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» 2007年09月11日 09時35分 UPDATE

山口揚平の時事日想: 投資に成功するために必須の情報とは――IRに聞くべき、電話口での7つのポイント

個人投資家にとって、会社の生の情報を手に入れるための重要な手段が「IRに電話をすること」。プロの投資家はIRにどんなことを聞いているのか? IRに聞くべき7つのポイントを紹介しよう。

[山口揚平,Business Media 誠]

著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 時に株式投資では、情報力の差が利益の差を生むことがある。個人投資家の情報源は限られているが、その中でもっとも「生」に近く、有効な情報は、会社に電話をして直接手に入れた情報だ。

直接電話をすれば、会社の「現状」「将来」「雰囲気」が分かる

 筆者は個人投資家に、投資したい対象の会社の情報を得る有効な方法として、IRへ電話することをお勧めしている。

 しかしそうは言っても「IRへ電話するのには戸惑いがある」「色々聞いてみたいが、何をどう聞いたらよいか分からない」といった声は多い。そこで今回は、IRに何を聞くべきか、具体的な質問を紹介しよう。

 会社のIR(Investor Relations)担当に電話インタビューするメリットは、3つあると筆者は考えている。「現状が分かること」「将来が分かること」「雰囲気が分かること」の3つだ。

1:現状が分かる

 決算短信や有価証券報告書を読み解くことができれば、ある程度、企業の現状は把握できる。しかしビジネスをより理解するには、その会社に実際に聞いてみるのが一番だ。その会社の製品や顧客の特性について、詳しく聞くことにより、その会社の将来性を自分で判断できるようになる。何をやっているかよく分かっていない会社の株を持っている個人投資家は多いが、それでは、投資で失敗しても文句は言えない。

2:将来が分かる

 会社が将来どのような方向を向いているのか、そのためにどのような手を打っているのか――これは直接問い合わせなければ分からない。会社の戦略が明快で、それが現場まで降りている企業は強い。逆に、将来についての質問をぶつけたとき、自分の腹に落ちる良回答が得られなければ、その会社への投資は控えるのも手かもしれない。

3:雰囲気が分かる

 相手の電話口の声色から把握できるのが、その会社の“文化”だ。特に株主に対する姿勢は、担当者の声色に如実に表れると考えていい。「面倒だな」という雰囲気が声に出ている会社は、株価対策もずさんですし、株主還元を積極的に進めることもないだろう。実はこれこそが、IRに電話する最大のメリットといえるかもしれない。

実際に聞くべき7つの質問

 それでは、さっそく電話をしてみることにしよう。電話番号は、決算短信や有価証券報告書の1ページ目に出ていることがほとんどだ。「私は、投資家の者です。御社の株式の保有を検討しておりますが、いくつか質問がございます。IRの方につないでいただけますか?」と言えばいいだろう。

ay_yy01.gif IRに聞くべき7つの質問

 具体的にどのような質問を投げかけるといいのだろう? 筆者が聞いているポイントは以下の7つだ。それぞれの関係は、以下の図で表される。

  1. 近い将来
  2. 財産
  3. 投資
  4. 資本政策
  5. 競争力
  6. 戦略
  7. 遠い将来

1:近い将来

 近い将来とは、今期・来期の業績のことを指す。会社が出している予想に対する進捗度などを聞けばいい。聞き方としては、「今期は、予測どおり行きそうですか?」ではなく、「今期の業績に影響を与えそうな要因は何でしょう?」と聞き、その要因そのものが今どうなっているのかなど、間接的に状況を確認したほうが相手も答えやすいはずだ。企業の担当者は、すべての投資家に対して同じ情報を提供する義務があるため、間接的な質問のほうが答えやすく、より具体的な答えが返ってくる可能性が高い。

2:財産

 日本の企業には、財産を内部に溜め込む傾向が強い企業が多いように思う。バランスシート(貸借対照表)を読める人であれば、何が財産で、何が財産でないかが分かるが、より詳細に知るためには、直接聞いてみるのもいい。

 例えば「現金のうち、事業の運転資金あるいは、将来の投資のために必要な部分はどの程度ですか?」と聞けば、残りの資金は、事業遂行に直接関係のない財産だと分かる。

3:投資

 将来の成果は、現在の投資の上に成り立つもの。そのため、企業の投資の傾向を把握することは有効な手段といえる。

 企業が過去に行ってきた投資(設備投資やM&Aなど)とその成果、また今後の投資計画をIRに聞くことで、将来の業績を予測することができる。過去の投資については、決算書の投資キャッシュフローの欄を見ながら、その投資がどういう性質であったかを企業に問い合わせると良いだろう。

