商品の広告で埋め尽くす「ラッピングライナー」が有名だが、同じ広告ばかり観ていては飽きてしまう。“埋め尽くす”意味があるジャック広告とは?を考えに、六本木ヒルズに行ってきた。

[郷好文,Business Media 誠]
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著者プロフィール:郷 好文

 マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・運営、海外駐在を経て、1999年よりビジネスブレイン太田昭和のマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。現在、マーケティング・コンサルタントとしてコンサルティング本部に所属。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


ay_go01.jpg 小雪さん(左)と綾瀬はるかさん(右)

エスカレーターを上ると、そこはVIERAヒルズだった。

 ――地下鉄六本木駅を下り、コンコースを抜けて、六本木ヒルズへ続く長いエスカレーターに踏み出す。円柱型の建物の中を、エスカレーターは静かに上っていく。正面には大画面薄型テレビ「VIERA(ビエラ)」、両脇にデジタルビデオカメラ「SD5」とデジタルカメラ「LUMIX」の巨大な広告がある。振り向けば小雪さんと綾瀬はるかさんの大きな笑顔。そうこうしているうちに、LUMIXからSDカードのような四角い光のシルエットがツーッと飛び出し、真ん中のテレビ(VIERA)に入っていく。するとテレビの画面に、小雪さんのノーブルな笑顔が映し出される。次はSD5からSDカード型の光が流れて、これもVIERAに入っていく。テレビに映る画面は、綾瀬はるかさんが愛らしく跳ねまわる姿に変わる。

 これは六本木ヒルズ一帯を広告ジャックしたパナソニックの「VIERAにリンク!」プロモーションである。エスカレーターに乗っている時間は47秒。このうち、小雪・綾瀬姉妹(という設定)の動画広告は35秒かけて見せる演出になっている。

ay_go02.jpgay_go03.jpg メトロハット内部には動画広告を設置(左)。SDカード型の光が動く仕掛け(右)

広告ジャックの2つの狙い

 長いエスカレーターから地上に上がる。円筒状の建物「メトロハット」の外周を見渡すと、全周が大きな小雪さんで埋まっており、まさに“VIERAハット”。

 埋め尽くされているのはメトロハットのまわりだけでない。地下鉄のコンコース、イベント会場の「WEST WALK」、店舗の吹き抜け、施設内通路、さらにはけやき坂レジデンスに至るまで小雪さんと綾瀬はるかさんで埋め尽くされており、ファンにはたまらない広告ジャックである。

ay_go04.jpgay_go06.jpg メトロハットの全周が大きな小雪さんで埋まっている(左)。小雪さんの上を水が流れる(右)
ay_go07.jpgay_go05.jpg ポスターももちろんジャック(左)。資材置場の扉まで小雪さんでジャックという念の入れっぷり(右)

 この広告イベントの話を聞いて、2つ疑問を持った。1つは、なぜ六本木ヒルズなのか? という疑問だ。パナソニックの宣伝企画担当者によれば、「価格的にも使い方でも先端的な商品なので、ヒルズ族に代表される都会的なライフスタイルを持つ層を意識しているから」だという。そう言われれば、同じ六本木でも「東京ミッドタウン」の訪問者は年配でナチュラル派がメインというイメージがあるのに対し、ヒルズは若くて物欲派の人が多いという印象がある(あくまで私個人の認識だが)。加えてヒルズには、オフィスや店舗だけでなく、住宅も映画館もスーパーマーケットもある。ヒルズを埋め尽くすことで、「街中をリンク」するというイメージにもなる。

 もう1つの疑問は、なぜここまで大々的な広告を仕掛けるのか? というもの。ジャック広告の代表例としては、電車の車両を一本丸ごと1社の広告でジャックする「ラッピングライナー」があるが、個人的には感心しない。なぜなら情報量が少なすぎて退屈だし、じっと同じ広告を見るのは苦痛だからだ。

 VIERAの広告ジャックも決して情報量は多くはないが、コンテンツはバラエティに富んでいる。また広告の色調がホワイトなので風景に溶け込み、あまり違和感がない。「端から端まで」というメッセージを歩いて体感してもらう狙いに沿っている。

 「街中すべて」と「端から端までつながる」――これを伝えるための「VIERAヒルズ」だった。

タッチアンドトライイベントで“つながる”

