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» 2007年09月25日 11時01分 UPDATE

山口揚平の時事日想: 株主優待も配当も要らない!?――“よい企業”を見破る2つの数字とは

株主優待が欲しいから、あの企業の株を買おう――よくある“株購入のきっかけ”だが、本当にそれでいいのだろうか。企業の事業戦略を見るときに、目安になる数字が2つある。それは「6.96」と「3.65」だ。

[山口揚平,Business Media 誠]

 普段、私たちは単に業績のよい企業に投資すればいいのだと勘違いしてしまいがち。しかし本当によい企業とは、事業戦略(ロマン)と資本政策(ソロバン)をうまく組み合わせている企業だ(5月29日の記事参照)

 今回はソロバン――つまり「資本政策」という観点から、本当によい会社とは何かを考えてみる。

株主優待も配当も要らない!?

 投資を始めたばかりの個人投資家が投資判断の際に重視するのは、「配当」と「株主優待」ではないだろうか。しかし実は、これを重視するのはあまり適当とはいえない。

 まずは株主優待について考えてみよう。株主優待をもらえるのは喜ばしいことだ。しかしその原資はいったいどこから出ているのか、考えてみてほしい。

 株主優待の原資は、もともと株主が受け取るはずの利益である。その株主優待を株主が受け取るということは、タコが自分の足を食べているのに等しい。株主としては、物品を受け取るよりも、その分を現金で払い戻してもらった方が本当はハッピーではないだろうか?

 ちなみに株主資本主義国のアメリカでは、基本的に物品や金券を株主に配る株主優待制度というものは一般的ではない。そんなものを配るくらいなら利益還元すべきと考えているからだ。

 同じように、配当が高いということも手放しでは喜べないことである。なぜなら、それはその企業が今後、成長しないかもしれないということを意味しているからである。

 企業が配当をするのは、「短期の利益分配に預かりたい」という個人投資家の欲求を満たすという側面がもちろんあるが、より厳密にいえば「自分が株主のお金を預かり続けて事業投資に回すよりも、株主に還元したほうが株主のためになる」と考えているからである。

 つまり自分たちの事業では株主が納得するようなリターンを上げられないと考えた時に配当をするのである。

目安の数字は2つ――6.96と23.65

 では、企業の配当額はどれくらいが妥当なのだろうか。

 ある企業の配当額が妥当かどうかを見るには、その企業の資本の効率性を表すROEと、企業が生み出した利益のうち配当に回す割合を示す配当性向のバランスを見るとよい。ROEと配当性向は、以下の式で表される。

ROE=利益÷株主資本

配当性向=配当÷利益


 企業は、自社のROE(資本効率)が高ければ、配当はしないで事業にお金を回したほうが株主のためになるし、逆にROEが低いのであれば、配当して株主に還元したほうがいいということになる。

 これを表したのが、下の図である。

ay_yy1.gif ROEと配当性向によって、企業の状態は4つに分けられる(クリックすると図の全体を表示)

 今の日本では市場全体の3期平均ROEの中央値は6.96%、3期平均配当性向の中央値は23.65%となっている。この2つの数字を境にして線を引くことで、企業を4つのグループに分けることができる。

 以下、それぞれのポジションの特徴を見ていこう。

資本効率(ROE)と株主還元率で企業を見る

 まず図の右上のAの企業は、高成長で高配当な企業である。つまり、ROEが高いにも関わらず配当性向も高いケースだ。

 ROEが高いため、基本的に現状の事業展開は上手くいっているといえるが、配当性向が高いということは、すでに還元を始めているということを意味する。

 ビジネスモデルや戦略にもよるとはいえ、一般的にこのタイプの企業は、株主に還元するよりももっと事業に投資をしてさらに稼ぐほうが、長期的に見れば株主にとって喜ばしい。

 例えば近年のマイクロソフトは、配当の支払いを始めている。もともとマイクロソフトは高収益企業だが、Windows OSが世を席巻した後、主な投資プロジェクトや投資先企業がなくなり、お金がじゃぶじゃぶに溜まっている状態である。マイクロソフトは今新たな投資先を探している。

 同じく高成長だが、低配当の位置にあるのが図の左上のBグループ。これは、投資ステージを快走する成長企業群である。事業にお金が必要なため配当に回さず、どんどんと事業投資を加速させている企業といえる。例を挙げると、現在の米グーグルなどはこのBグループに入る。入ってくるお金よりも出て行くお金のほうが多い、積極的投資状態にあるのだ。

 現在のキャッシュはともかく、将来の事業発展の可能性という観点で比べると、マイクロソフトとグーグルでは後者に軍配が上がりそうだ。

買収にあう危険性が高い企業とは?

 逆に、収益効率が低い企業はどうだろうか。図のC、Dに注目してほしい。

 Cグループは、ROEも配当性向も、いずれも低いケースである。これは、資本効率の悪い企業が内部にお金を溜め込んでしまっている企業である。このグループに入る企業には、業界自体は成熟(もしくは衰退)しているのだが、引き続き投資や研究開発(もしくは、老朽化した設備の修復)に積極的になっている企業が多いのが特徴といえる。

 例えば、最近の広告業界の博報堂などはROEが3期平均で5%程度で頭打ちになっている状態だが、配当性向は3期平均で20%台と低めに設定してある。博報堂はそれに当たらないが、配当を行う代わりに、預金を行ったり有価証券(主に債権)を取得する企業もあり、投資家泣かせな行動を取る会社は多く残っている。

 このような企業は、株価が下がってくると、その眠っている資金を狙った買収にあう可能性もある。

 一方、Dグループの企業は、成熟し低成長しており、そのために還元を進めている企業である。事業構造が固まってきて、追加の資本が必要なくなり内部にお金が溜まって還元が可能になった企業群はこのエリアに入る。

 例えば、キユーピーなどは、ROEが3期平均で3%弱と成長が鈍化している半面、配当性向は3期平均で50%を超えており、株主への還元に力を入れていることが分かる。

本当によい企業とは?

 以上見てきたように、企業はその事業の発展段階や事業戦略によって、配当すべきかそうでないかは異なるということだ。

 短期的な視点に立つ株主にとっては、配当や株主優待はうれしい贈り物かもしれない。しかし、やはり投資というものは、本来、長期的視野に立って、価値を創造し続ける企業に投資することだと思う。

 短期的な分配を求めると、毎月分配型の“グロソブ”のような高コストの投資商品に手を出して失敗するのがオチだ。

 本当によい企業とは、事業戦略(ロマン)と資本政策(ソロバン)をうまく組み合わせ継続的に発展してゆく企業である。そのような企業を見つけ、じっくりと時間をかけて投資をするのが、株式投資の真の醍醐味といえないだろうか?

 次回は、事業戦略と資本政策について、具体的な企業を例に挙げながら見ていこう。

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