新聞崩壊――メディア企業が生き残るために必要な方法とは? 山口揚平の時事日想

» 2007年10月09日 14時39分 公開
[山口揚平,Business Media 誠]

 新聞業界を取り巻く環境が深刻になっている。C-NEWSの調査によれば、新聞の購読率は毎年じわじわと低下しており、2007年3月現在約75.6%。4人に1人は新聞を取っていない計算だ。

 “新聞離れ”は若者ほど進んでいる。40代でも新聞購読率は8割を切っており、20代に至っては62.0%。20代の3分の1以上は新聞を読まない状況である。このままだと、新聞をまったく読まない世代が生まれる可能性もある。

販売店の統廃合で事態は解決するのか?

 新聞業界は、今、崖っぷちに立たされている。ここにきて、もはや業界再編は避けられないであろう。

 業界再編が行われるとき、通常、真っ先に着手するのがコスト削減である。新聞事業のコストの多くを占めているのが、販売店への支払いである。新聞社が宅配から上げている年間販売収入は約1兆7500億円で、ここから販売店に対し、配達料6500億円と拡張補助金1500億円、合計8000億円が支払われる。つまり新聞の販売経費は、売上の40%〜50%に達するということだ。これは非常に大きなコストである。

 10月1日、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞の3社は共同記者会見を行い、新聞販売の業務提携を発表した(10月1日の記事参照)。すでに3社は販売店統合へ向けて動いているという。これまで、拡販や集金を担っていた販売店の発言力はきわめて強かったが、いよいよその「聖域」にメスを入れざるをえなくなってきたのだ。

 巨大新聞社のこれまでの強みは、全国の販売店網を持ち、月額で継続的に課金するしくみを握ってきたことにある。安定的な収益基盤の背景には、一度入ってしまえば簡単には解約しないという“習慣”と、「新聞を取るのは当たり前」という国民の基本的価値観があった。

 ところが、インターネットが普及し、ワンクリックでYahoo!で記事が読め、記事の検索も自由自在にできる今となっては、新聞配達というアナログの流通構造は、コストの足かせにしかならない。実際、新聞を読まない理由の実に52%は、「新聞で得られる情報はテレビやインターネット(以下、ネット)でも入手できるから」である。

 販売店の統廃合くらいでは、この事態は収拾がつかない。

朝日・読売・日経 VS. 毎日 VS. 産経の図式

 新聞に限らずどのような業界でも再編局面では、上位2社に絞り込まれ、後は小さく生き残るか消えてしまう。現在、大手の新聞社は、朝日、読売、日経、産経、毎日の5社だ。この中で生き残るのはどこだろうか?

 上位3社による、下位の産経と毎日の排斥はすでに始まっている。上述の発表会では、販売店統合だけでなく、インターネットを利用したニュース配信に関しても、朝日、読売、日経が共同でポータルサイトを立ち上げることが明らかになった。これは3社が全面的に統合して1つのメディアとなるのではなく、各社がバラバラに社説や記事を掲載し、読者がそれを読み比べられるものを立ち上げるという内容で、抜本的な提携ではない。

 だが、毎日・産経の2社は蚊帳の外であり、3社の思惑としては、まずはこの2社を追い出すことを目的としているようにも見える。実際に毎日新聞社は「毎日.jp」を、産経新聞社は「MSN産経」をそれぞれ10月にオープンさせた。

これからのメディア戦略はどうなるのか?

 このように、メディア業界の再編はすでに火蓋が切られた。この再編劇の中で生き残るためには、一体どのような戦略を描くべきだろうか? これに対する私の答えは、抜本的な組織変革である。

 現在のメディア企業の業務を大きく分けると、「一次情報の調達」、「編集・加工」、そしてそれを流す「流通 (テレビ、新聞)」の3つの業務で成り立っている。

 問題は、テレビにしても新聞・ラジオにしても、流通メディアとしての競争力がインターネットの台頭で低下していることにある。したがって、「流通」業務に価値を置くのではなく、情報の調達・編集・加工業務の価値を高めるべきである。

 さらに日本では、読売グループやフジサンケイグループなど、新聞・テレビ・ラジオといった複合メディアを持つコングロマリット(複合)企業が多いが、現状ではグループ内の各メディアがバラバラに記事やコンテンツを生成している。しかしこれでは情報の調達や編集・加工業務は重複が発生し、非効率的である。

 現状の組織構造を抜本的に改革し、以下の図のように従来の横串ではなく、縦串で業務を遂行するように組織を再編してはどうだろうか。

新聞が生き残るためには、グループ全体で考え、傘下のメディア各社を大規模に組織再編するしかないのでは

 テレビも新聞もラジオも、一次情報の収集や記事の作成・編集は一括して行う。そして、出来上がったコンテンツをメディア特性に合わせ、ラジオ、テレビ、新聞などの各メディアへと流す仕組みを、組織として作ってしまうのである。

 この場合、コンテンツのワンソース・マルチユースが基本となる。ワンソース・マルチユースとは、自社の保有するメディアだけにとらわれず、フリーペーパー、駅の液晶パネル、携帯電話、新幹線や飛行機などの雑誌など、あらゆる流通網にコンテンツを載せる(=販売する)ことである。この方法によって、自らはコンテンツ生成・加工業に特化し、経営資源を情報の収集と加工・編集というコア業務に振り向けることが可能となる。

 またこの組織体制を達成するためには、生成されたコンテンツをその権利を守りつつ、あらゆる流通網に機動的に流してくれる専門部署(流通管理部)が不可欠となる。

縦から横へ、横から縦へ

 業界の変革期に、組織構造を縦から横へ、あるいは横から縦へ、と変えることは珍しいことではない。たとえば製造業は、10年周期ぐらいで、事業部制と機能部制の組織を交互に入れ替えて環境の変化に対応する。

 今の複合メディア企業でも、各メディア特化型の横串の組織体制から機能特化型の縦串組織にどれだけ早く移行できるかが、今後の生き残りの鍵になるだろう。

 「『新聞』は要らないけど、『新聞紙』はあると便利」――などと揶揄されないよう、新聞社はいま、自らの存在意義と事業ドメインを本格的に検討すべき時期に入ってきたのだといえる。

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