レンタルショップ対決・最終回――TSUTAYAとGEOが舵を切る方向とは?山口揚平の時事日想

» 2007年09月04日 00時00分 公開
[山口揚平,Business Media 誠]

著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に『なぜか日本人が知らなかった新しい株の本』など。


 今週は、「レンタルショップ対決」と題してTSUTAYAとGEOを比較する企画の最終回だ。これまで2回にわたって、両社の状況を財務と事業の両面から分析してきた。前回まででGEOのビジネスの本質は不動産機能にあり、一方のTSUTAYAは会員の獲得が企業価値の基盤であることを述べた。

 不動産と顧客マネジメント――両社は、同じレンタル事業を行っているようにみえて、中身はまったく異なる方向を向いているのだ。

レンタルショップ対決――TSUTAYAとGEO、2社の決定的な違いとは?

続・TSUTAYAとGEO、レンタルショップ対決――注力するのはハードかソフトか

レンタル市場はこれからどこへ向かうのか?

 最終回となる今週は、両社の行く末を考えてみたい。投資とは、その企業の将来に賭けることだからだ。まずは投資をしようとしている企業――DVD/CDレンタル事業の市場そのものが今後どうなるのかを考えてみよう。

 下図をご覧いただきたい。

映像コンテンツのメディアはDVDやVOD(ビデオ・オン・デマンド)、流通方法はセル型へとシフトしている

 縦軸には、どのようなメディアが主役になるのか、横軸にはコンテンツの流通形態を取って、レンタル事業の今後の方向性を考える。このような任意の2軸を使って、事業展開の方向性を考える手法を「シナリオ分析」という。

 市場動向分析で考察したように、レンタル市場はビデオの時代が終わり、DVDが主流になっている(8月21日の記事参照)。店舗型でビデオを提供している中小チェーンは廃業に追い込まれ、店舗型のDVDレンタルも市場は縮小傾向にある。

「TSUTAYA DISCAS」は、ネットでDVDやCDを予約し、郵送で返却するというスタイル

 このようなレンタル市場の状況に対し、実はセル(販売)型の事業が隆盛してきている。セル型DVDは、価格の低下を背景にしてコンビニやLDショップを中心に広がりを見せつつある。最近のDVDは、コンビニなどで1980円で販売されている。1980円とは、レンタル代金(1週間400円)の約5倍なので、返却の手間や所有感を考えると購入してもよい、と感じられるレベルである。

 このような状況でTSUTAYAは郵送型での展開を図りつつあるが、その潜在性は未知数だ。

 では、その後はどうなるのだろうか? デジタルコンテンツは、オンラインでPPV(見た分だけ払う形式)に統合されていくだろうと筆者は考えている。結局、デジタルである以上、最も相性が良いのは、ネットでダウンロードができる仕組みだからだ。現在はまだ、通信インフラの問題が多少残っているが、これも光接続のブロードバンド環境が普及すれば早晩解決されるだろう。

レンタル業界の2強は異なる方向へ

 以上のような市場背景を基にして、TSUTAYAとGEOの事業展開の方向性を考えてみよう。今度は、両社の展開の方向性を事業内容と提供方法の2軸で考える。

TSUTAYAとGEOの方向性と事業内容の展開

 現在は、両社とも店舗でデジタルコンテンツ(レンタルDVD)を取り扱っているが、両社のこれまで見てきたビジネスシステム上の強みなどを勘案すると、今後は異なる方向に向かうだろう。

 TSUTAYAは、システム関係やウェブ関係、デジタルコンテンツ関係の会社を次々と買収している。このためコンテンツ事業を中心にWebベース(TSUTAYA online)で事業を展開していくはずだ。TSUTAYAにとっては店舗ではなく、会員こそが事業基盤であるため、店舗戦略は大型化を志向し、そのほかはフランチャイズで展開するなど、店舗展開に大きなこだわりはないはずだ。

 一方のGEOは、「地方中心に築きつつある強固な店舗ネットワーク」と、「コンテンツ事業の店舗での提供の限界」という矛盾を抱えている。先述のようにコンテンツ事業は店舗販売にそぐわないからだ。

 では今後のGEOは、店舗とコンテンツ、どちらを軸に事業展開をするだろうか? GEOの強みをベースとすれば、答えは「店舗」だろう。つまりGEOの方向性は、これまでに培った店舗開発力を生かして、デジタルコンテンツではなく、リアルコンテンツ事業を展開すると想定される。

 具体的には、フィットネスやアミューズメント事業などが考えられる。これらの事業は、現事業との相関性が高い。事実、GEOはアミューズメント施設を運営するシチエと2004年に提携を結び、昨年の12月にはアミューズメント施設の1号店をオープンした。その意味では、以上の分析はおおよそ的を射ていたといえる。

 さて、以上のようにして、飽和・縮小するレンタル業界の2強は異なる方向に舵を切るはずである。数年のうちに両社の競合は減り、それぞれの事業ドメインで活躍するか、あるいは新しいドメインで覇権を握れない場合(実際、その可能性は高いと思う。なぜならすでにそれぞれの領域には、新しい競合が控えているためだ)、淘汰される可能性が高い。

 両社への投資の可能性があるとすれば、それぞれの戦略的展開の成否の兆しが見えたころだろう。具体的には、各新規事業での営業キャッシュフローがプラスに転じたときである。

企業の現状と将来に対し、投資をしたいかを問う

 さて、3回にわたってレンタル事業の雄の2社を分析してきたが、最後のまとめをしたい。

 まず、企業は単にその事業形態だけを見ても意味がなく、その本質を掘り下げて考える必要があるということ。GEOやTSUTAYAの比較で分かったように、両社は同じレンタル事業を展開しつつもまったく別の強みを持ち、展開の戦略も異なるわけだ。

 それから投資とは、株価を予測することではないということだ。投資とは、企業の現状を見つめ、その将来を洞察し、それに対して自分のお金を預けたいか、ということを問う作業である。

 企業分析は、簡単ではないが、すべての情報が集まらなくても、企業を動かしているメカニズムを類推することができる。要は「自分の頭で考える」ということが大事である。

 今回紹介したように、財務分析やビジネス分析のフレームワークを使うことによって、分析力を上げることができる。大切なのはさまざまな切り口、分析の枠組みを持つことだ。また企業分析は、時間がかかるために敬遠されがちであるが、投資において最も重要なポイントは、「企業を理解すること」である。「急がば回れ」の精神でぜひチャレンジしてほしい。

 なお今回の分析は、私の主催する会員制フォーラム「企業価値を見抜いて投資する会」(シェアーズフォーラム)のケースで用いたものである(参照リンク)。シェアーズでは、100万人に正しい投資知識を提供することを目的に、一生使える企業分析のための情報と知識を提供している。株式投資や企業分析に興味を持たれた方は、ぜひ一度いらしていただきたい。

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