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» 2007年10月11日 11時56分 UPDATE

神尾寿の時事日想:ケータイの買い方はどう変わる――“ソフトランディング”を図るauと、後出しドコモの選択肢(前編)

KDDIが11月12日から導入する「au買い方セレクト」は、日本の携帯電話市場で伝統的に継続されてきた販売奨励金制度の構造を大きく変えるものだ。ポイント制度を絡めて新しい販売方法を導入するKDDIの狙いは何か?

[神尾寿,Business Media 誠]

 10月4日、KDDIがau携帯の新たな料金と販売方法「au買い方セレクト」を11月12日に導入すると発表した(10月4日の記事参照)。詳しくはニュース記事に譲るが、これは携帯電話業界の特殊な「販売奨励金(インセンティブ)制度」の構造を変えるもの。いわば、“ケータイの買い方を変える”ものと考えてよい。携帯電話の販売方法をめぐっては、今年に入ってからのモバイルビジネス研究会でも取り沙汰されてきたテーマであり、携帯電話業界のみならず、消費者にも大きな影響を及ぼすものとして注目されてきた。

 ここで携帯電話業界の少し特殊な「販売奨励金制度」について振り返ってみよう。携帯電話業界の関係者や詳しい読者には釈迦に説法になるので、この部分は読み飛ばしてもらいたい。また、ここで紹介するモデルは、ドコモとauが以前から採用してきた一般的なケースであり、ソフトバンクモバイルの割賦販売制はさらに異なることもあらかじめお断りしておく。

 メーカーやサービス事業者から販売会社に支払う「販売奨励金(インセンティブ)」は、携帯電話に限らず、クルマから家電、ISPや衛星放送の会員獲得まで広く導入されている。しかし、携帯電話が他の分野と少し異なるのは、これまでの販売奨励金が「その一部は端末値下げの原資」という役割を担ってきたことだ。

 例えば、キャリアから販売会社への卸価格5万円の携帯電話があったとする。この端末の基本インセンティブが3万5千円で、このうち販売会社の取り分を1万円にすれば、残りの2万5千円が端末値下げ原資に回されて実際の店頭価格は2万5千円になる。

 むろん、実際はこれほど単純ではなく、キャリアが販売会社に支払う販売奨励金には、端末販売に伴うインセンティブ以外に、新規契約の獲得や各種オプションサービス加入、獲得顧客の継続利用やARPUに応じたものなど、さまざまな種類がある。これら他の販売奨励金の一部も販売会社の判断で端末値下げ原資として使われている。例えば店頭でよくある「パケット料金定額制やオプションサービス加入を条件にした割引価格」は、端末の基本インセンティブからの割引のほかに、他の販売奨励金も端末値下げ原資として使われた結果の価格ということだ。

 なお、キャリアが販売会社に支払う販売奨励金総額のうち、いくらを端末値下げに使うかは厳密な規定や拘束があるわけではない。販売会社が自らの判断で値下げ分としての利用比率を決められる。キャリアも「端末の店頭価格は販売会社が決めるもの」というスタンスだ。しかし、実際にはキャリアと販売会社の“協議”が日常的にもたれており、キャリアが店頭価格に間接的に関わっているのが実情である。

2本立ての料金体系でソフトランディングを図るau

 長らく続いた携帯電話業界の「販売奨励金制度」には、基本料や通話・通信料で継続的な収入が得られるキャリアが、その一部を端末の店頭価格に先付けで還元することで、利用者のイニシャルコストを低減して「新規加入」や「最新サービスに対応した新機種への買い換え」を促す効果があった。携帯電話そのものや新サービスの“ハードルを下げた”のは、従来型の販売奨励金制度だったのだ。また、販売奨励金制度と、それによる端末の購入・買い換えの促進は販売会社を潤し、結果としてキャリアショップを代表とする顧客サービス体制の充実や維持に寄与してきたことは紛れもない事実だ。諸外国を見ても、日本ほど携帯電話ユーザーの手厚いサポート体制が構築されている国はない。

 しかし、携帯電話の機能が著しく進化し、最新機種や高機能機種の需要が鈍化するとともに、新規契約の増加や定期的な端末買い換えを前提にしたキャリアのビジネスモデルと販売奨励金制度の見直しを求める声が生じてきた。モバイルビジネス研究会で盛んに行われた、基本料や通話・通信料など利用料金と端末代金を分けた「分離プラン」の議論である。

 この議論に対する1つの答えとなるのが、KDDIの「au買い方セレクト」である。これは端末販売の方法を、販売奨励金を廃止して利用料金から端末店頭価格を値下げすることをやめた分離プラン「シンプルコース」と、従来型の販売奨励金制度を見直した上でポイントプログラム連携を強化した「フルサポートコース」の2本立てで、ユーザーが選択できるようにしたものだ。