 六本木ヒルズ内のWEST WALKでは、10月14日までタッチアンドトライイベントを開催中だ。VIERAと周辺機器/システムに触って体験しようというものである。

 会場の広場は天井から日光を取り入れる構造になっている。私は雨の日に出かけたのだが、薄曇りのせいでかえってVIERA(42、50、65インチが1台ずつと、58インチ×2台の計5台)の画面が美しく見えた。余談だがVIERAハットも夜間の照明が美しいので、このイベントは夕刻出かけるほうが楽しめそうだ。

ay_go08.jpg VIERAハット内部も夕方のほうが風情がある

 ブースに5台あるVIERAは、それぞれ異なる役割を持っている。まずは「LUMIX+VIERA」。LUMIXで撮った画像を保存したSDカードをVIERAの正面下部のスロットに挿しこみ、大画面でそれを見る。そのままDVDに保存もできるし、プリンタで印刷するのも簡単、というデモだ。実際に会場のLUMIXを借りて写真を撮ってみることにした。素敵なコンパニオンの全身写真が撮りたくて、カメラを縦にして撮ったら、横から慌てた声がした。「郷さん、縦ではフルハイビジョンの横画面が生きません!」。フルハイビジョンは横長の16:9画面なので、これに9:16の縦向き写真を写すとかなり小さくなってしまう。おおそうか! というわけで、2枚目は横位置で笑顔をパシャ。

ay_go09.jpg 「acTVila」はビデオオンデマンドが楽しめるだけでなく、各種情報のポータルという位置づけ

 「acTVila」(アクトビラ)はビデオオンデマンド。観たい映画などのコンテンツがいつでも観られるというので、英国のロックグループ「クイーン」の映像を選択してしばし鑑賞。「エンタメ」以外に「地図・交通」「お天気」「株価」「ゲーム」「グルメ」「ニュース」を提供する。家族全員が使える「テレビ情報ポータル」という位置づけである。

 5台目はドアホンとVIERAの連携だった。訪問者がピンポーンとドアホンを鳴らすと、VIERAに子画面が現れ、玄関先の様子が映し出される。会話もテレビのスピーカーから聞こえる。「わざわざドアホンのところに立ち上がらないでいいのがメリットです」という。

 「なるほど、でもどうやってつなぐんですか?」と聞くと、担当者の答えは「PLCです」

 PLCとは「室内電力線データ通信システム」のことで、コンセントを差し込めば家中で機器がつながり、通信ができるという仕組み。ドアホン側もコンセントならVIERA側もコンセントだけなので、面倒なネットワーク設定や配線は要らない。「VIERAにリンク!」の売りは「差し込めばすぐにリンク」することであり、その媒体がSDとPLCなのである。

“お茶の間2.0”の時代がやってくる

 IT業界の目下のテーマは「デジタル・コンバージェンス」だといわれる。コンバージェンスとは生物学用語で、系統が異なる動植物が次第に寄りそって進化するという意味である。IT業界用語に翻訳すると、通信と放送、家電とPCや携帯電話など、別々のシステムを1つにして付加価値を生むという取り組みである。

 さらにパナソニックのメッセージに翻訳すると、デジカメ、ムービー、DVD、ステレオ、ドアホンに至るまで、真ん中にVIERAを置いて、SDをポン+コンセントをつなぐだけ=「かんたんにリンク!」である。

 お茶の間にいよいよ「2.0」の時代がやってきたと言える。それは大画面テレビをリビングの真ん中にどーんと置いて、家族みんながそれにリンクする。VIERAはお茶の間2.0時代の主役を狙っているのだ。

ay_go10.jpg PLCで機器がつながれば、VIERAはお茶の間2.0の主役になれるのだろうか。「パナソニック製品しかつながりません」とならないことを望む

リンクの真ん中にはメモリー

 お茶の間の真ん中には大画面テレビがあり、そこにさまざまなモノがリンクする。リンクの真ん中には何があるのだろう?それは「メモリー」である。

 家族のメモリーとは、家族ひとりひとりの体験、心の記憶である。笑い、涙、くやしさ、冒険、葛藤、成長、そして愛。家族のメモリーをリンクし、蓄積する。そこから付加価値を生みだす。お茶の間の主役の座を狙っているのは、パナソニックだけではない。“メモリーをリンク”は、お茶の間2.0で主導権を握ろうとするすべての企業の課題である。

 こんな想像をした。あなたの家に、陸上大会に出場する娘がいるとしよう。地元ケーブルテレビがその陸上大会を取材し、その映像が放映されることになった。あなたは娘の勇姿をデジタルビデオカメラで撮影し、そのムービーを自宅で編集する。大会に参加していた同級生の家族のムービーもネット上に上がっていたので、それも取り込み、ケーブルテレビの番組や自分の撮った動画と合わせて編集をした。そして1つしかないドキュメンタリーを、ウチ発の「地域限定ビデオオンデマンド」でエリア放送する――今はまだ無理でも、そう遠くない将来、こういったことができるようになるだろう。家族のメモリーを立体化させる仕掛け、それがリンクを普及させる鍵ではないだろうか。

 「VIERAヒルズ」も「VIERAにリンク!」のイベントも楽しんだ。プラズマ大画面の美しさも味わった。会場を後にしようとした時、プラズマ画面に映る美女を見ていたら、立体的なあまり彼女が飛び出してくる錯覚に襲われた。とっさに思い出したのは「貞子の恐怖」。テレビから出てくる怨霊とのリンクはまっぴらである。……おっと失礼。それは『リング』だったっけ。

ay_go11.jpg テレビから出てくる女性といえばやっぱりこの人

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