 投資については慎重に確認する必要がある。例えばあるメーカーでは2期連続して好業績をあげた後、自社ビルを建設した。自社ビルは、事業投資の1つだが、収益が大幅に向上する性質のものではない。結果として、その会社の収益性は大幅に低下した、といったケースもあるからだ。

4:資本政策

 資本政策とは、会社が事業を行なうためにどのようにしてお金を集め、どう使い、成果をどう配分するかの方針のことだ。

 ここで具体的に聞くべき内容は、株主に対する還元策である。株主還元には、「増配」「自社株買い」などがあるが、これらの実施の可能性をそれとなく聞いてみるといいだろう。財産を内部に溜め込み、目立った事業投資も行なわない上、還元も進めないようであれば、その会社の将来は暗いといえる。

5:競争力

 競合する会社の名称(3〜5社)と自社の競争力の源泉について質問をしてみよう。

 この質問に対するよくある答えが、「うちは競合相手がいない」というもの。しかしこのような会社は、自社に対する意識が強すぎ、周りが見えていないケースが多いようだ。逆に具体的な競合名をはっきり挙げ、それら企業との特徴・方向性の違いをはっきり明示できる企業には将来性があると言えます。

6:戦略

 戦略とは、企業が業界の将来をどう捉え、結果として、自社をどういう方向に導くかという指針を意味する。まずは、社外・社内で起こっている主な変化とその対応策を聞いてみよう。組織変更や業界のルールが変わっていることなどについて聞いてみて、その答えが納得できるようであれば、その会社へ安心して中長期的な投資を行えるはずだ。

7:遠い将来

 最後に確認したいのは、企業が目指している長期的目標(ビジョン)だ。長期目標がトップから現場レベルまで降りている会社は強い。その会社が具体的な目標を持ち、それをどうやって達成しようとしているのか、を確認しましょう。

それぞれの項目の位置づけを意識して質問することが大切

 以上が、貴重な「生」情報を手に入れるためにIRに聞くべき7つの質問項目だ。より詳しい方法を知りたい方は、「個人投資家のためのIR質問マニュアルレポート」を見てほしい(参照リンク)

 質問するときに大事なのは、それぞれの質問項目がどのような位置づけにあるかを意識しながら聞いていくことだ。

 たとえば戦略や遠い将来について聞くことは、その会社の中長期的な業績に影響を与える要因を確認することだし、逆に、財産の内訳や今期の業績進捗度は、近い将来を予測することを意味する。

 自分が知りたいのは何か? それを意識しながら、自分の投資スタイルに合った質問を投げかけるように心がけよう。

質問の3つのコツ

 最後に、いくつか質問のコツを挙げておこう。

 1つ目のコツは、できるだけ具体的な質問を投げかけること。例えば「来期はどうですか?」と聞くよりも、「来期の利益10億は保守的な数字ですか?」という質問のほうが具体的だ。

 2つ目のコツは、個人的な信頼関係を築くこと。IR担当者も人間なので、誰に対しても杓子定規に答えることはしないはず。なるべく気分よく話してもらうように意識して質問しよう。例えば、企業の短所を聞くよりも、まず最初に長所を聞いたほうが、聞かれた方にしてみれば気分よく答えられるはずだ。質問内容も、来期の業績や直近のニュースなど、相手が答えやすいと思われることから聞いていくほうが答えやすい。

 また相手の名前をたずね、「○○さんはどう思われますか?」と聞くことも大切だろう。、相手の主体性を引き出し、IR担当者の言葉にあいづちを打つことで気分よく話してもらうことができる。

 3つ目は「企業と自分とは対等のパートナーである」という認識を持つこと。リスクを負う投資家が企業に疑問点を投げかけることは、おかしいことではなく、当然の行動だからだ。また逆に、投資家だからといって高飛車な態度に出るのも不自然である。投資家と企業は、社会に価値を出そうとしている同等のパートナーであると認識し、自然な形で質問をしてみよう。

 投資に先立ち、会社に電話するという行動は、最初は戸惑うこともあるかもしれないが、やってみれば、徐々に慣れてくるはず。是非、チャレンジしてみてほしい。

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