いかに安全に走るか――全画面液晶化でインパネが変わる 神尾寿の時事日想:

» 2007年09月28日 10時47分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 9月27日、シャープが車載用として業界最高となる2500:1の高コントラスト比を実現した液晶ディスプレイの開発に成功したと発表した(9月28日の記事参照)。これは主に、スピードメーターや回転計などが納められる「インストルメントパネル(インパネ)」への利用を想定したもので、車載用途に必要な優れた耐久性と高い信頼性を保ちながら、「従来にない“深みのある黒”表示の実現により、インパネの黒色との一体感のある高品位なデザインが可能となる」(シャープ)のが特徴だという。

シャープが開発した「高コントラスト車載用液晶ディスプレイ」。インパネ利用を前提に、視認性・耐久性・信頼性を重視したという。右は夜間走行時のナイトビジョン映像を表示したサンプル例

 クルマにおける液晶パネル利用というと、これまではカーナビゲーションと、後席用DVD/TV用モニター(リアエンターテイメントシステム)が中心だった。どちらも1999年以降から急速に需要が伸びており、画面サイズの拡大や高精細化・高画質化のニーズも高い。カーナビ、リアエンタテイメント向け液晶パネル市場は堅実に成長している分野だ。

インパネに「第3の車載液晶」需要

 カーナビ、リアエンタテイメントに続き、自動車業界内で注目されているのが、インパネ内のマルチ・インフォメーション・ディスプレイ(MID)だ。カーナビが「地図とルート案内」という航法支援がメインなのに対して、MIDでは直近交差点情報や路面状況および横滑り防止装置作動状況などの安全支援情報、車間距離維持システム情報、赤外線暗視システム「ナイトビジョン」映像などを表示する。“運転支援システムのディスプレイ”という位置づけだ。

 クルマの先進安全システムの世界では、現在、ドライバーに様々な安全情報を提供する「インフォメーションセーフティ」と呼ばれる予防安全分野の技術開発が積極的に行われており、それに比例して、ドライバーに届けなければならない情報量が増えている。それに伴い、インパネ内の情報表示量拡大ニーズが高くなり、必然的に、MIDの大型化と性能向上が求められているのだ。

 実際これまでのMIDの変遷を見ても、当初は“警告ランプの代わり”程度だった小型のMIDから、近年にはアウディやフォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、レクサスなどが、より大型化したMIDを搭載するようになった。今のところインパネの全面液晶化・フルサイズMIDを搭載したクルマは存在しないが、表示すべき情報量の増加と画面レイアウトの自由度を鑑みれば、その潜在需要自体は確かにある。

 車載に適した信頼性と耐久性が認められれば、高級車から採用が始まり、デバイス価格の低下に伴って普及していくだろう。シャープを始めとする液晶メーカーがこの分野に着目するのは自然な流れであり、市場拡大の可能性は非常に高い。また、インパネの全面液晶化・フルサイズMIDによる表示情報量の増加は、波及的に車載センサーやカメラなど“情報を取得するデバイス”や、車車間・路車間通信システムの需要拡大にもつながるだろう。

東芝が開発した車載用液晶ディスプレイ(イベントで参考出展されていたもの)。状況に応じて表示内容を変えられるのが特徴だ

アウディA8のMID。スピード計と回転計の中央に、比較的大型のMIDが搭載されている。MIDにはオーディオ情報やナビのターン・バイ・ターン(交差点針路)情報などが表示される。車間距離維持システムで設定した速度や前方車距離の情報表示はスピードメーターに組み合わせるなど(右写真)、現行車ではMIDと旧来UIとの協調が試みられている

レクサスIS現行車のMID。メーター内に小さなモノクロ液晶があり、車間距離維持システムのセンサー情報などを表示する

インパネの全画面液晶化は、クルマのUI変革の第一歩

 クルマのUIは、「走る・曲がる・止まる」という自立走行の時代からそれほど変化していない。しかし、今後の安全技術のトレンドはインフォメーションセーフティであり、そこではセンサーやカメラ、車内外のネットワークから送られてくる情報を、ドライバーにいかに届けるかが重要になる。クルマのUI、特に表示系UIは変化していかなければならないだろう。その大きな一歩となるのが、インパネの全面液晶化なのだ。シャープをはじめとする液晶メーカーと、採用する側の自動車メーカー。どちらの動きにも注目である。

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