9月4日、全日本空輸(ANA)は松山空港のeチケットサービス「SKIPサービス」への全面移行を開始した(7月10日の記事参照)。4日から空港内に新機材が順次整備され、9月7日にはすべての利用者がSKIPサービスを利用する形になる。
SKIPサービスは、FeliCa内蔵のANAマイレージカードもしくはQRコードを従来の航空券や搭乗券の代わりとして使うサービスであり、ANAでは2006年から導入、対応空港を拡大してきた。今回のSKIPサービス全面移行では、松山空港を皮切りに全国の空港設備を刷新。2007年中にはANAの国内線すべてで、従来からある磁気ストライプ入りの紙の航空券・搭乗券からSKIPサービスの利用に切り替わる予定だ。
愛媛県にある松山空港は、年間利用者が約270万人。そのうちANAの利用者は約160万人という地方空港だ。四国でも有数の観光地である松山市と、造船・製紙・化学・電機などの産業を抱えており、松山空港は観光とビジネスの両面で利用されている。この松山空港で初めてSKIPサービス全面移行が始まることについて、全日本空輸松山支店支店長の森田恭寛氏は、「搭乗手続きの簡略化や時間短縮につながる取り組みであり、お客様の利便性が向上することに強く期待している」と述べる。
また、ANA全体でみても、松山空港はSKIPサービス全面移行を始める上で最適な空港だったという。
「松山空港は悪天候による欠航などイレギュラーな運航が少なく、かつ路線間の乗り継ぎが少ない。全面移行のプロセスを検証する上で、最適な空港です。さらに松山空港スタッフも協力的で、全面移行を進めやすかった」(全日本空輸オペレーション統括本部旅客サービス部主席部員の山本正人氏)
今回のSKIPサービスへの移行にあたり、スタッフ教育を担当するANAエアサービス松山では地上職員を中心に1カ月半の研修を実施。さらに今後1ヶ月間は他空港のSKIPサービス導入を停止して、サポート要員を松山空港に集めるという。「全社を挙げて松山空港をフォローし、そこで得られたノウハウを今後の全国展開に生かす」(山本氏)考えだ。
「“タッチして公共交通に乗る”ことは、電車やバスを中心に広く広がってきている。ANAはSKIPサービスによって、“タッチで搭乗するスタイル”を定着させたいと考えています。また世界の航空業界を見ても、eチケットへの移行は確実な流れです。我々は世界で初めて、eチケットへの全面移行をSKIPサービスで行います」(山本氏)
SKIPサービスに代表されるeチケットでは、搭乗手続きの簡略化による利便性向上や手続き時間の短縮ができるのはもちろん、利用便の変更や座席指定がPCやケータイから簡単にできる。磁気ストライプ式の航空券のように、発券後は窓口に並ばないと変更できないという手間はない。さらに欠航などイレギュラーな状況になっても、「(係員のいる)窓口に並んでいただかなくても、利用便の振替手続きなどができる」(山本氏)メリットがあるという。
しかし、その一方で現在のSKIPサービス利用率は、平均で14〜15%にとどまっている。一般的に利用されているのは、やはり磁気ストライプ式の航空券という現状である。今回のSKIPサービスへの全面移行に伴い、利用層拡大と利用率向上のために、ANAはどのような工夫をしたのだろうか。
「現状のSKIPサービス利用率が低い理由としては、同じ国内空港でも『利用できる空港』と『利用できない空港』があり、分かりにくいという問題があります。今回の全面移行に伴い(ANAが乗り入れる)全国の空港がSKIPサービス対応になりますので、この分かりにくさは解消されます。
また、お客様がSKIPサービスを利用しない理由を調べたところ、その理由の35%が航空券がないと『手荷物が預けられない』ことでした。こちらも(全面移行によって)改善されますので、今までよりもサービスが利用しやすくなります」(山本氏)
他にもSKIPサービス用の自動チェックイン機や航空券販売機のユーザーインタフェースを見直し、“かざす場所”を1カ所に集約しながら液晶画面の大型化を図るなど、機材面での改良が行われた。細かい部分では、これまでSKIPサービス搭乗時に手渡される座席番号が記載された紙が大きくなり、座席番号がはっきりと印字されるようになった。これにより従来の搭乗券の半券と比べても座席番号の文字は見やすくなっている。
「これまでのSKIPサービスでは、利用者の多くがANAマイレージクラブの会員で、FeliCaの利用率が9割でした。しかし、今後の利用者層拡大では、QRコードの活用を考えています。その上で、ANAマイレージクラブへの入会、(FeliCa)カードでのSKIPサービスご利用を訴求していきたい」(山本氏)
また、SKIPサービス端末は国内でANAが利用するQRコードだけでなく、今後、世界的に普及が見込まれる国際2次元バーコードにも対応済みだという。そのため、海外でeチケットが広がれば、国外発券された2次元バーコードのチケットにも対応できるという。
松山空港での移行初日を見たところ、東京や大阪など各地に向かう便で、トラブルや混乱は見られなかった。地上係員のサポート体制がしっかりと用意されていることもあり、初めは戸惑っていた利用者も、説明を受ければ“かざす”という使い方に困惑はないようだ。松山は、市内を見れば伊予鉄道のICい〜カードの利用率が50%を超えており(2006年9月の記事参照)、東京と行き来するビジネス客は都内のSuica/PASMOに慣れている(3月18日の記事参照)。地元住民も含めて、“かざす”行為は見慣れているといった印象だ。
「7日まではSKIPサービスに完全移行していないということもあり、今朝の羽田行きは満席状態でSKIPサービス利用率が20%強でした。しかし、お客様の混乱がなかったことを考えれば、『順調な滑り出し』といっていいでしょう」(全日本空輸松山空港所所長の後藤順幸氏)
松山空港では7日にSKIPサービスに完全移行した後、約1カ月間のトライアル運用に入る。その後、全国の空港がSKIPサービスに移行していく予定だ。なお、羽田空港のSKIPサービス全面移行は、「お客様の乗り継ぎが非常に多い空港ですので、(移行スケジュールの)後半になります。おそらく12月に入ってからになるでしょう」(山本氏)
ANAが始めた“世界初”のeチケット全面移行。航空業界の先進的な取り組みとしてはもちろん、FeliCaおよびQRコードの大規模な活用事例としても注目である。今後の全国展開を期待をもって見守りたい。
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