 シンプルコース、フルサポートコースの詳細比較はITmedia +D Mobileの解説記事に譲るが、ここで注目するのはフルサポートコースである。

 フルサポートコースのポイントは、従来は販売奨励金に含まれていた「端末価格の値下げ分」を販売店に支払う手数料と分離し、端末購入時にユーザーの支払額から直接割り引く「購入サポート金額」に変わったことだ。一見すると、“単純に分けただけ”に見えるが、販売奨励金に含めるという曖昧さがなくなり、さらに購入サポート金額のコントロールはKDDIが行うため、よりダイレクトにキャリアが店頭価格に関われるようになっている。さらにフルサポートコースでは、販売店に支払う端末の基本インセンティブを分離しただけで、様々な他の販売奨励金は残している。そのためKDDIが付与する購入サポート金額で値引き後の端末価格に対して、さらに販売会社が他の販売奨励金の一部を原資にして値引きすることが可能であり、キャリアと販売会社の裁量で決められる“見えない値引き原資”の部分も残っているのだ。

 また、フルサポートコースの購入サポート金額は、24カ月の端末利用を前提にしたものであり、それよりも早いタイミングでの機種変更や解約では「フルサポート解除料」がかかる。例えば、1年で機種変更する場合の解除料は1万8900円だ。

 このフルサポート解除料の仕組みは、付与した購入サポート金額の回収前に端末買い換えができないようにするためのものだが、一方で、端末買い換えサイクルの長期化やハイエンドユーザーの不満を招く恐れがある。この問題を解決するため、KDDIはフルサポートコースにおけるauポイントプログラムを改訂、毎月の利用料が多いユーザーはポイント付与率が従来の最大3.5倍になるようにした。auポイントはフルサポート解除料と新たな端末購入のどちらでも利用できるため、“毎月の支払い総額の多い人は、ポイントでフルサポート解除料を相殺し、短期間で機種変更できる”のだ。

 「(フルサポートプランでは)うちの平均的なハイエンドユーザーならば1年半程度のポイント獲得で機種変更できる。そういう意味では、従来と大きく変わらない」(KDDI 執行役員 コンシューマ事業統轄本部長の高橋誠氏)

 KDDIではシンプルコースを積極的に選ぶ層はユーザー全体の約2割と予想しており、大半のユーザーがフルサポートコースを選択すると想定している。そうなれば、キャリア・販売会社・ユーザーにとって販売方法の変化による影響はそれほど大きくなく、キャリアと販売会社の関係では改善点の方が多くなる。特にKDDIは、端末販売に利用期間とポイント制度を組み入れることで、ユーザーのARPUに見合った端末購入支援ができるようになり、従来の販売奨励金制度にあった不公平さや無駄がなくなる。キャリアとしてのメリットは大きい。

auポイントも注目の改訂

 さらに「au買い方セレクト」では、改訂されたポイントプログラムも注目である。

 前述のとおり、フルサポートコースではauポイントの付与率が従来より上がる一方で、端末購入だけでなく、フルサポート解除料の相殺分として使えるようになった。今までどおり1年から1年半程度で機種変更したいユーザーは、おのずとauポイント還元を利用することになるだろう。auの中で、“ポイントが貯めやすく、使いやすい”環境になったのだ。

 これはポイント制度の会計基準が見直される中で、重要な改訂である。企業のポイント制度をめぐっては現在見直しのただ中にあり、国際会計基準に合わせて、従来のポイント付与分を引当金とする計上から、売り上げから繰り延べて負債とする計上に変更する動きが出てきている。そうなると、ユーザーが過度にポイントを貯め込む状況は会計上の売り上げが減少して負債が増えるという形になるので、企業にとってマイナスになる可能性がある。ポイント発行企業にとって、「ポイントを使ってもらう・貯め込ませない」仕組みは重要になってきている。

 その上で、今回のauポイント改訂を見てみると、フルサポートコースでは2年以内の端末機種変更でポイント利用が活性化するほか、ポイント有効期限は廃止されたが獲得ポイント上限が4万ポイントに定められた。ユーザーが過度にポイントを貯められず、適度にポイントを使う仕組みに作り替えられているのである。さらにフルサポートコースではauの中でポイント消費が活発化するため、他社とのポイント交換スキームで外部に流出するauポイントも抑制できる。

 今後、ポイントに関する会計基準や制度が変わっても、ダメージが少なくなるように腐心されているのだ。

 auの買い方セレクトは、販売奨励金をめぐる偏った批判をうまくかわしながら、従来方式の問題点を改善し、新たな時代に即した販売方式としてよく考え抜かれている。単純な分離型プラン・割賦性導入ではないので、販売方式変更による影響も少ない。きわめて優秀なソフトランディングのプランといえる。また、販売方式の変更に合わせて、ポイントプログラムも会計基準や今後の制度変化に先手を打っており、このあたりのKDDIの手腕は実に優れている。

 KDDIの新たな販売方式に対して、“後出し”になるNTTドコモはどのようなプランで対応するのか。次回はドコモが取れる選択肢について考えてみたい。

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